手に触れる七題

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もしなにかがあったとき、すっぱりとアイドルを辞めるのは、俺でも翔太でもなく、冬馬だと、俺は思っている。トップアイドルになるという目標を持って、Jupiterのリーダーとして前へ進んでいる冬馬は、はたから見れば一番やめると考えにくいかもしれない。けれど、961プロ脱退に乗り出したのは冬馬が最初だし、315プロに決めたのも、冬馬だ。やると決めたことには一直線だが、同時に自分の意思に反していたりする場合には早々に切ることも厭わない。もしも俺や翔太が、冬馬と同じレベルに立つことができなければ、Jupiterというグループも、なくなっていたかもしれない。それくらいに、冬馬は自分の意に反しているものから遠ざかった。俺や翔太が今もJupiterとしてやっていけているのは、俺たちが冬馬の目にかなう存在だったからだ。いや、もしかしたら他にも理由があるかもしれないが、冬馬が俺たちをどう思っているのかは、わからない。
しかし、そんな冬馬が、アイドルとしての後輩にあたる面々に対して手を差し伸べる現場に出くわすと、そういう考えも吹っ飛んで、ああ、冬馬に人にものを教える能力があったのか、なんて考えてしまう。過去に765プロに対してきつい言葉をかけていたからこその考えだった。
冬馬はトップアイドルを目指している。そのためにほかのアイドルを蹴落としてきたし、そしてこれからもそうしていく。そしていずれは、Jupiterではなく、天ヶ瀬冬馬というアイドルが、頂点に立つ。冬馬はその目的をもって活動している。俺たちはJupiterというグループの仲間であると同時に、ライバルでもある。ライバルとして冬馬を見れば、強敵であると感じる。しかし、仲間としての冬馬は、とても不安定だ。ほかの人にそれを言っても、同意は得られないだろう。
冬馬はきっと、なにかあったとき、最初にアイドルを辞めるだろう。だからそれを防ぐために、俺たちは隣に立つ。冬馬は、黒井社長の言葉を借りていわく、「アイドルのトップになれる」存在。しかしきっと冬馬1人だったら、すっぱりとやめていなくなってしまうだろう。けれど、Jupiterという存在があれば、多少はやめるという考えが消える。一緒になら頑張れる、やっていけるのだと、感じることができる。冬馬が961プロを抜けるにあたって、俺はすぐに冬馬についていくことを選んだ。それは俺1人ではアイドルの頂点に立つことなどできないと思ったからだ。翔太もきっと、なにかしらの思いがあっただろう。けれど、翔太もまた、ここにいる。
俺たち3人がどのように支えあって、協力しあえているのか、他者からの評価と、自分たちの評価じゃちがう。けど、それでもいい。俺たちはそれでもやっていけるのだから。


強度不安定な支え
(強くても弱くても、共にあればそれを補える)

2016/03/20

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