空の軌跡編

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「なるほど、学園祭の募金を孤児院に……」
「うん。学園長からも了承は得られたから。あ、クローゼには内緒ね」
 学園祭当日。生徒会はいち早く学園へと集まり、最終チェックに勤しんでいた。その中で、前日に言っていた“新しい仕事”についてもジルさんから説明があった。
「募金の使い方としては十分適切だろ」
「そうですね。最後に集計してお渡しする形ですか?」
「うん、そのつもり。バタつくと思うけどよろしくね」
 先日火事にあった孤児院。今は仮住まいをしているようだが、今後どうしていくのか、というところは空白のままらしい。資金的にも大変だろう、ということで今回の学園祭に白羽の矢が立ったようだ。おそらく、火事の話を聞いてジルさんはすぐに動いていたのだろう。
 それから、ジルさんたち劇組は劇の事前準備へと移動した。私は開場準備だ。放送室へと移動して、マイクの前に座る。時間を見計らって、予定通りの台詞を述べる。

 __大変長らくお待たせしました。ただ今よりジェニス王立学園、第52回・学園祭を開催します。

 台詞の後に門が開いて、来賓を含めて多くの人々が学園に入っていくのを見届けてから、私は1度席を立った。次の放送まで時間もある。途中、トラブルが起きていないかだけは確認して、速足で生徒会室へと戻る。
 それからは、ずっとバタバタしっぱなしだ。学園内で起こる問題に対していろいろな生徒が駆け込んでくるため、それぞれに指示を飛ばす。重要な来賓の方は、学園長が対応してくださっているが、必要であれば生徒会としてもご案内させていただきながら、時間はあっという間に過ぎていく。そして、時間を知らせる放送をやりながら、最後のプログラムの案内を始める。

__連絡します。劇の出演者とスタッフは講堂で準備を始めてください。繰り返します……

それから、時間となって講堂にてエステルさんたちを交えた劇が始まった。貴族制度の残っていたリベールを舞台とした物語。今ではリベールにおいては影も形もない、平民と貴族の争いの物語。
私は講堂の入り口から劇を遠目に眺める。いまだ貴族と平民で対立している帝国。ユミルにおいてはその余波はほとんどないけれど、帝都の方になればそこそこ激しいとも聞くし、日曜学校においてもかるく触れられるものだ。リベールは最終的にその垣根を超えたけれど、帝国はどうなるのだろうか。その時、シュバルツァー家はどうするといいのだろうか。
劇の終盤。白き花のマドリガルにおいては、最終的は全員手を取り合って大団円にて終わるが姫から褒美を受け取るのは平民側の騎士だ。見方を変えれば、平民勢力が貴族勢力を上回ったともとれる。もちろん、この見方は歪んだ考えではあるが。
最後の全員が集まる瞬間を眺めていると、そっと講堂の扉が開いた。もちろん、開演中も出入りはできるようにあけてあるので珍しいものではない。ただ最後の最後だったこともあり、私はそちらへと視線を向けた。
「フフ……やはり最後は大団円か。だが……それでいい。」
 そこにいた銀髪の男性は、それだけをつぶやいて講堂を去っていった。本当に最後だけを見に来たのだろうか。拍手の音で講堂の出入り口から視線をそらして、舞台を見てから少々駆け足で放送室へと足を運ぶ。生徒会主催の劇は、この学園祭においての最後のプログラム。これが終わるということは本日の学院祭もまた、終わるという合図になる。息を整えてからマイクの前へと座って、学園内へと声を向ける。

 __学園祭終了の時間となりました。本日はご来場いただき、ありがとうございました。皆さま、お忘れ物のないよう、お気をつけてお帰りください。

 そうしてから、学園祭の最後の仕事へと取り掛かる。学園内に設置された募金箱。それをさっと回収して集計をする。すぐにジルさんたちが合流してくれるだろうが、孤児院の方々も来賓客だ、帰られる前に済ませたい。
 ざっと会計を済ましてミスがないか一通り確認する。そうしてからジルさんたちが生徒会室へと戻ってきたので集計結果をお渡しした。ついてくるかともいわれたが他の始末もあるため辞退し、あとはジルさんたちと学園長へと依頼する。
 それから、学園内に残っている人がいないかを一通り確認して、緊急性のあるものを片付ける。そうしてから、エステルさんたちとヨシュアさんたちもまた学園を出るということでジルさんたちとお見送りへと赴いた。
「……せっかくだからもう一泊して行けばいいのに。これから学園祭の打ち上げだってあるのよ?」
「あはは……残念だけど遠慮しとくわ。新米のくせに、あまりギルドを留守にするのもなんだしね〜」
 仕事で来ていたエステルさんたちを無理に引き留めることはしない。門の前で2人と、そして孤児院に行くというクローゼさんを見送った。
「……ちょっとは意識してるのかな?」
「お前なぁ」
 ニコニコと笑っているジルさんとあきれ顔のハンスさんの様子に首をかしげる。
「あれ、気が付かなかった? あの2人」
「コンビを組んでいらっしゃるんですよね? 仲睦まじいのは良いことですね」
「……」
「まぁ、は基本的に裏だったし、2人の様子そこまで見ちゃいないだろ」
 ジルさんの思惑をうまくくみ取れなかったようで、私は疑問符を浮かべてしまった。
「うん、いいのいいの。はそのままでいてね」
「そうそう、こんな生徒会長みたいにはならなくていいって」
「……?」

2023/12/21

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