南泉と山姥切

注意:うち本丸設定山盛り。

「南泉」
「んあ?なんだ」
縁側で日光浴を楽しんでいた南泉一文字の元に、なにかの紙束を持った山姥切国広が声をかける。寝そべったまま、視線を向ければ、布をまとった、けれど被ってはいない、一般的に言う極になった山姥切国広はとくに気にした様子もなく口を開く。
「部屋割りのことなんだが」
「あー、なんだにゃ、相部屋になるってか?」
今現在、もともと同室だった篭手切江が後から顕現した豊前江と同室になったのをきっかけに南泉一文字は1人部屋を満喫していた。基本、2人から3人での集団生活が原則だが、部屋があいていればその限りではない。ただやはりすでに80振近い刀剣男士がいる現状、部屋には限りがある。今現在、1人部屋になっている刀剣はだれだったか。
「山姥切と同室になるか今度実装されることになる山鳥毛、どっちがいい?」
「なんつー選択肢にするんだ!にゃ!」
山姥切国広の言葉に、思わず南泉一文字は大声を上げた。

南泉一文字のなかで親しいという刀剣男士といえば、まずは所蔵元が同じ徳美組、と呼ばれる面々だ。他にも元主つながりでいえば豊臣とか徳川などがあるが、それを含めて一番付き合いが長いのは声をかけてきた山姥切国広の本歌、山姥切長義だ。山姥切長義のほうが顕現としては遅いが、その時は南泉一文字は篭手切江と同室だったため、あとからきた刀剣とゆかりのある刀が同室になる、ということは免れていた。
「大体、どういうわけでそうなったんだ、にゃ」
「いや、山姥切は今長船の面々と同室なんだが、謙信が顕現して4振になってしまって。誰か移動を、という話になったんだ。それで山姥切が立候補した。」
もともとは長船の太刀2振と山姥切長義で構成された部屋だった。それが謙信の顕現をきっかけに部屋を分けないといけなくなった。それで一応長船の流れを汲んではいるが長船ではない山姥切長義が別の部屋に行こうと自分から申し出たのだ。同室の刀剣も渋りはしたが、本刃がそういうならば、と受け入れた。
「1人部屋開ければいいじゃねぇかよ」
「そこまで部屋に余裕はない。南泉は山姥切と親しいだろう。だから一緒でいいかと」
「よくねーにゃ!……つか化け物切りはなんて言ってるんだよ」
南泉一文字のその言葉に、山姥切国広の視線がそーっとそれた。
「……まだ言っていない」
「おい」
「……話にはいくさ。ただその前にあんたの意見が聴きたい」
山姥切国広はそう言葉を紡いで南泉一文字をみた。嘘ではないだろう。それが仕事だ。すでに何年もこの本丸を率いていた。仕事に私情を挟むことはないだろう。
「あー、まぁ……同室になれって言われたら従うにゃ。あいつとは付き合いなげーし。……お頭よりはまだいい、し」
最後の言葉は、少し声が小さかった。うまく聞き取れなかったのか山姥切国広は首をかしげる。だがどうしてもいやだ、というわけではなさそうだと理解をした。
「それでは、山姥切がいいといったら、今の南泉の部屋に山姥切が入る形で頼む」
「げぇ、片しておかねーといろいろ言われるじゃねーか」
「……」
山姥切国広はなにか言いたげな表情を見せたが、口を開くことはなく、そのまま手元の紙へと視線を落とした。目線が動き、ぼそりと遠征か、とつぶやく。山姥切国広の持つ紙には本日の部隊編成から内番の内訳などが書かれていた。この本丸ではそれをシフト表、と呼んでいる。毎朝この本丸の食堂前の掲示板に掲示される1日の流れ。毎朝それを見るために掲示板の前はとても繁盛する。
「……おそらくだが、山姥切はあんたと同室になると思う。そのつもりでいてくれ」
「わかったにゃ」
そういって、山姥切は踵を返す。南泉一文字はそれを見送りながら、あいついつも忙しそうにしているな、とその姿が見えなくなるまで眺めていた。



「ここにいたんだね、猫殺しくん」
「……なんの用だにゃ」
夕食時。夜戦に出ている部隊以外が時間をずらしながら食堂へと集まっていた。厨房はいまだ稼働しているので、厨当番はいまだ仕事中だ。厨当番に割り振られるとその1日はいつもバタバタして一瞬で終わる。時間との勝負なので、必ず燭台切光忠か歌仙兼定か、本丸稼働時から厨当番を中心にやっていた刀剣が必ずいる。
そんな一部戦場、一部は仕事がおわってのんびりとしている食堂ですでに食事に手を付けていた南泉一文字の前に、旧知である山姥切長義が座った。遠征帰りで入浴を済ませたばかりなのだろうか、石鹸の香りがした。
「聞いたかな。部屋割りの話」
「おー、聞いた聞いた。結局どうなったかはしらねー」
「明日俺と猫殺し君は非番。そこで部屋移動をするようにとのことだよ」
「ずいぶんと早いにゃ」
「次の刀剣の顕現の目途がついたそうだ。さらに言えば政府からの譲渡もすぐくるようでね。早々に済ませるように、とのことだよ」
山姥切長義はそういいつつ、自分の食事へと手を付け始める。それを眺めながら、南泉一文字はすこし関心した。部屋割りの話はおそらく山姥切国広から伝えられただろう。あの山姥切2振の関係は微妙にややこしくて、向こうがどう思っているかはわからないが、山姥切長義は写しと話をすると心が荒れる。たまにそれで南泉一文字に八つ当たりが飛んでくるので、勘弁してほしいと思っていたところだ。それなのに普通だ、とおそらく山姥切長義にばれれば嫌な笑みを返されそうなことを考えていた。
それを悟られないように、南泉一文字は口を開く。
「つかどこでそういう情報手に入れたんだにゃ。お頭以外にも来るのか」
「ああ。政府が企画しているシール集めだよ。今回で3回目だったかな。日々の政府の報告を怠らずにやればシールがもらえてそれを集めると数に応じて報酬が与えられる。ほぼ全部集めれば刀剣が1振譲渡される」
審神者の間ではパン祭り、などと呼ばれるものだ。この本丸でもすでにその恩恵を得ている。すでに2振、それによって招いた刀剣がいる。道具や小判なども入手することができるが、この本丸ではそれよりも戦力拡大を求めたのだ。
「ふうん。それもお前の写しから聞いたのか」
「いや。鯰尾から。」
「……この本丸、隠し事ができない集団かにゃ」
別に隠してはいないのだろうが、譲渡の内容はおそらく近侍である山姥切国広とこの本丸の運営をつかさどっている刀剣たちが決めているはずだ。その情報が普通に漏れているのは、いかがなものか。
「特に偽物くんは、ね」
「あー……」
ただ山姥切国広自体、思っていることや考えていることが表情に出やすい。おそらく極になる前は布がそれを隠していたのだろうが、極になってからはより一層わかりやすかった。それを本刃が気が付いているかどうかは、わからない。
「まぁ隠す内容だとも思われていないんだろうね。」
「実際隠す内容じゃないからなぁ」
2振での会話に、別の声が混じった。視線を上げれば、白い内番服を着て、手には空になった食器を持った刀剣男士が1振、笑みを浮かべてそこにいた。
「……鶴丸国永」
「おっと。そんなに警戒しないでくれよ。話題に上がっていたから答えたってだけだぞ」
鶴丸国永はそういってそのまま食器を返却するためか姿を消した。まるで通り魔だな、と南泉一文字は思ったが口にはしなかった。
「……偽物くんが隠し事が苦手な分、他はずいぶんと胡散臭い」
「平安刀はそういう節があるって話だにゃ」
2振はそこで止まっていた手を動かし始める。入れ替わり立ち代わりで刀剣があふれるここに長時間いることは迷惑にもつながる。刀剣が増えてきたこともあり、全振りが同時に座れる空間ではないのだ。2振はなんとなくそろって食堂を後にしていった。
「うんうん。いい風、だな」

2020/5/18


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