太鼓鐘貞宗がきた日

とうらぶ

「待たせたな!俺が噂の貞ちゃんだ!」
「やっときましたね。ずいぶんと燭台切光忠たちはまちこがれていましたよ」

とある本丸に、1振りの刀剣男士が顕現した。名を太鼓鐘貞宗。刀派貞宗の短刀だ。伊達の刀とも言われ、この本丸にもゆかりの刀剣がいる。

「ぼくは今剣、たんとうではいちばんふるくからここにいます。ここのあんないもたのまれていますから、ぼくについてきてくださいね」
「山姥切国広だ。この本丸の初期刀でもある。すぐにでも主に会ってもらいたいが、生憎重傷者の手入れをしている。それが終わってからになるだろう」
「わかった!ところでみっちゃんはいるかい?燭台切光忠、通称みっちゃん!」
「ざんねんながら、えんせいにでています。大倶利伽羅もどうよう。だてのかたなでここにのこっているのは、鶴丸だけです」
「鶴さん!鶴さんもここにいるのか!」
「はい、ただ・・・・・・」

今剣が言葉を紡ごうとした瞬間。本丸の入り口の方から大声が聞こえた。言い合っているのは、おそらく2振りだけではない。何人もの声が聞こえている。その中にはおそらく主もいるだろう。太鼓鐘貞宗はきょとんとしていたが、それに気がついた今剣ははぁ、とため息をつく。

「おとなしくしていればいいのもを・・・・・・それだからていれふだをつかってもらえないんです」
「久々に戦場に出たいといって飛び出したあげく、仲間かばって重傷になったんだ。自業自得だ」
「一期一振ら、れんどのひくいものをまもったのはえらいですが、かくじゅうにいどんでいたのですからそっちにでればよかったのです。」
「え、ええと?」
「・・・・・・まぁ、会わせないと止まらないだろう。」
「そうですねぇ・・・・・・いきましょうか」
「どこに?」
「手入れ部屋だ。あんたに会いたがっている馬鹿に会いにな」




「おお!貞坊、元気そうでなりよりだ!」
「鶴さん!」
「鶴丸、そろそろ茶でものんでおとなしくしろ」
「まだ入って1日もたっていません。あと半分はかかるのですから、お入りください。鶴丸殿」
「あのなぁ!こんなところに2日もいたら退屈で死んでしまう!今日はいいだろう!?貞坊が来たんだから」

たどりついた先では、手入れ部屋の前で血のにじんだ包帯を巻きながら包囲網を抜けようとしている鶴丸国永と、それを止める鶯丸、一期一振。隣の手入れ部屋がしまっていることから、そこに現在の重傷者と主がいるのだろう。

「いやぁ、しかしやっと貞坊がきたか。光坊と加羅坊も帰ったら喜ぶだろう。遠征部隊はあと何時間で戻るんだっけか」
「だいたい8じかんほどですよ。そんなこときにせずなかにもどりなさい、鶴丸。このなかではずいぶんとしうえなのですから、こどものようなわがままはいわないように」
「・・・・・・しかたない。貞坊、あとでゆっくりはなすとしよう。今剣、切国、貞坊を頼む」
「言われなくても。新人はこれから全員で戦場だ」
「ほんまるをあんないしたらほかのしんじんとかおあわせです。たんとうはほかにはいませんが、なんとかなるでしょう」
「お、おう。またな、鶴さん!」
「ああ。気をつけてな!」

とまどう太鼓鐘貞宗を横目に、鶴丸国永は一期一振らに手入れ部屋に押し込まれる。入れ違いに出てきたのは宗三左文字。ちょうど手入れが終わった様子で、こちら側ともう一方の手入れ部屋を見てため息をついた。

「うるさいとおもえば・・・・・・これだから札を使ってもらえないのです。」
「言ってやるなよ宗三。あれでも第一線で戦ってきた刀剣だぞ?」

鶴丸国永は、太刀としては比較的早くこの本丸に顕現していた。刀装も多く持てたことから、新しい戦場に行くときには重宝され、1軍として活躍していた。練度が上限にまでいってからは、ほとんど隠居していると同等で、練度を上げている刀剣たちでは厳しいと判断された場合のみ戦場にでている。代わりに遠征や演練には出ていることが多いので、完全に戦闘していないとは言いがたい。

「ええ。彼のおかげで小夜や江雪兄様と会えました。ですが、織田でも思いましたが、平安の刀なのだから落ち着きを持ってもいいのでは?」
「ほかの本丸のように穴を掘らないだけいいだろう。」
「まぁ、そうですね。・・・・・・貴方が新しい刀剣ですか」
「おう、太鼓鐘貞宗だ!」
「私たちが重傷になりながらも連れてきたのです。戦力として邪魔にならないように」
「・・・・・・宗三左文字。」

宗三左文字が言うとおり、太鼓鐘貞宗は、彼が率いる部隊が連れて帰ってきていた。待ち焦がれていた太鼓鐘貞宗の入手の機会でもあり、ひたすらその戦場に赴いていた。多少の交代はあったにしても、彼ら6振りがほとんど戦場を駆け巡っていた。

「へっへーん。そんなことしないぜ。伊達の刀は格好良くなくちゃな!」
「いいこころがまえです。へやをあんないしたらさっそくたたかいにいきましょうか」
「おう!」

意気揚々として廊下を歩き出した二振を見送る。宗三もそちらを一瞥してから、こちらに近づいた。

「いいのですか?ほかの短刀も順当に上限まで上がっている以上、彼の出番は少なそうですが」
「現在この本丸にいる刀剣男士は61振。そして今後も増えていく可能性は十分にある。練度が低かろうが、上限だろうが、それぞれに役目がある。出陣、遠征、演練、内番。連帯戦という実例もある。大勢いれば本丸の維持も大変だからな」
「厨房は毎日戦場ですからね・・・・・・。まぁ、主や総隊長の意見に盾突くことはありませんよ。あなたたちが判断したのなら、なにもいいません。ほかの戦力も継続して求めていくのでしょう?」
「縁があればな。」
「・・・・・・あのときは残念でしたね」
「・・・・・・ああ」





「あああああ!貞ちゃん!?」
「うるさいぞ、光忠」
「待たせたな!みっちゃん、加羅!」

2017/07/19

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