空の軌跡編

8


「招待状、無事に発送してきました」
「ありがとー! これであとちょっとね。」
 生徒会室。出店の申請も出そろい始め、来賓のピックアップも無事に完了。裏方業務といえば、あとは遊撃士協会に警備依頼と周囲の魔獣退治を依頼するくらいか。とはいうがこちらはすでに毎年恒例のことでもあるし、前触れは出しているので詳細を詰めるだけになっている。だが遊撃士協会には時間があるときに赴かなければならないだろう。招待状も、ルーアン市長に対しては直接手渡しなので、そちらも実施しなければ。
「でも本当にには助けられるわ。劇の間のこともいろいろ押し付けちゃってごめんね」
「いいえ。このくらいならお安い御用です。私こそ、劇の方に協力できずすみません」
「そんなことないって! 他のところで助けられてるしさ」
 学園祭に向けて、授業の終わりは基本生徒会室に詰める日々。他も、部活やクラス単位での出し物や飾りつけに東奔西走しており、全体的に学園内は賑やかな状況だった。生徒会でも、裏方業務に従事ながら生徒会主催の劇も大詰めとなっており、そちらもなかなか落ち着きを見せない。特に脚本や演出を担当しているハンスさんに至ってはそちらにかかりっきりだ。
「問題は、こっちなんだよなぁ」
 じとり、とハンスさんはジルさんを見やる。ジルさんといえば書類に向けていた視線をハンスさんへと向けて、なによ、と眉を寄せた。
「やっぱやめない? 男女逆転劇なんてさぁ」
「なに言っているのよ。せっかくなんだし奇をてらうギミックが必要でしょ。」
「どうして毎年恒例の学園演劇で奇をてらうギミックが必要なんだよ!」
「甘いわねハンス! 世間は常に新しさと刺激を渇望しているのよ!」
「だからってそういうものを古典の演劇に求めないでくれるかな!?」
 2人が言い合っている中、後方の扉が開いたことに気が付き視線を向ける。そこにはクローゼさんと、後方にはじめて会う人が2人。
 クローゼさんは今日は朝から出かけていた。なんでもかの孤児院が火事になったらしい。火の始末不足か、なにが原因なのかは存じていないが、子供達らの安否を確認するために、彼女は朝から学園を飛び出していた。無論、私たちも心配はしているが、大人数で駆け付けてもできることは限られているため、今は目の前の学園祭に注視することにしていた。
「ああもう! どうしてこの学園の生徒会長は代々変人ばかりなんだ!」
「ちょっと……いくらなんでもあの先輩と一緒にしないでほしいわね」
「ただいま、ジル、ハンス君、さん」
「クローゼ!」
「お帰りなさい、クローゼさん」
 クローゼさんと2人が孤児院の火事について話し始めている中で、私は初めましての2人を招き入れる。こん棒と双剣を持っているということはなにかしらの武術に携わっているかただろうか?
「こちらの2人が前に話した……」
「初めまして、エステルっていいます」
「ヨシュアです。よろしく」
 前に? と首をかしげるとこそこそとハンス君が補足してくれた。どうやら先日、孤児院であった遊撃士さんらしい。クローゼさんの話をジルさんが聞いて、可能だったら学園祭の手伝いをしてくれないかと話していたとのことだ。この感じだと、無事に了承されたようだ。
「いやぁー助かるわ。私は生徒会長を務めているジル・リードナーといいます。今回の劇の監督を担当しているわ。」
「俺は副会長のハンスだ。脚本と演出を担当している。よろしくな、お2人さん。」
・シュバルツァーです。今回、劇にはかかわっていませんが、生徒会の庶務を務めています」
 ご挨拶を済ませると、ジルさんとハンスさんはエステルさんとヨシュアさんへと劇の内容を説明した。今回やる劇は“白き花のマドリガル”という、貴族制度が廃止された頃の王都を舞台とした、リベールでは有名なお話だ。そして、面白そうだからという理由で、男女逆転劇へと変貌している。このお話でのメインキャストは騎士2名と姫の3人。騎士の1人はクローゼさんがやることになっているが、のこりの2人が決まっていない状況だった。特に姫になると、女装も含めて似合う人がいない、というのも理由の1つだ。そこで遊撃士の2人に白羽の矢が立った、というのが今の状況だ。
 さっそく行動を、というジルさんたちに押されて、エステルさんたちは台本確認と、そして講堂にて衣装合わせをするべく生徒会室を出て行った。皆を見送ってから、私はまずエステルさんたちの泊まる場所の手配をするべくまずは学園長室へと赴くことにした。



「あ、確か……」
「こんにちは、エステルさん、ヨシュアさん。いかがでしょう? 学園生活は」
「新鮮で楽しいわよ。そういえば、さんって劇には参加しないって話だけど、なにかあるの?」
学園内にて、ちょうど授業が終わった時間帯にエステルさんとヨシュアさんに出くわした。台本を持っているのでおそらくこれから講堂に行くのだろう。2人は生徒と同じように午前中は授業を受けて、放課後は劇の練習に明け暮れているようだった。ハンスさんもそちらにかかりっきりで、生徒会内でいろいろ動いているのはジルさんと私であることが多い。
「学園祭の雑務がほとんどです。飾りつけや他の出し物との調節……劇以外にもやることは多くありますから」
「大変ね。なにか手伝えることがあったら言ってね。」
「ありがとうございます。もしかしたら、前日準備でお願いすることがあるかもしれません。その時は、お声かけさせていただきますね」
 エステルさんの申し出に私は礼を込めてかるく会釈をした。遊撃士というものは、本当にいろいろなことをしているらしい。そんなことを考えていると、ヨシュアさんから気に障るようなことだったら申し訳ないけれど、という前置きをいただいた。
「もしかして、留学生? 何人かリベール出身じゃない人を見かけるから」
「え、そうなの?」
 ヨシュアさんの言葉に少し驚きながらもうなずいた。
「はい。私はリベール出身ではありません。ジェニス王立学園は幅広く留学生も受け入れていて、私もその制度を利用してここにきています。ですが…よくお判りになりましたね」
「少し、アクセントが違ってたからね。差支えなければどこか聞いても?」
「……リベール王国の北に位置するエレボニア帝国です」



「エレボニアかぁ」
「ごめんエステル。聞かない方がよかったかな」
「え? なんで?」
「だって、百日戦役は……」
「うーん。でも、それってさんとは関係ないでしょ? だから大丈夫」
「……そっか」



「あ、ー! 飾りつけどう?」
 学園祭前日。放課後になっていよいよ大詰めとなった学園祭準備では校舎の飾りつけに、用務員のパークスさんの協力を得ながら取り掛かっていた。とはいっても飾りは多いし、学園内は広いしですべてが済んでいるかの確認をするにはまだまだ先は長そうな感じだった。
「講堂は問題なく。ただ外の飾りがまだ終わってなくて……。パークスさんに頼んではいるんですが」
日が暮れ始め、全体的な手伝いをしてくれていた生徒も徐々にクラブの出し物などの最終チェックへと動き始め、バタついていた。そんな中、ジルさんがクローゼさんやエステルさんと一緒に来て声をかけてくれた。状況を話せば、だったらちょっと手伝ってくるわ、と返答をいただく。
「でも、ジルさんたちもお忙しいのでは」
「ううん。こっちは平気。一通り片付いてるなら夕食一緒にどうかって誘いに来たのよ」
「あぁ……もうそんな時間だったんですね。わかりました。切の良いところで合流させていただきます。食堂でいいんですか?」
「はい。ハンス君とヨシュアさんに席取りをお願いしているので」
「わかりました」
 それかから、最終チェックを済ませつつ、一区切りついたころで食堂へと向かう。途中、パークスさんに会ったため状況を聞くと、ジルさんたちが手伝ってくださったおかげで無事に終わったとのことだった。
「お待たせしました」
「よう、待ってたぜ。早速料理を注文するか」
 私が食堂に迎えば、すでに全員揃っていた。おくれたことを謝罪するも、ジルさんたちも今来たばかりのようで気にしないようにと言われる。
「あ~、もうお腹ペコペコよ。劇の仕上げに加えて、今日も一日、学園中を走り回ってたし……」
「ふふ……。でも、それも今日で終わりね」
「そうよね、ホント。気合を入れなおさなくちゃ。新しい仕事も入ったことだし……」
「新しい仕事? なんだそりゃ?」
「うん、あとで相談するわ。じゃ、学園祭の成功を祈って、今日はパーッと騒ぐわよ! エステル、ヨシュア君。明日はよろしく頼んだからね!」
「うん、任せておいて!」
「精一杯がんばらせてもらうよ」
 それから、ワイワイと賑やかな夕食を過ごした。最後に、劇の成功を祈ってソフトドリンクにて乾杯し、解散することとなった。

2022/9/24

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