ガンダムSEED/DESTINY/FREEDOM

アニメ・スぺエディ・リマスターごっちゃごちゃ。DESTINYはTHEEDGE基準
アスラン成り代わり。特殊設定・構成につき注意。名前変換はありません。
正直成り代わり設定は香る程度であまり重要じゃない

 カガリが泣き止んだ頃合いに、部屋の扉が開いた。そこから1人の男が入ってきて、自然とそちらに目が行った。
「起きたんだね、アスラン」
 柔らかい笑みを浮かべた男は、そう言ってこちらへと近づいてくる。彼もまた、自身の知り合いなのだろう。見覚えのあるような、ないような姿に、まるで突き刺すような頭痛を感じた。
「先生から話は聞いているから。僕はキラ。キラ・ヤマト。昔、月の幼年学校で一緒だったんだけど……」
「月……」
 キラの言葉を聞きながら、なにか覚えていることはないかと思考を巡らせる。学校、昔の自分がいたところ。学友、という関係なのだろうか。では、カガリとはどういう関係だったんだろう。
「意識が戻ってよかったよ。先生から聞いたけど、身体の方はすぐにリハビリができるみたい。そうすれば動けるようになるよ」
 左腕は折れているから、安静が必要だけどね。と彼はそういった。それを聞いて左腕を動かそうとして鈍い痛みに襲われた。確かに、起きたときにそういわれた。
「カガリ、キサカさんが時間だって。会議があるんでしょ?」
「あぁ……もうそんな時間か……」
 カガリは涙を自分で拭ってから立ち上がった。先ほどまで目線が近かったのは、彼女が床に膝ついていたからだったようだ。
「また来る。キラはどうする?」
「僕はもう少しここにいるよ」
「分かった、戻るときは連絡してくれ。車をまわすから」
 
 カガリが居なくなって、キラはベッドの側に椅子を持ってくるとそこに座った。なんとなく居心地が悪くて、天井へと視線を向けた。ぴ、ぴ、という機械音だけが部屋に響く。
「君は、どこまでわかっているの」
 静寂を遮ったのは、キラからだった。
「なにを覚えていて、なにを忘れてしまったの」
 キラの言葉に、俺は視線をそらしたまま。けれど、唯一わかることだけを口にする。
「俺には、それすらもわからないよ」
 今の自分が構築されているものがなんなのか。彼らとの思い出、これまでの人生。無意識的に覚えていることはあっても、それが果たして本当なのかすら、今の自分にはわからない。何を覚えていて、何を忘れてしまったのかさえ、自分には一つもわからない。

 だって、知識として覚えていることと、アスランとしての記憶として覚えていることの違いですら、私には1つもわからない。

 キラもまた部屋から出て行って、しばらくして入ってきた主治医は1枚の紙を持ってきた。どういう手段で手に入れたかはわからないが、アスラン・ザラの経歴だという。それを元に、どこまでわかるのかを紐解いていくのだという。
 C.E.55年生まれ、C.E.71年にプラントのザフトに所属、C.E.74年にオーブ軍に入職。現在の階級は二佐。ここまでは? と聞かれてザフトとオーブ軍に所属していたことはわかる、と返す。
 どのような立場だったか? モビルスーツパイロット。一時期隊長クラスの地位にもいた。
 生まれは? プラント、コーディネーターの両親の間に生まれた二世代目。
 ご両親は? パトリック・ザラと、レノア・ザラ。どちらもすでに死去。
 プラントのコーディネーターである君がオーブに来た理由は? ……。
 今の職務は? ……。
 返答できたのは、最初だけ。“自分の設定”に関しては答えられても、“自分の人生”については返せなかった。医師は、エピソード記憶に主な欠落があるようですね、と結論づけた。自分が体験した出来事に関する記憶を失っているのだと。戻りますか? と聞けばわかりません、と返ってくる。
「ナチュラルにおいては、意識不明の期間も長いため正直記憶が戻る可能性はほとんどありません。あなたのような怪我をすれば、奇跡的な回復はあったとしても高次脳機能障害になる可能性は極めて高い。しかし、健忘症はありますが今現在記憶の保持もできており、他の症状も出ていない。おそらくは、あなたがコーディネーターだからなのでしょう。ですので、記憶が戻るかどうかも含めて、今の状況では判断できません」
 医師はそう言って、こちらを安心させるように微笑んだ。
「希望的観測になると思いますが、どうか気を強く持ってください。我々もバックアップいたしますから」
 そう言って、医師は去っていく。痛みが強くなったりしたら呼ぶようにと言って。誰もいなくなった部屋で、少し強張っていた身体をベッドへと沈める。
 記憶を失ったのは事実。アスランとしての記憶の大半は失われた。けれど、この世界のことはわかっている。

 私は、かつて日本と呼ばれる、コズミック・イラにおいてすでに存在しない国で、この世界を娯楽の世界として知っている。私がどんな人物だったのかはすでに薄れているけれど、アスラン・ザラがどういう人物かで、物語上どう生きてきたのかは知っている。でも、アスラン・ザラとなった私がどう生きたのかがわからない。物語を忠実になぞったのか、それとも別の可能性に手を出したのか。その差異がどうなっているのかわからない以上、迂闊に間違ったことを口走るよりは、知らないフリをした方がぼろが出ないだろう。
 
今の私が推測できるのは、私はきっと物語の記憶を誰にも言わずにしまい込んだということ。
 
2024/2/6

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