学校生活のお約束七題

7

「うらぁあああ!」
振り下ろされた剣が、目の前にいる化け物を切り裂く。後方に迫っていたものを、仲間のペルソナが消し去る。そんなことをして、どのくらいの時間が経過したか。それぞれ疲労もピークに達し、休息の地を求めるが、いまだ見つかってはいない。つい1時間ほど前に桜の、アガスティアの木のある部屋は過ぎ去っており、今から戻ってもただの時間の消費となるだろう。あの時に休んでおけば、と思っていても誰も口にしないのは、それが無意味であることを知っているからか。
「もーやになっちゃう。なおりん!どっか休憩する場所ないのー?」
少し前にいるクラスメイトに話しかければ、彼はゆっくりと後ろを向いてから、首を横に振った。そしてそのすぐそばにいる女子生徒が言葉を発した。
「探してるけど、見つからないー!」
「でも、休息は必要ですわ。このままでは倒れてしまいますもの」
レイピアをしまいながら、隣にいた仲間が言った。
「見張りを立てて休憩するしかないか……」
「アヤセ、一番にやすみたーい。もう動けないしー」
「……まあ、女どもが最初か」
後方でのその会話を聞いたためか、2人もまた戻ってきており、一方の女性、園村は綾瀬のすぐそばへと腰を下ろす。それに残りの女性陣も続いた。
「ったく、急に悪魔が手ごわくなってきたな。藤堂は平気なのかよ」
「俺は別に……。俺、周り見てくる。上杉たちはここにいて」
「俺もいく」
彼は、藤堂はそのままふらりと俺たちの輪から離れた。それに続いて城戸も彼についていく。城戸が一人を好んでいるらしいということは知っているため、その行動を怪しむものはいない。そして藤堂も、どちらかというと大人数で行動していることはあまり見られない。もっとも2年生になってから出会って、今に至るまでよくこのメンバーでつるんでいたことはあるが。
「しっかしまぁ……」
「……まぁ、なんだ」
続けようと思った言葉が出てこなくて止まると、近くの木に寄りかかった南条が言葉を発した。南条グループの御曹司……それしかしらないクラスメイトであり、どちらかといえば堅物。自分とは全く相性が悪くてこれから先も関わることはないのではないかと思っていた人物。
「あれだろ?俺たちみたいな集まりができるなんて思ってもなかったんだろ」
そしてやっぱり関わることはあっても相性はそこまでいいとは言えない稲葉。よそから見ればどうしてこう集まっているのかと思われそう感じではある。しかしこのような集まりができたのはきっと、すべての中心に藤堂尚也という存在があったからなのだろう。
「確かに、藤堂がいなければ貴様らなぞと関わることはなかったな」
「ほんとほんと。常々そう思ってるわ。クラス替えの時はどうしようかと思ったけどねぇ」
「へっ、それはこっちの台詞だ。」

藤堂尚也。自分たちと同じ2年生の男子生徒。片耳にピアスをつけているのが特徴であり、俺のように騒ぐこともなければ、南条のように堅物というわけでもなく、城戸のように一匹狼というわけでもない不思議な男。唯一目立つのは遅刻と居眠りくらいで、教師からは少々目を付けられているらしいが、それは学生である俺らに関係はない。聞いた話だと一人暮らし中。けれど弁当をもってきている様子もないから自炊はしていないのかもしれない。落ち着きがあって影では女子生徒に人気。俺の気のせいであればいいが、園村と桐島は彼に恋心を持っている、と思う。
俺らからしてみれば不思議な、悪く言えば得体のしれないやつ。それでもこうして人が集まるのだから、悪いやつではないのだと、おもう。


自分のことをどう思っているのか、気になる人もいるということは知っている。けれど俺は一度もそう思ったことはなく、他者からの評価を気にしたことはない。
1年の時は南条らと、そして今年は他のメンバーと、少しずつ話す人はいるが、その中で俺の本心を知っている人はどのくらいいるのだろうか。考えたこともなければ、気にすることでもないが。
「おい」
「……ん?」
後方から声をかけられて振り向くと、そこには城戸の姿があった。
「離れすぎると戻れなくなるぞ。ただでさえここは迷宮にちけぇんだから」
「あー……そうだな。一度戻るか」
彼に言われて向かう方向を反対にする。その際、城戸のすぐ横を通り過ぎたが、彼は何か言おうとして、言うのをやめた。


あってないようなこんな日常なんて
(気にする必要もなにもないと思うんだ。)

2015/2/5

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