クールな君へ5のお題

5.ほら、笑うとこんなに

「あっというまだったな」
「んー?なにが?」
マーブルランドにて。現在娯楽のための武闘会が開かれており、暫定的におさめている王らも、そしてその家来らも、全員がその大会に出て祭を盛り上げていた。過去の武闘大会に優勝し、一時は王にされそうになった刹那にもまたお誘いが来ていたが、刹那は辞退し、こうして私と観客席で見学をするに至っている。私たちのそばには相変わらずベールとクールが下り、暇そうに寝たふりをしながらも、ちらちらと武闘会を様子見していた。
「前回の大会から何年も経ってるけど、一瞬だったなと思ってな」
「ふふ。そうね。あの時も時の流れが速いって感じてたけど……こっちに来てからはなおさらね」
「あいつらが年齢覚えてないって言ってるのもわかる気がする」
「あら、彼らはもう1000年以上も生きてるのだから私たちはまだまだよ」
「2人とも何と争ってるの?」
そんな話をしていると、後方から声がかけられた。ベールが少し顔を上げたが、その姿を見るとなんてこともないように元の体位へと戻った。私と刹那もまたその声の方へと向く。そこには私たち同様にデビルを連れた男の子。永久君の姿があった。
「永久。どうしたんだ?」
「今日、武闘会があるって聞いたから見に来たんだ。兄さんたちも来ていたんだね」
甲斐永久君。刹那の義弟にあたり、異父兄弟でもある。私とは従姉弟の関係だ。大天使・ミカエルと刹那の母との子であり、前回のラグナロクでエンゼルチルドレンとして私や刹那と敵対していた。現在は天界に身を置きながら世界を回っているらしい。
永久君は、ラグナロク起動前の刹那との戦いでエンゼルの力を刹那に与え、命を落とした。刹那はその後永久君と一緒にいることはかなわず。ラグナロクを起動するために奥へと進んだ。おそらくその間だったのだろう。私が追い付いた時にはその場に永久君はいなかった。刹那が戻ってきた後も、永久君は見つからなかった。学校もあったために魔界の後始末をパパにお願いし、人間界に戻ったが、永久君は行方不明のまま、かえってくることはなかった。
中学生になって永久君が亡くなったと世間が認識し、しかしそれでも人間界での生活はなにも変わらなかった。中学生、高校生と年代があがり、刹那との関係も少しずつ変化する中で、私たちは1つの分岐点に立ち会った。
私たちは、デビルと人間の子供。半分はデビルの血が流れている。私たちと同じデビルチルドレンの1人、葛羽将来君やエンゼルチルドレンである王城嵩治君たちとは違い、半分は魔界に住むデビルと同じだ。だからこその分岐点だったのだろう。
人間界に残るか、魔界に残るか。
それはつまり、人間として生きていくのか、それともデビルとして生きていくのか、という意味だった。それについて考えている中でも色々あったけれど……結論を言えば私たちは魔界に残ると決めた。クラスメイトや友達がいることを考えて残ることも考えたが、自分の異質性には気が付いていたし、なによりも家族と居たかった。刹那もそう思っていたのか、私と刹那は魔界へと身を置くこととなった。魔王・ルシファーの子供として。
魔界に身を置いてから何年かして、永久君の行方が分かった。というのも、直々に天使・ミカエルがパパの元に来て話していったからだ。生憎と私たちはその場にいなかったために詳細はわからなかったが、ゼット曰く、ミカエルも父親としての自覚が出たのだろうということだ。それからまた少しして、ようやく刹那は永久君と対面することとなった。あの時、私は初めて刹那の涙を見た。
私は再度、話をしている刹那と永久君を見る。人間界でいうと高校生か大学生くらいに成長した2人は、いつの間にか私の背を越していた。であったときは同じくらいだったというのに。2人は大会を見ながらどっちが勝つのだろうと話が盛り上がっている。ベールとクールのそばには、永久君のパートナーであるスフィンクスの姿もある。その様子を見てから、再度大会を見る。いつの間にか、2匹の戦いは終わっていたようで、お互いが握手をしていた。前回の武闘会は魔王の座を賭けていたからこんなことはなかった。今だからこそだろう。
「未来」
「なあに?」
声を掛けられ、私は刹那の方を向いた。
「大会終わったら暇か?」
「?ええ。時間はあるけれど……」
「よかった一緒に夕食を食べない?さっき新しくできたレストランを見つけたんだ」
「あら、ご一緒してもいいの?」
「もちろん!ね、兄さん」
「ああ」
2人は顔を合わせてほほ笑んだ。その様子を見て、なんとなくほっとする。刹那と出会って30年。永久君と再会してから20年。人間で言えばもういい年だが、生憎と私たちは全然変わっていない。他のデビルたちからは相変わらず子供扱いを受けたりする。それでも、30年という年月は長かったけれど、今振り返ればあっという間だった。そしてこれからも、まだまだ長い時間を過ごしていくことになる。でも、それでも私はきっと大丈夫だと思っている。人間からすれば長すぎるかもしれない。けれど、
刹那と、パパと、永久君と、ベールと、皆と笑って過ごしていれば、きっと私は私でいられる。
「それじゃあご一緒させてもらうわ。そういえば、永久君。一昨日だったかしら、刹那がね……」
「まっ……未来!その話は誰にも言うなって言っただろ!?」
「え?何々?」
「なんでもない!」
「話して減るものじゃないし……」
「減る!減るから!」
「兄さんちょっとうるさい。未来ちゃん、あとでこっそり教えてね」
「おっけー」
「おまっ」

2015/05/05

inserted by FC2 system