東京鬼祓師パロ

02 藤に赤短

「ここは?」
「この学校に古くからある焼却炉さ。なんでもここに、幽霊がでるらしくてな。それを調べるのに協力してほしいのさ」

校内にある古めかしい焼却炉。焼却炉自体はあっても、使用はされていないのだろう。ダイオキシンの発生が生徒にとって毒でしかないと1997年頃に全廃止が決定されている。しかし撤去には至らず、こうして残っていることも珍しくない。

「幽霊?」
「ああ。昔ここを使用していた用務員が頭蓋骨を発見したとか、そういった怖い話は出てきたんだが、その幽霊の元がわからなくてな。いっそのこと入ってみればわかるかと」
「その頭蓋骨の持ち主が化けて出ているとかではないのですか?」
「それも考えたんだが、聞くと人間の幽霊とは言われているが、長身みたいでな。頭蓋骨の持ち主は女学生だったみたいだし、違うだろう」
「中に入ると言ったな。この下にはなにかが在るのか」
「ああ、在る。詳細はわからないが広い空洞になっていた。さすがに1人で入るのは心許ないからな。君たちが来てくれてよかった」

鶴丸さんはそういうと、どこからともなく縄を取り出し、焼却炉の扉を開けると縄を垂らした。そうして軽い身のこなしで中へと入っていく。

「え、ええ?」
「鶴丸はそういうやつだ。別にかえってもいいぞ。こういったことは日常茶飯事だからな。ただ、1つ言うとすれば」
「言うとすれば?」
「ここは秋の洞と呼ばれる場所だ。龍脈が流れている場所でもある。なにかしらあるかもしれない」
「それは・・・・・・」

龍脈。地中を流れる気の道を示しており、龍脈の活性は、その土地を豊かにする。逆に廃れていると、土地も弱っていると言われている。そしてその龍脈には、こちらの目的もある呪言花札が関係している可能性がある。

「鶴丸はこちらの関係者ではないが、情報網は広い。なにかしら知っていることもあるだろう。だまされたとおもって協力するのも手だな」

鶯殿はそういうと、鶴丸殿のあとを追って中へと入っていった。呪言花札は謎に包まれており、花札同様の枚数があることは考えられても、その実際を見たことはない。練習用のものは触れたことがあるにしても、それよりも強大な力があるとされている。強い力は、強い力に惹かれる。その一端として、龍脈に惹かれることもあるだろう。
そこまで考えて、行ってみないことには何も始まらないと思い、2人と同様に焼却炉の中へと入った。

「ここは・・・・・・」
「ずいぶんと広い空洞だ。扉も4つほどあるが・・・・・・」
「どうも1つしか空いてないみたいだな。不思議な力が働いているというか・・・・・・現代科学では解明できなさそうな仕組みだな」

降りるとそこは広い空洞になっており、奥に進む道が4つあった。しかしそのうちの3つは遮られており、通れないようになっている。鶴丸殿はそそくさと開いている扉の前に立つと、躊躇することなく扉を開いた。

「んー?この先・・・・・・」
「どうかしましたか?」
「・・・・・・いや、なんでもない。そういえば一期、これ結構時間かかるかもしれないぞ?家に連絡はいいのか?」
「え、ああ。問題ないです。鶯殿の所にお世話になっているので」
「世話をしている。膝丸たちにも連絡は不要だろう」
「ふうん?大丈夫ならそれでいいが。よし、行くか!」

そういって再度、扉の向こうに行こうとする。しかしそれは、どこからともなく聞こえる声に遮られた。

【あーあーてすとてすと。聞こえる?】
「・・・・・・その声、髭切か」
【そうだよ。うまく聞こえるようでよかった。その地下にね、地脈の力の吹き溜まりがあるみたい。おかげで僕たちにもそっちの状況がわかるんだ。ある程度道案内するよ。この子が】
【兄者、急にそういうことを・・・・・・。といっても何かあればだ。気をつけて進め。】

そこまで聞こえると、すうっと声は遠くなった。どうやら3人全員が聞こえていた様子で視線が合った。

「鶯の所の神使は器用だな。」
「まぁ、細かいことは気にするな。なにかあれば知らせてくれるらしい。使っていくとしよう」
「神の使いに手伝っていただくのは恐れ多い気もしますが・・・・・・」
「髭切も膝丸も気にするような性格には見えないが。終わったらお供えでもしておけばいいだろ」
「帰りになにか買いましょうか」
「酒、は買えないがな」

そう言いながら、今度こそ扉の奥へと進んでいく。地下、というよりも洞窟のような雰囲気を醸し出したそこは、さらなる奥へと続いている。一本道を通ると、障子の形をとった扉があり、その先には、美しい紅葉が広がっていた。しかし、周囲は岩壁であり、そこに生える木々は、普段見ることの出来ない景色を表していた。
そうしてさらに奥へと進もうとしたとき、地が動き、土が盛り上がった。足を止め、その姿を凝視すると、あらわになったのは土で造られたような人形。実際に存在するわけがない、ゲームや漫画で見るような生き物。

「なんだあれは」
「あれが幽霊の正体、ではなさそうだな」
「・・・・・・」

幻覚、幻視。否、そういったものではない。2人は驚いたような表情を見せてはいるが、後ずさることなくじっとその生き物を見ている。全員が素人なら、恐怖して逃げ出すが、無謀にも向かっていって殺される。しかしここには、あの生き物、隠人について知っている者がいる。

「鶯殿、鶴丸殿。お下がりください。」
「一期?」
「おいおい、どうするつもりだい?」
「あれには見覚えも、対処方法も知っています。一般の方を巻き込む訳にはいきませんので」
「そうは言ってもだな・・・・・・」

しぶる鶴丸殿を横目に、鶯殿は少し考えたそぶりを見せたあと、うなずいた。

「・・・・・・わかった。鶴丸、下がろう」
「鶯」
「あとで説明はしよう。詳しくは言えないがな」
「・・・・・・2人ともぐるかい。ま、あとで根掘り葉掘り聞かせて貰うとしよう」

鶴丸殿はあきらめたように後退した。それに続いて鶯殿にも下がってもらう。それを見届けてから、近くに落ちていた太い木の棒を持つと、振るった。本来ならばしっかりとした武器があったほうがいいのだが、急所を狙っていけば倒せるだろう。
敵総数は3。それほどでもないだろう。1人でも戦えるよう、鍛錬はここに来る前に行っている。

「___参ります」





数分の内に、隠人は姿を消した。現れた時と同じように地の底に沈むように。

「やはり、木刀かなにか持ってくるべきでした。」
「すごいな。剣道かなにかをしているのか」
「ええ。多少は。」

最後の隠人を屠った際に折れた木の棒をそこらに投げ、手をはたく。なにか、武器になるものを持ち合わせておいた方がいいかもしれない。今後のためにも。
戦いと、その会話を黙って聞いていた鶴丸殿が、そっとこちらに近づいた。

「・・・・・・君たち、俺についてはきたが、実際は別の目的がありそうだな?」
「ああ。あるぞ。」
「鶯殿!」

さらっと言った鶯殿にとっさに大声をだす。鶯殿はさも関係ないかのように、普通のように言葉を続けた。

「国立国会図書館の関係者だ。俺も一期も。」
「こんなよくわからない敵と戦う司書?違うだろう」
「・・・・・・収集部特務課という部署があります。私はそちらの所属になります。鶯殿はその協力者。あくまで一般人です。」
「ふうん?」
「私は、この地にある呪言花札と呼ばれる特殊な花札を集めています。ここに転入してきたのも、貴方についてきたのも、その仕事の一環です。・・・・・・大まかですが、核心を簡潔に話せばそういうことです」

鶴丸殿はそこまで聞いて、考えるそぶり見せ、頭をかいた。

「あー、まあいい。今日会ったばかりのやつにそこまで話してくれたんだ。信じるさ。余計な散策もしない。」
「・・・・・・なら先にいこう。どちらの目的も達成できるようにな」
「はい」
「おう」

そういって話して、これを報告したら上に怒られるだろうと感じながら。改めて先を見つめる。そうして、再度先に進もうとすれば、今度は先ほどの比ではない地面の動き、否地震のようなものが起こった。なんとか体のバランスをとる。

【おい!大きな波動が上がってきているぞ!】
【おや?この力は・・・・・・】

その声と同時、私と鶴丸殿の後方で、どさ、という音が聞こえた。2人でとっさに振り向くと、手を押さえしゃがみ込んだ鶯殿が見えた。

「鶯殿!?」
【どうやらカミフダ・・・・・・呪言花札がとりついたみたいだね。それは身近な生命に取り憑いて、人智を超えた存在を生み出すんだ。そうして理性を失えば、待っているのはさきほど戦っていたものと同じ存在になってしまう未来だ】
「そんな・・・・・・」
「・・・・・・俺のことはいい。気にするな。おまえたちまで巻き込まれては元も子もない。先にいけ。」
「出来ません。私に、それを引きはがす力があれば・・・・・・」
「____力が欲しいか」

じっと、しゃがんだ私たちを見下ろしている鶴丸殿は、無表情でそういった。先ほどまでの感情豊かな表情ではなく、ただただ、こちらの品定めをするような。それがどこか、人離れしたような姿に見えた。

「無論。それで鶯殿が助かるならば。」

その答えに、鶴丸殿は1度眼をつむった。

「花札の歴史はこの平成よりもずっと昔、安土・桃山時代にまでさかのぼることができる。といっても、君たちが見たことのある姿になったのは江戸時代からだそうだ。有名、というかよく知られているのは”こいこい”というゲーム。お互いが札を取り合って役をそろえていくものだ。よくPCゲームとか、なにかしら目にすることは多いだろうなぁ。だがその目にする花札は、多種多様の姿を持っている。一番有名なのが八八花。それ以外にも地域性があって越後小花や金時花、しまいには外国にまで花札があるそうだ。___まぁこれもすべて、どれが真実で嘘であるかはわからない。古くから伝わるものほど、真偽はわからないものさ。はてさて、君はそんな謎に包まれている花札を題材にされた”呪言花札”を集めるためにここに来た。かの力は強大だ。時としてそれは人を取り込み、妖へと姿を変えさせ、しまいには戻れなくさせる。今の鶯のように。
君はそれでも呪言花札を集めるのかい?そしてそのために、力を求める?」
「無論。それが私の仕事ですから。そして・・・・・・
___友人を助けるためならば、たとえ我が身であっても捧げますよ」
「・・・・・・出会って間もない人間に対してもそこまで言うか。___上等だ。」

鶴丸殿はそういって、にっこり笑った。

「我をとれ。其方に力を授けよう。全ての花札を率いる力を。」

そうしてあたりが光り、鶴丸殿の姿は消え、手には飾りのない、ただの白い札があった。そうして、頭に響く声のなすままに、その札を鶯殿、そして取り憑いている花札へと向かって投げる。札はまるで鳥のようにまっすぐと鶯殿の元へと飛んでいき、瞬く間に取り憑いていた花札を取り去った。札が戻ってくると、手元には絵の描かれた花札もがあった。

「札憑きになったか。約百日ほど、鶯は花札の力が使えるようになる。そして、花札を保管するのは、君だ、一期。」

白い札は、再度姿を消し、現れたのは鶴丸殿だった。取り憑いた花札が消えた鶯殿も立ち上がり、こちらに近寄ってくる。

「貴方は、なんなのですか?鶴丸殿」
「___俺は白札。カミフダの、呪言花札の番人だ。主の力となって、世に散った札を集め、封じる役を持つ。そして、一期、君がその主だ」

2017/10/24


inserted by FC2 system