空の軌跡編

7


多少いろいろなことはあったにせよ、問題なく進級することができた。生徒会ではジルさんが生徒会長になり、ハンスさんが副会長として頑張っている。私は庶務といったところか。クローゼさんは手伝ってはもらっているが、生徒会ではないので役職はない。去年とは違い、2年次が会長などの役職を持つこととなったが、今年の3年次はあまり生徒会に興味はないようで、スムーズに引き継ぎは終わった。今後、さらに新たな一年生を迎え入れて、今年度の生徒会は始まることになる。
昨年の学園祭の翌日にレクター先輩が退学し、3月にルーシー先輩とレオ先輩が卒業した。1年間、いや、レクター先輩と一緒だったのは半年ではあるが、正直凝縮された濃い日々ではあった。会長を捕まえるとか、捕まえるとか、捕まえるとか。今年度はそれがなくなり、少しは落ち着いた学園生活になるのだろうか。
生徒会室にて、新入生歓迎の言葉を考えているジルさんやハンスさんを眺めながら、それ以外の業務を片付けていく。昨年度のことを思い出しながらではあるのと、レオ先輩がある程度マニュアル化してあるものを教えてくれたので、比較的スムーズだ。これまでの予算案を持ってきておいて、集計もしやすいようにしておいて。さすがに2年目なので今年は少しは楽だろう。ただ逆に、授業内容は楽じゃない。学年が上がることに難しくなるのはわかってはいたが、1年次に比べるとそのペースも早い。さすが名門校だと思いつつ、本来入学するつもりであった帝国の聖アストライアだとどのくらいなのだろう。あそこは子女が入学するとはいえ、授業が楽である、とは決して言えないだろうし。王族御用達の学院なので、中途半端な学力ではついていけなさそうだ。
「あーもう!いったん休憩!」
「さんせーい……」
「お疲れ様です。一応こちら側は一通り終わりましたけど……」
下書きの紙を机に散らばらせて、2人はぐったりと机に突っ伏した。どうやら煮詰まっている様子だ。一応昨年のものはあるにせよ、今年度生徒会の特色を、とは言われてしまっているのでまったく同じものは使えない。ある程度作ってからじゃないと先生に相談しにはいけないだろうしと、考えれば考えるほど悪循環に陥っているようだった。
「先引き上げていいからな?俺たちは今日中にこれを仕上げてから上がるから」
「あたしたちにかまわなくていいからねー……」
「は、はい……」
役割分担がされているとはいえ、今だ仕事をしている2人を置いていくのは気が引ける。2人は再び原稿とにらめっこを始めており、こちらには意識が向かなくなった。しかし、原稿を手伝える状況でもないため、私はそっと立ち上がり、生徒会室を出た。
向かった先は生徒会室のある2階から1つ下りた先。この学園内で唯一飲食するスペースがあるところだ。デボラさんに2人分のコーヒーをお願いして、できるまで椅子に腰かけた。
さん。」
「クローゼさん、お疲れ様です。」
「そちらはどうですか?ずっとジルが悩んでいましたけど……」
「停滞気味、って感じですかね。気分転換もかねて飲み物でも届けようかなと」
「よければお茶請けは私がご用意してもいいですか?クッキーを焼いたんです」
「本当ですか?助かります」
そんなクラブハウスにクローゼさんの姿があった。ジルさんと同室なこともあり、ここ最近ジルさんとハンスさんが原稿に付きっ切りなのは知っていたようだ。クローゼさんの言葉に甘えることとし、コーヒーを受け取ると2人で再度生徒会室へと向かう。扉を開くと完全に生き詰まったのか撃沈している2人がいた。
「ええっと……大丈夫ですか?」
「コーヒー持ってきました。少し休憩なさいませんか?」
「た、助かる~」
それから小休止を今度こそ挟んでから、生徒会は新入生歓迎会の準備を進めるのだった。



「あれ、ジーク?」
新入生歓迎会が無事に終わり、新1年生の生徒会役人が決まり始めたころ。クローゼさんの元を離れ自由気ままに飛んでいるジークを見かけた。見上げているとジークもこちらに気が付いたらしく、ゆっくりと降下してくる。腕を伸ばせば、鋭い爪を腕に食い込ませることもなく私の腕へと降り立った。
「いつもご苦労様」
「ピュイ」
ジークがリベール王国皇室の親衛隊の一員であるのを知ったのは、昨年のことだ。というのも、別件でクローゼの身分がいつもの面々内だけではあるが公表され、それ繋がりで分かったというだけだ。軍用であるという予想はあっていたというわけだ。身分を隠して入学しているクローゼさんの護衛も兼ねており、クローゼさんの近くに誰かがきたときには上空から目を光らせている。鳥は賢いともいうし、その優秀さは絶賛発揮されているというわけだ。
さん。あら、ジークも一緒?」
「はい。クローゼさんは部活終わりですか?お疲れ様です」
さんこそ。ええと、ジークが何か……?」
「ううん。ただ飛んでいるのを見つけただけ。そうしたら話し相手になってくれたの。ね、ジーク」
「ピュイ」
ジークと一緒にいるのが気になったらしいクローゼさんが首をかしげるため、そう口にすれば、ジークも同意の意味を込めて鳴いた。
「もともと、実家で鷹狩に縁があって。だからなんとなく懐かしくなったの」
「そうだったんですね。でも、今はリベールではあまり見られないですよね」
「そうみたいですね。まぁ、私も父の付き添いで見ていただけなんですけど……」
軽く腕を振ればジークは1度空を舞って、今度はクローゼさんの腕に乗った。クローゼさんも戸惑うことなく腕を伸ばしているのを見ると、付き合いは長いんだろう。
「そうそう、2年目なのもあって、今後の試験の難易度は跳ね上がるみたいですね。よければ勉強会でもハンスさんやジルさんと一緒にやりませんか?」
「ええ、是非。ハンス君、前回も大変そうにしていましたし……」
「そうと決まれば、声掛けに行きましょうか。もう生徒会室にはいないと思うので、寮ですかね?」
「まずはジルのところに行きましょうか」



「お」
「お?」
「おわったああああ」
定期試験が無事に終わり、生徒会室に解放感満載の声が響く。声の主は無論ハンスさんだ。
「それ、どっちの意味で?」
「あははー……どっちも」
「勉強会したのに?まったく」
「あとは結果を待つだけですね」
「うん。張り出されるし、ちょっとミスもあったから心配ですね」
「は~、きっとクローゼとはまた上位だろ?」
「2人とも頭いいものね」
「そ、そんなことは……」
「勉強自体は嫌いじゃないので……」
1年次の定期試験の結果を持ち出されながら、あーだこーだと今回の定期試験について盛り上がる。どう問題を解いたのか、であったり正解はなんだったか、であったり。ただの雑談ついでではあったが、良いフィードバックになったのも事実だった。




「そろそろ学園祭のネタも考えないとねぇ」
「そうですね。予算案は早めに出しておく必要がありますね。」
「あとは生徒会主催の劇かー。なにを題材とするかだが……」
学園内では、定期試験が終わったことにより、次のイベントである学園祭の準備が密かに始まっていた。本格的に始まるのは大体7月くらいからではあるが、準備というのはそれ相応の時間がかかるものだ。特に主導することとなる生徒会は、それよりも前から忙しくなる。各部活やクラスからの予算案の回収。OBや市長などの来賓対応やそれに伴う内容の選定、案内状の作成。装飾等の準備。そして生徒会主催の劇の準備、人員確保。それ以外にもこまごまとしたものはたくさんある。
「予算案についてははやめに出してもらうように通知をしておきますね。来賓の方への案内状も早めがいいでしょうし」
「そうねそこらへんを第一優先としましょう。」
「よければ私がやりますよ。劇案の方が大変でしょうし」
「助かるけど、大丈夫?」
心配そうにしてくれるジルさんに対して、私はうなずく。去年一通り教わっているし、重要なところは生徒会長であるジルさんにお願いすることになるが、それ以外であれば容易だ。そう伝えればジルさんとハンスさんから任せると言われた。

2022/09/22

駆け足ですが合間の学園生活は番外編で補完予定


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