なりきりダンジョン(GB版)

ざーざーと外では雨が降り、雷も鳴り始めている。
私は、外に出ることも叶わずに家にいた。
数時刻前、この家に一緒に住む子供たちは買い物に出かけていた。
時空転移、そうして精霊の試練という物を受けている子供たちは、たびたび買い物で家を空けていた。
最も、時空転移をするのはこの家からなので、子供たちがどこかに姿を消すということもない。
それに、あの子たちは私に無断で居なくなるようなことはしないだろう。
それは私の願いでしかないのだけれども。
しかし、外のこの雨では子供たちは帰ってこれないだろう。
街にある宿にでも泊まるはずだ。
この雷雨では傘もあまり意味を成さない。
雨水が入ってこないように雨戸を閉め、子供たちの部屋の窓が開いていないかを確認する。
雨水が入ってしまえばこの家にある家具や本、子供たちの服などがびしょ濡れになってしまうだろう。
子供の、ディオの部屋の窓が開けっ放しなのを見て、それを閉める。
もう1人の子供のメルの部屋の窓はしっかりと閉まっていた。
雨のせいか、空気は冷たく今の状態でも少々寒いと感じる気象だった。
ディオの部屋から入った空気も関係しているのだろう。
窓が閉まっていたとしても、部屋の中は少々ひんやりとしていた。
メルの部屋を後にして居間へと戻る。
台所へと入り、飲み物を入れる。
子供がいるせいか、暖かい飲み物ではいつもココアが用意されていた。
さすがに13歳前後である子供にコーヒーは苦いだろうと考えてのことだ。
やかんにお湯を入れて沸かす。
少量だからすぐに沸くだろう。
火を使用している以上台所から離れることは叶わず、窓から雨の降る空をみた。
灰色に染まった雲の切れ目から時々黄色い雷ははしる。
世界樹が避雷針となって一身に受けてしまわないだろうか。
精霊の宿る世界樹と言っても、おそらく普通の樹と変わらないだろう。
世界樹が無くなってしまえば、大変なことになる。
この程度の雷では早々無くなったりはしないだろうけど。
そうしている内にやかんが悲鳴をあげた。
それを合図として火を消し、ココアパウダーの入ったカップにお湯を注ぐ。
ふんわりと良いにおいが漂った。
そしてそれをもってテーブルに行くと、勢いよくドアが開いた。
「つっめたー!」
「ディオ、メル?」
「ただいま。雨降られちゃった。」
「クルー・・・」
そこには共に住む子供の姿と数日前にペットとして招いたクルールの姿だった。
宿かどこかに泊まるのではと思っていたが、そうしなかったようだ。
「今タオルを取ってこよう。」
ぱたぱたと服から水滴をはたこうとする2人と体を震わせて水滴を飛ばすクルール。
このままお風呂に入れてしまおうかと思い、風呂場に寄ってお湯を出しておく。
少し大きめのタオルを3枚ほど持ち、玄関にいる子供たちへとかけてやる。
ディオとメルが自分で拭き始めたのを確認してクルールの水滴を取ってやる。
すでに体を震わせて水滴を落としてあったのか、それほど濡れてはいなかった。
「お風呂は沸かしたから、まずは別の服に着替えなさい。」
「はーい。」
わしゃわしゃと髪を拭く2人とすでに終わったクルールを中へと入れて別の服を取ってくるように指示する。
さすがにあの服のままでは風邪を引いてしまうだろう。
そして、もう2つほど新しいココアを作ってテーブルにおく。
お風呂が沸くまではこれである程度体を温めておかなければならないだろう。
明日には再び時空転移をすると、子供は言っていたから。
子供たちが戻ってきたのをみて椅子に座らせる。
そうすれば子供たちは湯気のたつ飲み物へと手をだした。
「さ、それを飲んだらお風呂に入ってきなさい。」

「にしても、宿に泊まるかなにかすれば濡れることはなかっただろうに」
お風呂を上がったメルの髪を拭きながらそうつぶやく。
それを拭かれながら聞いたメルは口を開けた。
「だって、私たちの帰ってくる場所はここだから。
それに宿にいくよりもここに帰りたかったから。」
「・・・そっか。」
拭き終わった頭を撫でると、メルは笑った。
「あ、メルだけずるい」
遅れてあがってきたディオは私たちの様子をみると濡れた髪のまま飛びかかってきた。
「こらディオ。髪拭くから。」
拭き終わったタオルをメルに渡して今度はディオの髪を拭く。
うーとうなりながらもディオはされるがままの状態になった。
そして拭き終わるとディオはそのまま部屋へと駆け出す。
メルはそれを見ると走らせるのを止めるために声を出しながら同じように駆けだした。
私はその子供たちの様子をみて、ただ笑った。
いつまでも、この様な日々が続けばいいのにと。



“ねえ、___色々教えてくれてありがとう・・・でも、もう・・・別れみたいだ・・・”
“貴方と過ごした、記憶・・・そして、この瞬間・・・なくしたくない。”
この家で、2人は消えていった。
子供たちと3人で過ごしたこの家は、いつしか自分1人では広いと感じてしまうほど
真実は、知っている。
だから私はなにも言わずに子供たちのことを見送った。
いつか再び、子供たちが姿を現してくれることを望んで
いつまでも、あのような日々は、続かない。

SOME DAY ・・・
SOME WHERE・・・

でも、子供たちは再びこの家へと帰ってくる。

2011.08.27.

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