空の軌跡編

10


「だ、大丈夫だったわけ!?」
「はい。エステルさんたちのおかげで皆さん無事でした」
「いや……でもまさか」
 学園祭後、予定通りとはいえ外で一泊し戻ってきたクローゼさんはそのあとの事件について簡単に話してくれた。孤児院の火事の原因とその犯人について。犯人はまさかのダルモア市長だったようで、ある意味ルーアン市の行政はてんてこ舞いな状態になっているそう。一方、孤児院の方は騒動に巻き込まれつつも無事だったようで工事の着工も速やかに行われるという。
「それと、そのことも関係して、もしかしたらお休みをいただくかもしれません」
「もともと、女王生誕祭には戻るって言っていたわよね」
「はい。ですが少し早まりそうでして。詳細がわかったらまたお伝えしますね」
話に一区切りがついたところでジルさんがそういえば、と口にした。
、去年の女王生誕祭って行ったっけ」
「いいえ。去年の11月は引継ぎでバタバタしてましたから」
 クローゼさんが参加すると言っていた女王生誕祭。毎年11月に行われるそれは、リベールの王都、グランセルにて行われる。いろいろな催し物もあり大変にぎわうらしい。とはいっても、昨年は行かなかったし、まずグランセルにすら足を運んでいないので詳細はあまり知らない。
「来年は来年で忙しいでしょ? 行くなら今年がいいんじゃない?」
「ですが」
「それはいい。クローゼ、せっかくだから案内してやれないか? 、3年間終わったら戻るんだろ?」
 渋る私に対して、ジルさんとハンスさんは乗り気だ。2人のいうように、おそらく来年の11月は帝国に戻ることもありバタつくだろう。それに帝国にもどった後どうするかはともかく、家業も考えるとリベールに来る回数は多くない。女王生誕祭を見るチャンスとして今年が一番良いのは事実だ。
「外出届だしても近場だけでしょ? せっかくだしリベールのいろいろを見てみてきたらいいわよ」
「……いえ、観光で留学してきたわけではありませんから……」
「何言ってるのよ。留学先のことを知るためにはまず自分の目で見てみなきゃ! せっかく留学してきたのに、学園内で終わっちゃったら、リベールに来た意味ないじゃない!」
 私たちの会話を見ていたクローゼさんが、そうですね、と前置きをした。
「せっかくですから、さんにはリベールを見ていただきたいです。家のこともあるので、ずっと一緒にはいられませんが……」
「よっしゃ決まりだな! クローゼと一緒にグランセルに行ってこいって!」
「え」
「……女王生誕祭で合流しようね、ではなく……?」
 ハンスさんの言葉に、私とクローゼさんは驚いてしまった。一方、ジルさんは乗り気である。たぶんクローゼさん、そういう意味で言ったんじゃないと思うんですけど……とは言い切れなかった。


「クローゼ、最近悩み事抱えてるでしょ。私は学園のことがあるし動けないけど、だったら動けるでしょ? 話し相手になってもらいなって」
「異性より同性のほうがいいだろ? それに、はある程度戦えるし、なんとかなるだろ。学園内でも冷静に物事を見ているから、話せる範囲で話しておけって」
「ジル、ハンス君……」
「それに、にとってもいい機会だと思うのよね。自分のことになると消極的になっちゃうし」
「周囲のことはよく動かしてるんだけどなぁ」
「エステルたちからなにか影響受けないかなーって思ったけど、ぜんっぜん関われてないし。こうなれば無理やり巻き込んでいかないと!」
「……まあ、ほどほどにな」



「そんなことが……」
 リベールが誇るアルセイユ級高速巡洋艦一番艦『アルセイユ』。そこで事件の詳細を聞いたクローゼは、クローディア・フォン・アウスレーゼは言葉を失った。現在、王都内では不穏な空気が漂っている。そのことがあり、クローゼは少し早く王都に戻ることとなった。しかし、1つの懸念事項がクローゼの頭をよぎる。
「ユリアさん。実は、友人を一人、王都に案内すると約束してしまったのです」
「ご友人を?」
「はい。私の事情も知っている方です。私の出立に合わせて同行することになってしまっていて」
「断れないのでしょうか」
「……できると思います。でも、約束をこちらの事情で反故にしてしまうのは……。」
「……」
「グランセルまでご一緒して、ホテルに泊まっていただくように出来たらと思うのです。彼女にとっては初めてのグランセル……案内できないとしても、一緒に行くという約束だけは、守りたいんです」
 クローゼの言葉に、ユリアは少し考えたが、最終的に主の言葉にうなずいた。

2023/12/21

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