可愛い双子

なりきりダンジョン(X版)

“エト・・・”
どうして僕は、2人を連れて帰ることができなかったんだろう。
無理矢理にでも、つれて帰れれば良かったのに。
2人とも、泣きそうな顔だったんだ。
まだ、13歳で
これから、沢山のことを知って、生きていくはずだったのに
どうして、こうなっちゃったのかな。
僕は2人のお母さんなのに。
2人を守ることが出来なかった。
僕が、逆に助けられて、守られて。
精霊たちに会うときだって、僕が迷惑をかけていた。
僕は、この旅で2人になにをしてあげられただろう。
もう、2人は帰ってくることはない。
3人で、このエトスハウスで暮らすことも、出来ないんだ。
「エトちゃん?」
「ん・・・なに?」
涙目になっていた目をこすって涙を拭き取ると、彼女の方を向いた。
2人のことを、僕と一緒に最後まで見ていてくれた彼女。
本当に、お世話になった。
メルが途中から変わったのも、彼女のおかげだった。
僕よりも、2人を支えてくれた。
「どうかした?・・・まだ、ディオくんとメルちゃんの事を?」
時々ではあるけども、彼女はよくこの家に来るようになっていた。
あの指輪がなくなってしまったことで、時空移動ができなくなってしまったのかもしれない。
あまり、そのへんは話してないからわからないけド。
「そうかな・・・大丈夫だよ。」
「そう?双子ちゃんがいなくなってから、元気ないけど。」
僕には、そんなつもりなかった。
でも、思い返せば、ずっと2人の事を考えているような気がする。
もう会えない、2人のこと・・・
「元気だしなよ。そんな顔してたら、双子ちゃんたち心配しちゃうぞ?」
「うん・・・」
2人がいなくなってから、あまり日にちは経っていない。
いつか、ひょっこり2人が帰ってくるんじゃないか。
そんな風に思う、でも・・・
「ほら!しっかりしなって。今日はアーチェも来るんでしょう?」
「・・・ぁ、そうだった。」
「ざーんねん!もうきちゃったわよ!」
旅の中で出会った時空戦士。
この時空では“魔女”だとか言われている。
塔の中にいつもいる彼女は、ロディと同じように時々だが来るようになっていた。
窓から家の中をのぞくように手を窓縁に掛けている彼女。
まったく気づかなかった。
その後すぐに玄関のドアが開いて、入ってくる。
「私やハーフエルフは人と同じ時間を過ごすことはできない。」
「アーチェ?」
「それは、クラースの時代から今の間の200年よりも永く生きることができるから。
精霊も同じ。精霊はエルフやハーフエルフよりももっと永い時を生きる。」
「きゅ、急にどうしたの?」
「ディオとメルは人間だった。たとえ、デリス・カーラーンを滅ぼしたとされていてもね。
ロディはともかく、私やあんたが双子と一緒に生きるってことは出来なかった。
いつか、別れってくる。人は、100年も生きられないから。
でも、だからって忘れちゃいけない。人を2回殺しちゃいけない。」
それは、アーチェが自分自身で体験したことだった。
アーチェは、200年ほど前の人間であるクラースを見届け、
そのあとクレス、ミント、チェスターを見届けた。
本来は、叶うはずがないのに。
アーチェよりも、永く生きる精霊である僕が、2人と一緒にいることは出来ない。
そう、言われているようだった。

「アーチェ、さっきはどうしたんだろうね。」
つい先ほど、そろそろ帰るといってアーチェはエトスハウスを去っていた。
また、あの塔で1人でいるのだろうか。
「きっと、ずっとそうしてるなって・・・言ってたんだと思う。」
「ん?」
「僕は、音の精霊。2人と一緒に、ずっといられることはなかった。
別れるのが、少し早かっただけ・・・」
そう、2人が13歳なのにいなくなってしまったのは、いつか来る別れが早く来てしまっただけ。
いつか・・・何十年後かには必ずくる別れを、早く味わっただけなんだって。
もしかしたら、そう・・・おしえてくれたのかもしれない。
「仕方がなかった、とか?」
「うん・・・」
「それって、ちがうんじゃない?」
「え?」
「別れって、必ずくるよ。私も、ダオスとか・・・沢山の人と別れた。
でも、それは私の行いの結果。そうなる運命だったんだ、とか、来るべきことだった、とか
そんなことは、ただの言い訳。
自分の行いによってそうなってしまったことを認められずに、現実逃避していることと同じだよ。」
そうか、ロディはここにダオスを追いかけるために来て・・・
詳しいことなんて、わからないけド。
僕よりも、沢山の事を経験しているのかもしれない。
だって、永く生きてる僕よりも・・・
「だから、さ。そろそろ次の段階に進もうよ。」
「次の、段階?」
「そ。双子ちゃんのことを忘れろなんて言わないし、出来れば忘れないでほしい。
でも、それでうじうじしてても、何も始まらない。
アーチェが言ってたでしょ?“人を2回殺しちゃいけない”って。
人はね、2回死ぬんだ。1回目は寿命がきたりして、体が死ぬ。
2回目は、誰にも忘れられて、心や思い出が死ぬ。
永い時間を生きてるエトちゃんだからこそ、忘れちゃいけないんだよ。
そう、伝えたかったんじゃないかな。」
2回、人が死ぬ。
僕が、2人を覚えていることで、2人は生きている?
難しくて、どういうことかは具体的にはわからないけど・・・
「2人の事を忘れずに、すすむって・・・事?」
「うん。双子ちゃんたちは、エトちゃんが忘れない限りエトちゃんの心の中で生きてる。
そんな双子ちゃんに、今の姿見せられる?
お母さん、なんでしょ。」
「ぁ・・・」
「まぁ、私がなにか言えるようなたちではないんだけどさ。」
だけど、双子ちゃんたちに今の姿見られても大丈夫なようになろうよ。




「だーめ!これあたしのー!」
また、喧嘩が始まった。
まだ小さいから、なんでもほしがっちゃって。
毎日のように喧嘩してる。
そういえば、2人もずっと幼いころは同じような事をしていたっけ。
僕はいつしか、孤児を預かって世話をするようになっていた。
精霊が世話なんて、おかしいことかもしれないけド。
今日もこのエトスハウスには、数人の子供の声が響き渡っている。
「まったくもー。ほらー!喧嘩しないのー」
2人の子供が相変わらず人形の取り合いをしている。
元気なのは良いけれど、それで喧嘩しちゃうと困りもの。
僕が孤児を預かるようになってから、ロディとアーチェは前よりも来る回数は少なくなった。
ロディはどこかでまったりとして過ごすらしいし
アーチェは街の人をこまらせているみたい、時々和ませているとも聞くけれド。
・・・いまなら、この姿なら、胸をはって2人に見せられるような気がする。
コンコン、とドアをノックする音がした。
「はーい。」
今日、2人がくるとは聞いていない。
いったい誰だろう。
僕があけるまえに、ドアが開いた。
そこには______



「「ただいま、エト」」

2010.12.13.

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