東京鬼祓師パロ

01 藤にホトトギス

「ようこそ。名も無き小さな神社へ。俺は鶯。古備前鶯という。生憎ここの神主は不在でな。息子の俺が仕切っている。」
「粟田口一期と申します。国立国会図書館収集部特務課所属の封札師です」
「ああ。聞いている。まぁのんびり茶でも飲もうか。」
「え、ええ・・・・・・」

少々古びた、しかし年期のはいった現代では貴重な過去の遺産。2対の狛が入り口に鎮座し、来る人拒まず受け入れる。そんな神社へ、1人の少年が足を踏み入れる。紺のブレザーに身を包み、背には少々大きめの鞄を持ち、少年は、粟田口一期は同い年くらいの少年に誘われ、神社の中へと消えてゆく。

「しかし、明日から学校だというのにぎりぎりだったな。もう少し早くくるかと思ったが」
「少々、家のことがありまして。封札師としての学びもありましたから」
「結構面倒なことしているんだな。まぁいい。その制服からすれば俺と同じ学校だろう。明日の朝一緒に行くとするか。」
「よろしくお願いします」



ゆるりと意識が戻る感覚と、見知らぬ天井が目に入り、しばらく思考を止める。そうしてからようやく、昨日からここに世話になっているのだと気がついた。体を起こして、寝ていた布団を三つにたたむ。実家ではベッドだったから、少々新鮮だ。畳の臭いも、襖も、障子も、実家では見ることはない。
身支度を整えて、部屋を出る。外の庭に植えられている桜の木が風とともにゆらぎ、花びらが風に浚われた。そんな光景を見ていると、庭の方から声がかかる。

「おや、おはよう。君は早いんだねぇ」
「おはようございます。髭切殿。」
「うんうん。挨拶は大切だよね、・・・・・・一会君」
「一期です。」

にっこりと笑った彼はここの神社の住民の1人。いや、1柱と言った方が正しいのか。この神社の神使である。昨日の内に挨拶をしたが、どうやら彼は名前を覚えるのが苦手らしい。最初に名を名乗ったが、当たった試しはない。

「めじろも早く起きるし、最近の若者は起きるのが早いね」
「・・・・・・鶯殿のことですか。」
「そうそう。ぴざ丸にも見習って欲しいよ」

彼はそう言い残して神社の奥へと去って行った。彼と話しているとどっと疲れがくるのはどうしてだろうか。そしてきれいに、誰1人の名前も当たっていなかった。自分はともかくとして、同じ神使でもある膝丸殿や、ここの神主とも同意義である鶯殿を間違えているのはどうしてだろうか
廊下を歩いてたどり着く先は居間だ。そこで食事をすると、寝る前に鶯殿より言われている。そっと襖を開けると、そこにはすでに茶を飲んでいる鶯殿の姿があった。

「おはよう。早いな」
「おはようございます。鶯殿も早いですね」
「まぁ、いつもこの時間だからな。飯も出来ている。朝餉にするとしよう。髭切と膝丸も呼ばないとな」

ここでは人も神も関係なく生活をする。食事については、捧げ物として出せば神使も食べることができるようだった。鶯殿も、幼い頃からここで生活し、さらに神使がみえていたこともあり、その習慣がしみこんでいるそうだ。神使に会うのは実際初めてであったため当初は戸惑ったが、神使の性格やらを見ていると、あまり気にすることではないということに気がついた。

「鶯!一期!兄者を見なかったか?」

ばたばたと外を走る音がし、それと同時に襖が開いた。そこにいたのは神使の1柱である膝丸殿だった。薄緑の髪を乱し、息を切らしてこちらを見る。

「見ていないな。」
「先ほど、敷地の奥へ向かっていくのを見ましたよ。」
「もうすぐ朝餉の時間だと言うのに・・・・・・兄者あああ!」

そうして再度、ばたばたと音を立てて膝丸殿は消えていった。呆然とそれを見送って、鶯殿を一瞥する。

「まぁ、よくあることだ。おいておけばいずれ食べるだろう。」
「いいのですか?」
「本来なら全員揃ってがいいが・・・・・・細かいことは気にするな。初日に遅刻してもいいなら別だが」
「いえ。いただきましょう」

それから食事をすませ、支度も終えると神社を出る。あたりは自然豊かで森林や広い公園もある。されど少し出れば都会と呼ばれるであろう高いビルなどもある。そんな地域にある学園が、今日から通う場所になる。鴉乃杜學園。それが学園の名前だった。
学園の前で鶯殿と別れ、職員室へと向かう。ノックをして入れば、こちらに気がついた1人の男性が向かってきた。
「もしかして君が今日から転入してくる子かな?」
「はい。粟田口一期です。」
「わたしは長船長光。きみの入るクラスの担任にあたるのだぞ。よろしく」
「(だぞ・・・・・・?)よろしくお願いします」
「ではさっそくクラスに案内するとしよう。なに、いい子ばかりだから緊張することはないぞ」

そう言って担任といった長船先生は職員室を出て行った。それに慌てて着いていく。
ついた先は3-2と書かれた教室であり、おそらくそこがこれから所属するクラスなのだろう。声をかけたら入ってきて欲しいと言われ、廊下で待つ。すこしすれば教室から大声が聞こえ、中に入るよう促された。

「粟田口一期と言います。家の事情でこちらに編入することになりました。よろしくお願いします」
「高校生活は残り少ないが、新しい仲間と共に楽しい時間にするのだぞ。それでは席は、一番後ろが空いているか?」
「そこは鶴丸の席だ。」
「む、そういえばいないな。では空いているのは古備前の隣か。では粟田口、そこに」
「はい」

言われた先を見れば、鶯殿がひらひらと手を降っていた。言われた席に着くと、教師はおそらく通常通りのHRを始めた。

「まさか本当に同じクラスになるとはな。教科書は俺が見せよう」
「ありがとうございます。鶯殿」

それから円滑に授業が行われた。幸いにも前の学校と勉強のスピードは大して違っておらず、そんなに難しいというわけでもなかった。
そうして無事に昼休み。

「結局あいつは来ないか」
「どなたですか?」
「一期の後ろの席のやつだ。五条鶴丸。遅刻常習犯でな。今日は一期がいるからくるかと思ったが。」
「仲が良いのですね」
「昨日は来なかったが、なにかと神社に入り浸っている。髭切や膝丸とも仲が良いからな」
「見える方なのですか」
「まぁな。気がついた頃からずっと見えるからあまり気にしたことはないが。しかしこの時期に転入とは大変だなぁ」
「いえ、仕方ないです、し?」

急に聞こえた第三者の声に、思わず振り返る。鶯さんは気にせず水筒に入れたお茶をすすっていた。

「よっ、俺みたいなのが突然来て驚いたか?」
「ずいぶんと遅い登校だな」
「ったく、少しは驚いてもいいじゃないか?鶯」
「十分驚いている。この時間に登校してきたことにな」

現れた青年は、鶯殿と気の知れた人物のようだった。光が反射し、髪が銀色に光る。

「君が転入生だな。俺は五条鶴丸。よろしく頼むぜ」
「粟田口一期です。よろしくお願いします」
「一期だな。俺のことも鶴丸でいいぜ。」
「はい」
「ところで鶴丸。」
「うん?」
「こんな時間までなにをしていたんだ?」
「お、よく聞いてくれた!2人とも、今日の放課後時間はあるかい?」

2017/10/18


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