戒め

D2

「・・・っ、ぅあ・・・」
夜、時々起こることだ。
たまに彼はうなされることがある。
きっと、本人も気が付いてはいるはずだ
汗だくで、すごく苦しそうにしている。
仮面を外しているからその表情は意外とはっきりと見えて
「・・・ぃや・・・、」
「・・・はぁ。」
「はっ・・・ぁ、も・・・」
これがもしカイルとかだったら、たぶん俺はすぐに起こしているだろう。
だけど。
「スタッ・・・、・・・ないっ・・・」
そいつがジューダスとなると、また別だ。
アイツは関わられることを嫌う。
たぶん、18年前の事があるから。
ジューダスの正体は、もう皆が知ってる
それでも、なにかを隠しているような気がする
だが、それは俺にはまったくわからない
話してくれなければ、彼の場合は特にわからない。
だけど、いつも最後のほうに聞く言葉は、なにかを本気で訴えてるような気がする
「殺して・・・くれっ・・・」
でも、俺にはどうしようもできないんだ



――「感動の再会だ」――

体が、勝手に動く。
止めたくても、止められない。
意識はあるのに、話すことも、自分の意志で行動することもできない。
操り人形のように、奴の言うことをきいている。
シャルも、鉛のように重く感じて
意志も、なにも感じなかった。
“いやだ、やめろ・・・”
思ってもどうすることもできない。
「リオン!」
「・・・」
“もう・・・やだ・・・”
スタンたちに剣を向けたくない。
もう、向ける理由なんて、力なんてない。
そう思っていても
目の前にいるやつらに向けたシャルを、おろすことは出来なかった
「そんな・・・」
「ミクトラン!お前・・・」
「ふふふ・・・こいつはもう、生きた屍だ。」
「リオン君!」
「リオン!いや、生きた屍よ、こいつらを殺せ!」
そう、言われたとき、体は瞬時に反応してしまった。
感じていたシャルの重みも感じず、ただ、シャルを振った。
いやだ・・・もう・・・
・・・“スタン、姉さん、すまない”
「ラクニシテクレ、ボクヲ、ハヤク・・・」
「リオン・・・?」
「コロシテクレ、ボクヲハヤク!」
思いっきり叫んだ言葉は、口からするりと出た。
もう・・・いいから・・・
願ったとき、ずるりとアトワイトが僕の体突き刺さった。



「・・・っ!」
急にジューダスが起き上がった。
汗を酷くかいていた。
呼吸も荒い。
「はぁはぁ・・・、・・・ロニ・・・?」
「お、おう・・・、まだ早いぞ?」
体を起こしていたから、起きていた、見ていたなんて一目瞭然
「・・・随分うなされていたな。」
「・・・別に」
俺等の間に沈黙が続く。
こういう間は、どうしたらいいのかわからなくなるから苦手だ。
俺はジューダスが多少落ち着いてきているのを見るとそのまま布団にもぐりこんだ
昼間の戦いの疲れだって、いやさないといけない
さっきまでは気にかかって寝付けなかったが、今回はすんなりと眠気が襲ってきた

「・・・」
まだ、ばくばくと心臓がなっていた。
こんなのは、本当はしているはずなかったのに
二度目の、あの時
スタンたちに剣を向けた、あの時がまだ、戒めとして僕を縛る
結局は、過去は完全に断ち切れてない訳だ。
ぐーすか眠るカイルと、さっきまで起きていたロニを起こさないように
そっと体を起こし、部屋を出た。

「・・・あら、あんたどうしたの?」
宿をそっと抜けだし、どこかで頭でも冷やそうかと思ったら、ふとメンバーの声が聞こえた
裏道に続く小さな道
そこの石の上に彼女はちょこんと座っていた
「・・・ハロルド。」
「なに、あんたも眠れないわけ?」
とんとん、と隣を促され、仕方なくその場所に座る。
「ま、よくあんたが夜に出るのは知ってるけど、まさか会うとはね。」
「お前こそどうした。こんな遅くに」
「寝れないのよ。あ、そうだ。散歩に付き合ってよ」
眠れない、というのはきっと嘘ではないだろう
でも、おそらくつい先日の出来事があるせいだ
双子の兄、カーレルの死
そう簡単に割り切れることもできないはずだ
「いいでしょ?」
そういってじっと、顔を見られる
別に断る理由は存在しない。
口には出さず、軽くうなずいた。
「じゃ、行きましょうか」
そう言って軽く腕をつかむハロルドに、とくになにをすることもなくついていった。

2010.08.03.

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