東京鬼祓師パロ

05 菖蒲に赤短

4つある扉のうち、3つはすでに開かれている。1つは最初に散策したもの。2つは左文字殿を見つけたもの。そして3つは今日、開いたもの。入った時点で、大きい違和感はない。

「あーくっそ。これなら武器調達を早めておくんだった。」
「・・・・・・ヨーヨーなら在ります」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・とりあえず、かりておく」
「はい」

3つめの扉を開けば、待ち受けているのは仕掛けと隠人。手当たり次第に倒しながら、先へ先へと進んでいく。どこまで続いているのか、なにがあるのか。わからぬまま、ただただ先へ。
そうして、どれくらい奥に進んだか。ある扉の前までつくと、鶴丸殿が声をあげた。

「その奥に気配がある。柳に雨だ。」
「ゲームでいう、ボス戦ですな」
「ああ。・・・・・・しかし、ここまで進んで菊に青短が見つからないとは」
「その名は?」
「左文字を見つけたときにいたカミフダだ。もう1つの道か、それとも別か。まぁいい。鶯は来ていないが、乗り込むとするか。俺の声が届けばいいのだが・・・・・・」

そういって、扉を重々しい音を立てて開けた。扉の先はやはり広い空洞になっていた。そして1歩、足を踏み入れた瞬間、中央に光の柱が立ち上がった。それは一瞬で空洞を明るく照らし、視界を白くさせた。光が消え、眼が慣れた頃には、目の前に、人影があった。しかし、それは人ではない。あくまで人の形をとっているだけで、手にはゆがんだ傘、そして形にはおそらく柳なのだろう植物が巻き付いている。

「・・・・・・柳に雨。」

鶴丸殿のつぶやきに、まるで笑うかのように、柳に雨は揺らいだ。

「___なるほど。俺が選んだ主を認められるか、試験というわけか」
「・・・・・・カミフダはそれぞれ意思を持つ。私では不十分ですかな?」
「それを見極めるためにこうして出てきたのだろう。まったく、屑札以外は変に思考を巡らすからな」
「ですが、これもまた試練。未だ執行者としての活動には慣れておりませんが、これもカミフダを集めるため。」

そういえば、鶴丸殿はうれしそうにほほえんだ。整った顔が、よりきれいに見える。これでおとなしい性格ならば、さぞ女性にもてるだろうに。悲しいことになぜか驚き、というものを求め人を驚かしたり、大騒ぎしているため、もてるというよりムードメーカー、トラブルメーカーと化している。

「なら、早速始めるとしようか。・・・・・・ん?」

向き直って、私たちは柳に雨の方向を向く。柳に雨はゆらりゆらりと動き、ふとおそらく腕の部分を動かした。その瞬間、鶴丸殿の周りの地が揺らぎ、一瞬で現れたのは植物の蔓だ。

「鶴丸殿!」
「うおっ」

それはまるで檻のように鶴丸殿を囲った。たたき切ろうとしても、それは木刀では切れもしなかった。

「大丈夫ですか!?」
「ああ、特になにもないな。柳の雨、おそらくだがあくまで一期の実力が見たいらしい。白札である俺は邪魔だと」
「・・・・・・でしたら、私1人で立ち向かえばよろしいのですね?」
「柳の雨はそう望んでいるようだ。・・・・・・今君の側にいるカミフダは君の力となるだろう。そして、これが突破できなければ今後カミフダを手に入れることはできない。気をつけて」
「はい。___参ります。」



「・・・・・・ったく、こりゃ光札は楽しんでそうだな?誰が封印を解いたのかもわからないってのに。種札も短冊もなに考えてるんだか。これ以上、人の子を巻き込む訳には・・・・・・」




周囲に現れる隠人を倒しながら、柳に雨にも木刀をたたき込んでいく。しかしそれでは不十分のようで、すぐ真横を柳の枝がしなってかすった。致命的な攻撃をしてこないのは、あくまで見極めるためだからか。
しかしそれでも、損傷は蓄積する。こちらの体力が尽きるのが先か、向こうが倒れるのが先か。柳に雨に向き直って、木刀を再度構えると、ぼこり、と近くの地面が浮いた。とっさに避けるも、その地に足は巻き込まれ、すぐ目の前に隠人が現れた。

「一期!」
「くっ・・・・・・」

木刀を構え直すも、向こうの攻撃の方が早い。受け身に切り替えるが、はたして間に合うか。

「一期、 かがめ!」

後方から聞こえた別の声に、思考が奪われる。しかしすぐに切り替え、頭を下げた。瞬間、すぐ上を小さな玉が飛んでいった。それは隠人の眼に当たり、もだえた。

「鶯!と・・・・・・はぁ!?」
「え、なんですか?」

鶴丸殿の驚く声に振り向くと、入り口の側には鶯殿と、左文字殿がいた。そして、左文字殿の手には、カミフダが握られている。

「どういうつもりだ、鶯!」
「まぁまぁ、細かいことは気にするな。それ、今は敵に集中しろ」
「・・・・・・あとで訳を聞きましょう。」
「無論。今はまず、目の前の敵を倒すことにしましょう・・・・・・」

それからは、正直あっという間だった。どこから調達してきたのか、竹刀を持ってきた2人は、周囲に出現してくる隠人を倒す。そのため、こちらは集中して柳に雨に集中することができた。そのおかげで、柳に雨は早く地に伏せた。それと同時に、鶴丸殿を囲っていた檻が消える。

「・・・・・・柳に雨。十分だろう?」

鶴丸殿がそういえば、柳に雨は強い光を放ち、そして札になった。これまで手に入れていた札よりも強い力。おそらくここの龍脈の力も手に入れているのだろう。人の手には余る代物だ。

「さて鶯。どういうことが説明してもらおうか?」
「ああ、いいぞ。その前に江雪に憑いているカミフダをとってもらえないか?」
「・・・・・・え。ってああ手にカミフダが!?」
「ばっ、長時間持ってるからだ!一期!」

すんなりと左文字殿から離れたカミフダは想像通り菊に青短。あのとき逃げたと思っていたが、実際は左文字殿に取り憑いていた様子だった。それがわかり、白札なのにその気配を感じ取れなかったことに鶴丸殿は衝撃を受けていた。

「呪言花札・・・・・・カミフダは、賀茂の陰陽師が創り、遺したもの。左文字はそれに連なる子孫にあたります。故に、カミフダの存在は、長兄のみに伝えられてきました。最も、カミフダを守る者は別にあり、執行者は分家の者務めてまいりましたが。」
「・・・・・・それで、カミフダの存在を知っていたのか。ならこの秋の洞にいたのは」
「カミフダの存在を感じたからです。最も、私は執行者ではありませんし、カミフダを操るすべもありません。ですが、黙ってみている訳にはいかなかったものですから・・・・・・」

そう言って左文字殿は、手についた紋様を見つめた。それは札憑きの証。普通人には見えないが、見える者には見える、そういう代物だ。

「ですが、それで隠人になってしまえば、元も子もありません。」
「その通りです・・・・・・」
「・・・・・・まあ、いいじゃないか。結果として無事だったのだから」
「鶯!」

声を荒げる鶴丸殿に、鶯殿は向き直った。

「鶴丸。おまえが人間を巻き込みたくないと思っているのは知っている。俺のことだって、札憑きにならなかったらこのまま縁切りするつもりだっただろう。だが、多少なりとも協力しなければ、カミフダは集まらない。違うか?」
「・・・・・・」
「これもなにかの縁だ。光札も手に入った。ちょうどカミフダを創った者の子孫もいる。・・・・・・隠し事は、この先上手くいくためには不要のものだ。そうだろう」
「・・・・・・ああ、そうだな。だが、まずは外に出よう。それで、全部話す。左文字も、関係ある。」
「ご一緒します。それと、どうか江雪と。弟が2人おりますので」

そうして、4人で洞を出た。すでに昼時で、日は高く昇っている。どうやら長時間、洞にいたようだ。それから、ゆっくり話せる場所、鶯殿の神社へと、向かった。
その間、鶴丸殿は一言も話すことなく、黙ったままだった。

2017/10/27


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