ガンダムSEED/DESTINY/FREEDOM

アニメ・スぺエディ・リマスターごっちゃごちゃ。DESTINYはTHEEDGE基準
アスラン成り代わり。特殊設定・構成につき注意。名前変換はありません。
正直成り代わり設定は香る程度であまり重要じゃない

 ぴ、ぴ、という機械音と、空気の吐き出される音。その音たちに煩わしさを感じながらも、耳をふさぐことすらできない、動かない腕。何度かそんな感覚を得てから、ようやく頭が動きだして、眼前に広がる光景を理解した。
 真っ白な天井。白い蛍光灯が明かりを灯して、壁すらも白いこの空間が余計眩しく感じる。今まで聞こえていた音はすぐそばにある大型の機械から発せられているようで、目だけを動かしてみてみれば、一定の波形と、いくつかの数字が映し出された小さなモニターが目に入った。特にそれ以上にめぼしいものは見当たらず、なんとなくぼうっとそのモニターを眺めた。そうしていれば少し慌ただしい足音が聞こえて、上から顔を覗き込むようにして誰かの顔が見えた。
「目覚めたんですね!」
 誰かはそういって、慌ただしく先生、と言いながらも離れていく。その姿を目で追うと、どうやら複数の人がどこかに電話をしていたり、何かを準備している様子が見て取れた。その動きがどういうものなのか、いまだ思うようには動かない頭では考えられなかった。自分は今、どういう状況なのだろうか。動かない体、おそらくは寝かされているのだろうが、なぜそうなっているのか。息を吐こうとしても強制的に送られてくる空気に無理やり同調されて、そこで息苦しさを自覚した。再び聞こえた足音を感じながら、目を伏せた。


 テロリストによる、オーブ首脳陣暗殺未遂からひと月が経った。オーブ軍の働きにより、すべては未遂にて終わり、けが人は出たが、死亡者は一人も出なかった。当時の状況からすれば、奇跡といっても過言でもない。主導していた者らはすでに捕縛、または射殺されており、表向きはようやく非戦時の日常を取り戻したこととなっていた。
 そんな中で、執務室にいたオーブ連合首長国代表首長であるカガリは、定期的に送られてくるとある報告書を前にして悲痛な表情を浮かべていた。オーブ首脳陣暗殺の対象に含まれていたカガリもまた、テロリストに命を狙われていた。特に、代表首長であるから一番の重要人物だった。そんなカガリを守ったのが、当時護衛としてそばにいた、アスラン・ザラ二佐だ。カガリが目にしている報告書は、そんなザラ二佐の主治医からの病状報告だった。用意周到に組まれたテロリストの攻撃は、ザラ二佐以外の護衛をカガリに近づけることをさせず、二人ともを巻き込む自爆特攻だった。状況にいち早く気が付いたザラ二佐がカガリをかばい、近距離での自爆の前に銃にて爆弾を打ち抜いたことによりカガリは軽傷で済んだ。しかし、狙撃とカガリの安全を優先としたザラ二佐は自身を庇うこともできず。結果として今回の事件において一番の重症を負うこととなった。周囲の混乱もあり、救護が遅れたことも相まって、長時間の手術の後、人工呼吸器を使用した全身管理が行われている。そして、それ以降、意識を取り戻していない。
 カガリは隙間時間を見つけては彼の見舞いに訪れていた。多くの機材らにつながれた彼は、表面上の怪我が治り始めていることもあってかただ眠っているかのようだ。これまで、オーブを含めて世界は多くの戦禍に見舞われ、そして今も火種が散らばっている状況で彼が怪我した姿をカガリは何度も目にしている。いつかの、彼がプラントのザフト軍から脱走した時の怪我は本当に彼が死んでしまうのではないかと気を揉んだ。けれど、これはその時の比じゃない。何度危篤な状態だと言われたことか。結果として彼が一面をとりとめたのは、彼がコーディネーターだったからにすぎない。これがナチュラルだったら、手の施しようはなかったくらいだ。この時ほど、彼がコーディネーターでよかったと思ったことは、カガリにはなかった。
 重い空気が執務室を包んでいる中、コンコン、と扉をたたく音が聞こえた。部屋内にはカガリ1人で、外には護衛がいる。本来であれば部屋の中にもいるべきなのだが、気分がすぐれず退室してもらっていた。代わりに、廊下にいる護衛は何かあった時にはすでに対応できるようになっている。なんだ、と返答すれば来賓がいらっしゃいました、とだけ返答が返ってきた。はて、とカガリは首をかしげる。今日はなにかしら会談の予定はあっただろうか、と。返答する前に、なぜか扉が開きだし、カガリは少し警戒した。護衛が通したのだから身元はしっかりしているのだろうが……と思ったところで見覚えのある姿が見えてカガリはガタリ、と椅子を弾き飛ばしながら立ちあがった。
「カガリ」
 それは身元がしっかりしているどころか身内であり、今現在宇宙にいるはずの男で。
「キラ!?」
 オーブも共同設立国に名を連ねている世界平和監視機構コンパスに所属し、総裁となった友人のラクスとともに宇宙へと上がったカガリの弟は、本来であればこうも簡単に地球に降り立てる立場ではまったくもってないのに、なぜか今、オーブにいてカガリの前にいた。

 コンパスもまた、此度のオーブ首脳陣暗殺未遂に介入はしていた。テロリストが今もなお多くの国が被害を受けているブルーコスモスに関係している可能性があったからだ。それに加え、オーブはコンパスに人材ならびに技術提供を行っているため関係性は深い。市民の安全や避難誘導、テロリストの制圧にも協力を行った。最も、ほとんどがモビルスーツを使わない市街戦がメインだったとこともあり、キラは基本的に戦場には出なかったが。一方、キラの部下であるシンやルナマリアたちには市街へと出てもらって対応してもらった。パイロットとしての技術はキラが上回ることがほとんどだが、士官学院を卒業している彼らと、軍的訓練を受けていないキラには武術面においては明らかな差がある。適材適所、というものだ。
 そんなキラは、テロリストの鎮圧が確認できてから、宇宙へと引き上げていった。何かあったら呼んでほしい、という言葉を置いて。無論、それまでにザラ二佐が昏睡状態であったのはキラも知っている。帰る前に1度面会して、アスランなら大丈夫だよ、とカガリを励ましていった。そんなキラが予告もなくオーブに来たのは、やはり妹であるカガリが心配だった、という一点しかない。早くに来るかと思ったザラ二佐の快方の連絡も来ず、カガリも仕事を詰めているというカガリの補佐をしているキサカ一佐からの連絡を受けて駆け付けた。連絡しなかったのは、ひとえにカガリを驚かせてやろうという魂胆と、取り繕っていない今の状況を見るためだ。案の定、カガリの表情はすぐれないし、机の上に置かれた1つの報告書には、芳しくない状況がかかれているようだった。
「キラ、なんでお前が」
「心配だったから。本当はラクスも来るつもりだったんだけど」
「バカ! ちゃんと連絡してからにしろ!」
 カガリはキラの言葉に対して怒鳴り返す。それに対して、キラは特に気にした様子はない。
「アスランの様子は?」
「っ……。変わっていない」
 椅子に座りなおして、カガリは見ていた報告書をキラへと向けた。国政に関することではないからか、それとも相手がキラだからなのか。秘匿情報であるそれをカガリはためらいもなくキラへと見せる。キラは文字へと目を通して、先ほど報告書を見ていたカガリと同じ表情を見せた。おそらく、2人の関係を知っている人間が見たら、さすが双子、と言われるくらい同じ悲痛な表情だ。
「ただ、自発呼吸は確認できたからそろそろ呼吸器は外せるみたいだ。……脳死判定は、されていない」
「けれど、このままかもしれない?」
「……ああ。ひと月以上意識が回復していない以上、望みは薄い、と」
 ぐっと、カガリは机の上でこぶしを握った。アスラン・ザラ二佐には、身内と呼ばれるものはいない。父も、母も、これまでの戦争で失っていて天涯孤独だ。だからカガリが彼のキーパーソンとして病院と連絡を取っていた。本来だったら彼の上官の仕事なのだろうが、自分を庇った結果だから、と無理を言った。職権濫用でもあったがカガリが軍の最高責任者であることもあり許容された形だ。
「そう……。会いに行ってもいいかな」
「ああ、私も行こう。キサカに車を回してもらって……」
 カガリがそう言って通信回線を開こうとしたところで、緊急回線の通信が入った。相手は、カガリの補佐を務めているキサカ一佐だ。キラのいる方向からは通信相手がだれかはわからなかったが、緊急回線が回されたことには気が付いて口を閉じる。一応、ここにいるのは非公式なので。カガリが通信を開くと、緊急回線を使った割には普段通りのキサカ一佐が写る。
「何があった」
「病院から連絡があった」
 キサカ一佐の言葉を聞いて、キラは通信相手と、その目的を理解してカガリの後ろに回った。非公式ではあるが、一応軍の上層部にはキラが来ることは伝わっている。さすがに他国との緊張が解けていない状況で敵対されるような行動はとらない。カガリが知らなかったのは、突発的だったのとオーブ軍がカガリに甘いからだろう。
「なにかあったの?」
「ザラ二佐の意識が戻ったと」
 キサカ一佐の言葉に、カガリは立ち上がって、椅子に掛けていたコートを手に取った。
「病院に向かう。キサカ、車を出せ」



 再び目を開けたときには、やはり周囲がせわしなくバタついていた。1度目の時にあった大きな機械は姿を消しているが、口元に覆われたマスクが変わらず息苦しさを与えてきていた。喉の違和感に顔をしかめると、痛み止めを使いますか? と声がかかった。そちらに視線を向ければ、見覚えのない白衣を着た男がモニターの前に立っていた。
「挿管を取りましたので痛みがあるのでしょう。左腕も折れています。点滴でよければ鎮痛薬を使用しますよ」
 男はそういうと、周囲にいた人らにてきぱきと指示を出していく。腕に刺さっているらしい点滴ルートを使って薬剤が流されていくのを感じる。
「アスハ代表にも連絡を入れました。すぐにくるそうです」
 特別室なので大丈夫ですよ、と男は言った。けれど、自分としてはそれはどうでもよくて、今、誰がくると言ったのだろうか。ぱく、と音にならない口が動いたことに男も気が付いたようで注視された。だから、同じように口を開く
 __誰、と
 その言葉以降、周囲は再度バタついた。男はそっと目を伏せて、少し待つように言った。そうして、周囲にまた指示を出して、何人かがその場を離れていった。
「ご自身の状況はご理解していますか」
 男の言葉に対して、怪我、とだけ答える。
「ええ、そうですね。なぜこのような状況になったかは?」
「……」
 なぜ。そう言われてもまるでぽっかりと穴が空いたかのようになにかが抜けて落ちていて、自身の状況に心当たりは一切出てこなかった。ゆるく首を横に振れば、そうですか、とだけ返事が返ってきた。
「ご自身のお名前はわかりますか」
 そんな当たり前のこと、と思って口を開こうとして何一つ出てこないことになぜかおどろいた。どくどくと心臓の音が酷くうるさく感じた。じっとりと、嫌な汗をかき始めているのに気が付いた。
「結構です。無理せず思い出さなくて良いですよ。まずは体をなおして、そのあと詳しいお話をしましょう」
 男はそういってから立ち上がると、何かしらの薬剤の名前を言って去っていった。残った人が、鎮痛剤と同じように自分に投与し始めるのを感じた。すぐにぼうっとしてきて、ああ、鎮静剤か、と検討を付けながらそれに抗うことなくまた目を閉じた。



 病院に到着したカガリたちを出迎えたのは、ザラ二佐の主治医である男だった。普段であれば先に彼の病室へと向かうが、その前に話があると引き留められ、カンファレンス室へと通される。ここは患者の前で話せない病状説明などで使われることが多い。カガリも、何度かここに通されたことがある。
「ザラ二佐は呼吸器離脱も済み、現在は酸素投与管理をしていますがこちらもいずれはとれるでしょう。意識も戻り、受け答えもできていたので昏睡状態からは脱せました」
 主治医の言葉に、カガリとキラはほっと安心したように息を吐いた。しかし、主治医は険しい表情のまま、言葉を続ける。
「ですが、今後の診察によって診断いたしますがおそらく健忘症を起こしている可能性が高いです。意識が戻るまで一か月かかっていますので、記憶が戻る可能性は低いでしょう」
「なん、で」
 先ほどの表情とは打って変わって茫然としたカガリがつぶやく。健忘症。一時的、または永続的に記憶に障害が残り、過去の出来事が思い出せなくなる。この段階で主治医がそう言うということは、意識が戻った時にその片鱗が見えていたのだろう、とキラはあたりを付けた。同時に、あのアスランが? と納得できない感覚を抱いた。
「アスランには会えますか?」
「もちろんです。鎮静剤を使用していますのでお話できるかはわかりませんが」
 主治医の案内で通された特別室。中央に1つのベッドがおかれ、近くには身体情報を表示するモニター。壁から通された酸素配管が一本、ベッドへと伸びている。ベッドの上で、1人の男が横たわっている。カガリはその男へと駆け寄った。主治医はキラへ、何かあったらナースコールを押すように伝え去ろうとする。
「アスラン……」
 キラは男に駆け寄ったカガリを見てから、主治医を呼び止めた。



 誰かが、泣いている。声を殺すようにして泣いている人がいる。うつらうつらだった意識が現実に引き戻される。
「アスラン……」
 目を開ければ、両手を合わせてこぶしを握り、祈るかのように目を瞑る女性がいた。短くした金髪の髪、拭われない涙が、ポタリと落ちている。
 
__ああ、また泣かせたのか、俺は
  
 動く右腕を上げて、そっと彼女の頬へと手を当てた。指先で涙をぬぐってやれば、彼女は驚いたように目を見開いた。
「あす、らん……」
「__かが、り」
 ぽろりと口からこぼれた誰かの名前。自分で口にしてから、その言葉の意味が分からなかった。それがなぜか彼女に申し訳なくて、知らずと目を反らした。
「覚えて……?」
「……すまない、君は、カガリ? 俺は……アスラン?」
 手を彼女から離して、彼女にそう問えば彼女は再び目元に涙を浮かべた。
「ああ、ああ……そうだ。私はカガリ。カガリ・ユラ・アスハ……。君はアスラン・ザラ。すまない、本当にっ……」
 彼女は、カガリはそう言ってから、右手を握ってきた。
「無事で、意識が戻ってよかった」
 涙をこぼしながらそういうカガリを見て、なぜかひどく胸が苦しくなった。自分とカガリの間に何があったのか、そのすべてを、なにも覚えていない。

2024/2/6


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