Like untying a knot

結び目を解くように


今後の仕事場は、石川という場所にある旅館とよばれる所らしい。ホテル、と同じだろうか。海のすぐ側で、とても物静かな場所だ。そこの旅館の家族が、代替わりの際に沢山亡くなるらしい。その原因を調べて欲しいと。場所が呪われているのか、家が呪われているのか、家系が呪われているのか、そこらへんは全くわからないけれど。でもなんか、これは変に人が関わっているものじゃない気もする。なんとなくだけど。
ナルたちが旅館に着いて、色々準備している間に、ふらりと旅館の中を見回して外にでた。外は入り江、と呼ばれる場所があって、どうやら下の方に不思議な力があるようだった。沢山幽霊がいるのか、それとも別かは行ってみないとわからないので、ふらりとその中へと降りていく。
崖のすぐ側に洞窟があって、洞窟の中から外を見ると、すぐに海が見えた。時々、打ち寄せる波もみえる。洞窟の中を進めば、なにかがあるのか、空気が澄んでいた。湿気とか、そういったものはなく、ひんやりとしている。正面には祠と呼ばれるもの。どのくらい古いかはわからないけれど、斜めになっている様子はない。けれど、なにかに遮られているのか、ぐらぐら揺れて見える。右側には奥へと進む道が広がっていて、そちらに進めばすぐに見えたのは出口だ。出てすぐの所には木の柱が並んでいた。上を見ると同じように木で出来た天井が見える。柱と崖の間には石で道が示されていたが、大人数が通れるような作りにはなっていない。
ぼうっとしながらその光景を見つめて、どれくらいたっただろうか。このままここにいて、行ったり来たりすれば、天を見ることができるような気がして。でもそんなことしたらナルやジーンが怒る気もして。動けないまま時間がたった。天に昇っていく霊を眺めながら、そろそろ麻衣ちゃんにも会いにいこうかな、なんて思って
____ナルの気配が、一瞬変わった気がした。ざわりと、なにか嫌な予感がする。
今の状態に道とか壁とか関係なくて、そのまま旅館へと戻れば、寝ているナルが目に入った。そして別室でリンたちが作戦会議をしている。ナルのいる場所に近づこうと思うと、目の前にある壁に行く手を阻まれる。思いっきりぶつからなかっただけ褒めて欲しい。たぶん、リンなんだとは思うんだけど。遠くからナルの様子を見て、ナルの中にへんなのがいるのに気がつく。そこは僕の特等席なのに。あれ、もしかして僕が抜け出してなければこうなることはなかったのかな?どうしようもなくて、僕はただリンたちの会話を聞き流しながらため息をついた。


麻衣ちゃんをちょいちょいと手招きして。多少は手伝えるかなと招いた先の光景は、思わず手で目をふさいでしまうような光景だった。僕の手には刃物が握られていて、足下には男の人がいた。男をじっと見つめていると、息を切らしながら彼女が現れた。
「殺しちゃった」
そう言いながら刃物を地面に落とす。周囲の草原の緑とは似つかわしくない血の赤が目立っていた。
「・・・・・・どうして」
「ここへ来たら、この人がいた。・・・・・・麻衣ちゃんが裏切ったと思った」
「あたしがそんなこと、するわけないでしょ」
これは、僕と彼女が代役しているだけで、実際は違う。過去に、この土地で起きたことだ。その過去がどのくらい昔かは、僕にはわからないけど。
「どうして信じてくれなかったの」
「この人のほうが、財産も地位もある」
「そんなの、ぜんぜん関係なかったのに」
「麻衣ちゃんが裏切ったんだと思った。やっぱりこの人を選んだって」
「そんなはずないでしょ」
人って、どうしてこんなどろどろしているんだろう。僕はともかく、ナルやジーンの周りの女性も、怖かった。
「一緒に逃げよ、って言ったじゃない。どうして信じてくれなかったの」
「じゃあ、なんでこの人がここに来たの。ここを知っているのは、麻衣ちゃんだけのはずなのに」
「手紙をすり替えられたの。あたし、ぜんぜん別の所で待ってて・・・・・・」
麻衣ちゃんが、僕の手を握った。僕はそのまま、彼女を抱きしめる。
「・・・・・・どうするの、これから」
「人を殺して逃げるわけにはいかない」
「・・・・・・死ぬの?」
「うん。自首してもどうせ殺される」
「・・・・・・一緒に、行く」
彼女の言葉に僕は笑った。うれしかった、んだと思う。彼女の手を引いて、林の中を歩いた。少しずつ、歩く速さが早くなる。いつしか走りだして、先へ先へと進んでいく。その行き先は、海ではなく、神社だ。2つの出来事が混ざって、途中で切り替わったから。そこまでたどりつくと、いつしか人影が増えていた。ナルやリンもいる。
「これ以上は無理だ。包囲されてる」
周囲には殺気だった人が大勢いる。あの旅館の人の人数じゃない。小さな集落くらいの人数だ。
「ここまでか」
「あたしたち、どうなるわけ?」
「覚悟をすることですね」
刃物を持った人たちが、周りを囲っている。逃げ場はどこにもない。ぐっと、彼女が僕の手を強く握った。
「必ず末世まで呪ってやる・・・・・・!」
刃物が目の前に振り下ろされるのをそのまま眺めて、彼女はどう思ったんだろう。そして、実際にこれを体験した人は、なにを考えたんだろう。

ふとあたりが見知った風景に戻ったのを感じて、上を見上げた。上には旅館が見えて、その窓から麻衣ちゃんの姿が見えた。にっこり笑って、彼女に向かって手を差し伸べれば、彼女はふわりと目の前に降りてきた。
「夢、大丈夫だった?」
「夢?ひょっとしてあたしたちが心中するやつ?」
こくんとうなずいて、彼女の手を握った。
「怖かった?」
「ううん。そうでもない」
「よかった」
僕がああいった夢を初めて見たときは、怖くて怖くて、ジーンに泣きついた。彼女の言葉に安心して、手を離した。
「ちょっとしてあの夢、キミが見せたの?」
「うーん、ちょっと違う、かな。僕にもわかんない」
ナルに聞けば、くわしいことがわかるんだろうけど、と思いつつ、僕はあたりを見回した。周りはふわふわとした白い光が舞っていて、洞窟から出てきた光は空に上っていた。
「これみんな、霊?」
「うん。吹き寄せられた霊みたい。」
また彼女の手を握って、洞窟へと向かう。相変わらずの静かな洞窟は、やっぱり白い光が漂っていた。光はぐるぐると洞窟の入り口から入って、もう1つの出口から外にでていく。それを繰り返して、いくつかの光は空へと上っていた。
「これ、どういう霊なの?」
「たぶん、この近くの海で死んじゃった命。ここは魂が吹き寄せてくる場所らしいよ」
「それで祠があるんだね」
彼女はそうって祠を見ていた。
「なんか・・・・・・変」
「祠のあたりに何かの力がかかってる」
「中に仏様みたいな流木があったの。そのせい?」
「わかんない。中に存在する力なのか、外部から押し寄せた力なのか・・・・・・」
「力?」
彼女の返事にうなずきだけかえして、僕はまた洞窟内を見回した。
「なんか、奇妙な場所なんだよね。ええっと、なんて言ったっけな・・・・・・霊場、かな」
「ふぅん・・・・・・」
そこまで話していて、ふと彼女が僕と向き合った。急にどうしたのかと首をかしげていると、彼女は思い出したかのように口を開いた。
「名前、聞いてないよね?」
「・・・・・・ああ。僕だけが麻衣ちゃんの名前知ってるから、不思議?」
「うん。」
「そうだなぁ・・・・・・」
僕は少し考える仕草を見せて、彼女がそろそろ目覚める時間であることに気がついた。僕はにっこりと笑って、麻衣ちゃんの手を離す。

・・・・・・」
彼女は僕の名前をつぶやいて消えた。起きたんだと思う。彼女を見送って、僕はじっと祠を見つめた。


白い光がぐるりぐるりと洞窟を出入りしている。そうして清められて、天へと昇る。同じことをすれば、僕も天に昇るのだろうか。
「あれはなに?教えて。・・・・・・くん!」
「再生の儀式だよ」
彼女の側に立ってそう伝えれば、彼女は首をかしげた。
「再生の儀式?」
「たぶん、ね。何度も洞窟を通り抜けることで、別の何かに生まれ変わるんだ。この洞窟は魂を呼び寄せる。呼び寄せられた魂はああして儀式を繰り返す。・・・・・・そこまではわかるんだけど」
「・・・・・・あたし、今、魂なんじゃないの?」
「そうだよ。だからあまり近寄らないほうがいいんだよ」
そういって彼女の手を握った。そうして旅館の側の庭へと降りたつ
「ね、くん。今までもくんが色々な夢を見せてくれたの?」
彼女の疑問に、僕は無言にて答えた。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ちょっと手招きしたのは事実だけれども、それだけじゃ、夢は見ない。ちょっと手助けをしているだけで、実力は彼女のものだから。
ただ笑っていれば、彼女の姿は消えた。また、起きたのだと思う。にしても、彼女がくる頻度がずいぶんと多くなってきた。ESPに完全に覚醒しているのではないだろうか。そして調査で訓練みたいな感じになって、力も付いてきている。本当は、こういったのはジーンのほうが専門なんだと思うんだけど・・・・・・今度、ちゃんと訓練してもらえるように伝えないと。



その後、巫女さんの除霊?によって周りの光は天に昇っていった。僕もついっと引き寄せられそうになったけど、なんとかなった。うーん、なんか少しずつ僕の状況が変わってきている気がしなくもない。これは早く体に戻らないとまずいかも?
そしてそれによってナルが起きて、超不機嫌のまま元凶を壊した。その名の通り、壊した。PKをもって。ジーンがいないのに大きな力を使ったナルは死にかけ。一応持ち直したけど、入院生活を送ることになった。起きたらすぐにジーンに言っちゃお。
まぁ久々にのんびりするいい機会だったんじゃないかとも思うけど。時は金なり、だっけ。望まない休養を受ける羽目になって、ナルの機嫌はしばらく最低ラインだった。


2018/05/06

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