遠距離恋愛で5つのお題

1.あなたの夢を見ました。

「あら、寝ずの見張り番?」
「・・・ハロルドか。」
遠い遠い未来の話。今いる時代よりも約1000年も先の事。語られることのない、歴史に残ることのない時代。空は月と星の淡い光に照れされ、夜というのに多少明るく感じられた。
。 そんな空間に、ぽつんと黒い影。おそらくこの6人のメンバーでは1番変質者と間違えられるはずの少年。しかし、今現在彼はトレードマークと化している竜骨の仮面を外し黒髪をなびかせている。
少年は少女の声に気が付くと、目線の先を変えた。
仮面を外しているが故に、幼くきれいな顔が月に照らされている。過去、美形だと言われていたのがうなずけるその容姿を持ちながら、彼の表情は明るくはない。
少女は少年の横に立つと、そのまま座り込んだ。
「見張りなんてロニに任せればいいのに。」
「あんなやつが寝ずの見張りができるとは思えないな。」
彼の言うとおり、ロニは他メンバーとともにすでに寝息を立てていた。6人の中では最年長に一応分類されている青年ではあるが、中身が少々残念であるが故、しっかり者に分類される彼には信用されていないようにみられる。実際は彼は青年を信用しているのだが、それを表に出すことはない。
野宿をしているというのに、緊張感のかけらはこのメンバーには存在しなかった。無論、普段来ることなの不可能に近い未来へと足を運んでいる彼女も、その内の1人だろう。
「それで、こんな夜中にどうしたんだ。」
「んー、中々寝付けなくてねー。ちょっとそこらにいる夜行性の虫の観察でもしようかと思った所。」
前半は真実であったが、後半は関係なかった。少年もおそらく気がついているだろう。しかし少年はなにも言わずにたき火へと視線を戻した。
「空にあんなものがあるにしても・・・平和ね。」
「1000年前や18年前のように天上人はいないからな。」
「そうね、こんなに平和な未来があるなら私もがんばった甲斐があるわ。」
少女はぐっと背伸びをして、ひんやりとした冷たい空気を吸う。冷たい空気が気管を通り、体を冷やす。
少女はその間に、空に一筋の光が横切ったように感じた。少女にとっては見慣れないそれは、書物でみたものよりも幾分かきれいで儚い。
「それにしても残念だわ。最終的にはこんな面白いことも忘れてしまうんだから。」
少女はそんな流れ星をみながら、ぽつりとつぶやく。隣にいた少年に聞こえていたようで、少年の目線は再び少女に向いた。
「・・・気づいてたのか。」
「あら、私を誰だと思ってるの?天才科学者のハロルド・ベルセリオスよ。」
この時代は、全て神が手を加えてしまった未来だ。現在空に浮かぶ神の卵に、その神がいる。
そして、少年たちはその神を倒しにいくだろう。メンバーの1人であるカイルが、リアラを失うことを怖がり悩んだように神を消せば全てが無くなるのだ。<リアラだけではない、死者である少年も、そして彼らがこうしていた証も記憶も。
代わりに返ってくるものもあるだろう。話だけで聞く、神が蘇らせたバルバトスに倒されたカイルの父はきっと戻ってくる。
そして、この冒険はなかったことにされ何事もない日々が送られる。少女も、ここから1000年前のあの時代で暮らすだろう。
「なに?自分が消えるのはいや?」
「いや・・・。むしろ僕は此処にいてはいけない存在だ。当然のことだろう?」

諦めのように、そしてそれが正しいように、自己犠牲をする少年。欲張ればいいのに、なんて少女は少年の言葉を聞きながらつぶやいた。
18年前。少年は命を落とした。詳しいことが記述された書物は少ない。もしかしたら存在しないかもしれない。少年が命を落とした本当の理由、少年がいた境遇の真実は、口伝でしか残っていない。
「つまらないわねー。私はこんな面白い出来事の記憶を忘れるなんてできっこないわ。」
「安心しろ、どうせ全て忘れる。」
「無かったことになるものね。ま、私はそれでも諦めないけど。」
時刻はどのくらいを回ったのだろうか。空を見れば、月は真上へと上がって降下を始めていた。
「あんたもリアラみたいに奇跡でも起こしたら?もしかしたら生きられるかもよ?」
「無理だな。」
「どうしてよ。」
「僕は、罪人で死人だぞ?」
「そんなこと関係ないじゃない。今はここに生きているんだから。諦めが早いのよ。」
「・・・」
少年は黙り込むと、再び口を開くことをためらった。少年は16歳で死んだ。ならば彼は16歳だ。たった16歳の少年が、なにをすぐに諦めるのだろうか。 23歳であるロニや15歳のカイルでさえ、諦めることはしないのに。こうしたことになると、彼はとたんに口を閉ざすのだ。

「ま、あんたがそれでいいのならいいけどね。」
「・・・いい加減寝ろ。」
「はいはい。」
この話は終わりだ、とでも言うように少年は少女が此処を離れることを望んだ。少女はその気持ちをくみ取り、話を打ち切る。
「あんたも、誰かを起こしてかわってもらうかなにかして休みなさいよ。」
座っていた場所から立ち上がると、少女はすでに4人が眠っているたき火の側へと向かう。
「おやすみ、ジューダス」


少女が目が覚めると、いつもの見覚えのある部屋だった。多々の研究材料と、多くの偽名がついた物が目に入る。
懐かしい、夢をみたような気がする。誰か、少女よりも年下の誰かと会話していた夢だ。
そして、この時代では見ることは中々叶わない月や星のある空を見ていた。しかし、少女はその夢の真実に思い当たらない。

現在この時代には少しずつ降下を開始している天空都市がある。少女が生まれた頃にはすでに存在し、それは空を完全に覆い尽くす。
少女は、空をしらない。太陽を知らない。月を、星を知らない。だが、少女の夢に出たのは、書物で語られるそれそのものだ。
少女は考えるのをやめ、ベットから起き上がって簡単な身支度を調える。
少女は軍人だ。先日戦争が終わりを告げた。しかし、戦争が終わっても少女にはやることがある。ソーディアンの封印、そして天上人の処分。やることは多々ある。ここで立ち止まってはいられないのだ。
部屋を出て会議室へと向かうと、すでにソーディアンメンバーは何人かそろってきた。
少ししてもう1人がいないと思ったが、すぐに居なくて当たり前なのだと思い出す。メンバーの1人である少女の兄は、すでにこの世にはいない。今までいたのが当たり前だったのにいなくなった兄の存在は、少女には大きい。
総司令の話をある程度聞き流しがら少女は思い出す。そういえば兄が死んだ後誰かが謝った気がすると。
ソーディアンメンバーの誰かだっただろうか、いや違うはずだ。その容姿は黒髪で、低身長。当てはまるメンバーはいない。

  “すまない、ハロルド” 
申し訳なさそうに、全てを知っていても黙っていたのだと。
少女はそれを、笑い飛ばして
少し先を進んでいた残りの仲間は、後ろでの私たちのやりとりを何事かと様子見していて。
だんだんとではあるが、少女はその記憶を思い出した。はっきりとではない。きっとこの記憶は本来ないはずのものだろう。ではなぜ思い出せているのだろうか。うっすらと覚えている朝の夢を思い出す。
“つまらないわねー。私はこんな面白い出来事の記憶を忘れるなんてできっこないわ。”
“安心しろ、どうせ全て忘れる。”
“無かったことになるものね。ま、私はそれでも諦めないけど。”
この部屋にいるメンバーにばれないように顔を綻ばせる。
少女はその会話を頭の中で繰り返しながら、同時に脳内で思考を巡らせる。
少年と出会ったら、なにを言ってやろうか。
全てを諦めるように語っていた彼に。
神の行いを見ていた彼女ならば、きっと神の力に近いことも出来るだろう。彼女の新しい目標が、立ち上がった。
思い立ったのならばすぐ行動。少女は周りを気にすることなく走り出した。同室にいた者達が私を引き留める声がする。









なぜ少女がすべてを思い出したのかなどわからない。本来ならば、少女のそのあり得ない未来の記憶は、消えてなくなってしまうはずだった。
なぜ少女が思い出してすべてを受け入れ、行動したのか。それは少女にしかわからない。
少女は少年の前に立つと、にやりと笑う。
「どうしているんだだって?あんたの夢を見たのよ、ジューダス」

2011.06.11

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