三条と五条

とうらぶ

我らの父、三条宗近の作品が5振。小狐丸、今剣、岩融、石切丸、そして俺、三日月宗近。他にも作品としては多々あるが、付喪神として現世に現れているのはこの5振のみだ。それ故に、兄弟などと、他の陶器などの付喪神から言われていた。
今日も小狐丸は父上にべったりだし今剣と岩融は一緒になって遊んでいる。石切丸も見あたらないがおそらく祈祷でもしているのだろう。
付喪神として人の姿はしても、食べることはしない。しかし父上は俺たちが付喪神として顕現していることを知ってから、茶や酒を置くようになった。父上は、付喪神を見ることのできる眼を持っていた。はたしてその眼はなんと呼べばいいことか。兎に角。父上は珍しく、今日は来客があるためおとなしくしているようにと言い放った。付喪神なのだから只人には見えぬしいいのではと言ったのは小狐丸だったか。しかし父上はその言葉にうなずくことはなく。現在は客間で来客の相手をしている。父上よりもずいぶんと若い男だった。たしか父上の弟子だったとおもう。父上とともにその来客を待つのも考えたがあまり興味はわかず、ふらりふらりと庭を探索する。
風に揺られ、木々は音を立てた。池の中にいる鯉もまた、水の音を立てる。人がいなくとも、音は消えることなく鳴り響いている。そんな中、かさりかさりと、なにかの音がした。野生動物が紛れ込んだのか、その方へと視線を向ける。するとそれはすぐに姿を見せた。
小さき身体。おそらくは俺の腰に届くかくらい。真っ白の着物に身を包み、時折見える金色の装具がしゃらしゃらと音を立てる。布をかぶっているためか顔は見えず。しかし向こうもこちらに気が付いたのか、俺の姿を見つけると足を止めた。

「だあれ?」

そのものは、まだ言葉もうまく話せない幼子のようだった。果たしてここに人の子が迷うことがあるか、それは否だ。

「こちへくるがいい。迷子にでもなったのか?」
「うん。ちちうえといっしょにきたの。でもいなくなっちゃった……」

幼子は俺の元にくると、顔を上げた。白い髪、金色の瞳。人の姿を持ちながら人ではない存在。俺とおなじ付喪神だろう。幼子の姿を取っているからといって、顕現したばかりであるとは断言できないが、無知な様子からして、おそらくは顕現したて。

「依代はどうした。本体から離れるのはよくないぞ」
「ちちうえがもってるよ!おししょーさまにおれをみせるんだって。」
「そうかそうか。ではそなたの父上を探さねばならんな。そなた、名は?」
「な?んーん。まだないよ。おれできたばかりだもん。」
「ほう……。俺は三日月という。よろしくたのむぞ」
「みかづき!おれしってるよ。おれはみかづきってかたなをみほんにしたんだぞ!」
「なるほど、そなた、俺の父上の弟子の作品か。ならば居場所はすぐわかる。一緒に行こうか」
「うん」

三日月宗近を見本とした。幼子は刀、しかも太刀かそれ同等のものだろう。幼い姿であるのも、おそらく今のうちだけ。人に認知され、力をつけていくことで、本体の姿にあった成長を遂げることとなるだろう。
迷子になってはならないようにとつないだ手は、やはり小さく、しかし力強い。







三日月と初めて出会ったのは、俺がまだ打たれてすぐのころ。当時は俺も短刀くらいの小ささでそして無知だった。なにもしらずに生みの親である父上や本体から離れ、知らぬ屋敷を動き回った。最終的には迷子になっていたところに、三日月と出会ったのだ。三日月はニコニコしながら俺の手を握って、父上のところまで案内してくれた。あの時の父上の驚きは、大きなものだっただろう。
それから、たびたび三条の屋敷に行くことが増え、小狐丸や、今剣たちと出あうこととなる。彼らと過ごしたのは、三条のもとに行ったときくらいだ。それ以降、主を転々としても、彼らと一緒に過ごすことはなかった。だからこうして本丸にきて会えたのは、うれしい。が。

「あの時の鶴は池に飛び込んだりと色々心労をかけてきたものだ。」
「聞けば小鳥を追っていたとか。今も昔もやんちゃで……」
「懐かしいねぇ。かれこれ何千年前だい?」
「あのときいこう、あえませんでしたからねぇ」
「一緒に木登りをしたこともあったかのう!」
「……。あのな、なんで酒盛りで俺の昔話をきかにゃいけないんだ」
「よいではないか。はっはっは」
「三日月!」
「おや、昔のように兄上とよんでくれないのか?」
「そうでしたねぇ。鶴丸!ぼくのことも兄上ってまたよんでください」
「~~~~~!!!誰が呼ぶか!」

この三条の5振りは、なにかと俺を弟扱いする。この本丸でいえば俺もじじいに分類されるほどだというのに。もっといえばこの本丸の権限順でいえば初鍛刀である今剣以外後輩にあたる。三日月と小狐丸なんてとくに。それなのに兄と呼べと言い出すし、面倒見ようと動き出すし……。

「年寄はさっさと寝ろ!俺を酒盛りのネタにするな!」






ばたばたと消えてしまった鶴丸の背中を見送る。これももう、何度かくりかえされていることだ。
「鶴丸も、本丸のほかの面々からすれば年寄りですがね」
「おとうとのかわいいはんこうきですよ」

2016/11/10


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