東京鬼祓師パロ

07 牡丹に蝶

「実際、ここからは歴史の中に埋もれた内容の話になる。知り得なかった情報も出てくるだろう。引き戻れない。それでもいいのか?」
「もちろんです。関わっている以上、知らないままではいられません」
「私も本家の人間として、カミフダについては知らないといけません。」
「乗りかかった船だ。途中で抜けるのはごめんだ」
「・・・・・・長くなる。」

鶴丸殿は、そう言うと、話し始めた。それは、これまで出てきた情報も含むが、非現実的なものでもあった。

「カミフダは、平安の時代に賀茂の陰陽師が創ったものだ。その意図は悪いが俺も知らない。江戸くらいになってから、カミフダを守るのは別に移されている。カミフダの白札、つまり俺は執行者を選び、封印の解かれたカミフダを集め、再度封じるのが役目だ。といっても、一期のようにこうして対話し、カミフダを集める執行者は初だがな。これまでは陰陽道を嗜んでいるだけで、俺が見える人間はほとんどいなかったからな。ともかく、その執行者は、本家、今で言う左文字家ではなく、分家の人間から選ばれる。理由は単純だ。俺たちカミフダを封印するためには、人間1人分の情報・・・・・・つまりは命が必要になる。執行者が生け贄となり、封印と共に命を落とす。カミフダはそうして、平安の世から今まで存在してきた。」

そこまで言うと、鶴丸殿はこちらをむいた。

「言い方を変えれば、俺は君を生け贄に選んだんだ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・ですが、彼は分家に連なっておりません。陰陽道にも通じている様子はない。なぜ、彼を」
「なぜ、か。一期が封札師だから、だな。君だったら、俺の願いを叶えてくれると思った」

そういうと、鶴丸殿は顔を伏せる。

「もう、どれだけの人間を犠牲にしたかはしらない。俺と、そして対になる鬼札は、ある程度人間と同じ思考、意思を持たされている。もしそれがなければ、俺は今回も、分家の人間を選んで封印してもらっていたさ」
「・・・・・・というと」
「俺は、一期、君に頼みがある」
「・・・・・・」
「カミフダを封印するんじゃない。カミフダを、消滅させて欲しい。それが、俺が今回君を執行者に選んだ理由だ。俺たちを見る力があり、そして、OXASの人間である君なら、果たしてくれると思うから」





昼間。ちょうど昼食時で住宅街には空腹であることを感じさせるにおいが広まっていた。そんな中を駆け足で走り去り、1つのこぢんまりとした店の前で足を止めた。

「ここだ。女性向けのカフェだが、男性向けのメニューもあるんだぜ」

鶴丸殿はそう言ってカフェの扉を開いた。その扉がCLOSEを示していたのは気がついたが、それを言う暇もなく鶴丸殿は中に入っていく。

「あれ、鶴さん!?今日は学校じゃないの?」

カフェの中に足を踏み入れると、カウンターには長身の男性が立っていた。片目を眼帯で隠した男性は、鶴丸殿の存在に驚きを示した。
___そう。今日は平日。学校だ。なのに何故か私たちは学校を抜け出してここに来ていた。何度も断ったのだが、鶴丸殿に無理矢理引っ張られ、そして鶯殿は気にしたそぶりも見せずについてきた。江雪殿は残念ながら別のクラスであることもあって一緒ではない。きっと江雪殿も一緒であったら、学校を抜け出してここに来ることはなかっただろう。

「ふふん。ちょっとな」
「もしかしてサボり?ダメだよ。学生なんだから」
「学校終わってから来たら混んでて話どころじゃぁないからな。鶯、一期、紹介する。ここの店長をしてる光忠だ。」
「初めまして。鶴さんの同級生かな?長船光忠です。」
「粟田口一期と申します」
「古備前鶯だ」
「よろしくね。せっかくだからなにか食べるかい?今日は定休日だから、好きなところに座ってね」
「定休日・・・・・・あの、良いのですか?」
「うん。表向きは定休日、ってだけだから」
「表向き・・・・・・?」

鶴丸殿が率先してカウンター席に座ったのを見て、私たちも続いた。そうすれば、まずは、とお冷やが出された。ここまで走ってきたからか、正直喉は渇いていたので遠慮無くいただく。

「光忠、適当に昼食を頼みたいんだが、その前に」
「はいはい。これが資料ね」

光忠殿はそう言うとどこからか封筒を取り出した。鶴丸殿はそれを手に取ると、封筒を開いた。

「鶴丸、ここはどういった所だ?」
「ここは伊達、さ。裏の道に通じた情報屋。ちょっとした縁があって、こうして情報をいただいているのさ」

開いた封筒の中には、1枚の地図。いくつかの場所に小さい丸と罰印。そして2カ所に赤くはっきりとした丸が書かれていた。その一方は、私たちの通う学校だ。おそらくだが、これは洞やその関係場所を示しているのだろう。

「んー、なあ、ここはどこだ?」

鶴丸殿が指をさしたのは、残りのもう1つの赤丸。丸の近くには新宿駅が見て取れた。新宿駅南口方面だ。そして丸の位置はちょうど広く緑色で覆われていて、たしかそこは。

「新宿御苑だな。」
「しんじゅくぎょえん?」
「ああ。俺たちにとってはただの公園みたいなものだ。」
「もともとは、江戸藩邸があったところですね。江戸時代に徳川家に仕えていた内藤家の下屋敷・・・・・・でしたか」
「へぇ。くわしいんだね、一期君」

地図を囲んで眺めていた私たちに、いつの間にか両手に皿を持った光忠殿が声をかける。皿には、いいにおいのしたオムライスがのっていた。

「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます」
「新宿御苑は今は一般公開されている国民庭園になっているけどね。もともとは天正に豊臣秀吉から関八州を与えられた徳川家康が譜代の家臣だった内藤清成に授けた江戸屋敷の一部なんだ。その後何百年かして幕府に土地を返納したけど、明治になっても結構な土地が残っていてね、その土地と隣接地を合わせて新宿植物御苑が出来たんだ。」
「植物御苑?」
「最初に作られた目的は近代農業の振興だよ。農学校も作られたくらいだしね。その後責任者が替わって庭園にする計画が立ったんだ。皇室の庭園としてね。けど戦後には国民公園としてすることが決まって、今に至るんだ。」
「春には花見客がずいぶんと増える。今は6月だから、空いている方だろう。」

そんな話を聞きながら、光忠殿お手製のオムライスを口に含む。卵焼きは半熟で、とろりとした卵がご飯に絡む。よく弟たちにオムライスを作ったことはあれど、いつも堅焼きだったのを思い出した。

「閉園時間もあるから、早朝から探すのが吉か」
「そうだな、庭園、ってことは人も多いのだろう?一般人が迷い込まないように早急に見つける必要があるな・・・・・・」

昼食を終えて、料金を渡そうとして断られ、代わりに情報屋が受け取る依頼をこなして欲しいと頼まれた。鶴丸殿はそうして依頼を受けて、その報酬として今回のような情報を得ているようだった。まれに花札の情報が紛れてくるんだ、と鶴丸殿は話しており、これも仕事の内であるとして時間のあるときはここで依頼を受けるようになっていった。

2018/09/03

1年ぶり・・・・・・
御苑の情報は公式HPから一部文章を変えて引用させてもらっています。


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