近しい人への恋心で5つのお題

1.いつも隣にあなたの笑顔

「メルティア、また本読んでるのか?」
「ディオス・・・。うん、本読むの好きだから」
いつもいつも部屋で本を読んでいた私。
そうすると、いつもいつも声をかけてくる彼
本をのぞき込んだ彼は、一瞬眉をしかめた。
あまり本を読まない彼にとっては少し難しい本なんだろう。
私はそう思わないけれど
「部屋にこもってないで外出たら?今日は天気がいいし。」
外は雲1つない晴天だった。
この地域だととても珍しい事だ
いや、もしかしたら晴天も珍しいことではないのかもしれないけれども
今の国の状態からしてみれば、空を気にすることはあまりない。
気にする時と言えば・・・敵国がなにかをしてくる時くらいだろうか
「ほーら!」
「ちょっ・・・ディオス!」
ぐっと急に腕を引っ張られて持っていた本が床に落ちる。
拾おうとしても彼がどんどん腕を引っ張っていくのでその場を離れていってしまう
彼はそのまま玄関へと向かう
「ディオスっ、どこ行くの?」
「どこって・・・どこでも!」
「えぇ?」
どこでもって・・・ただ行く当てがないだけなのではないだろうか
それでも、歩みを止める気配はない。
「せっかく今までずっとあった雲が無くなったのに・・・家にこもってるなんてつまらないだろ?」
「それはディオスでしょ?私は別に・・・って本当にどこに行くつもり?」
なんだか、目的地が決まっているような足取りだった。
途中止まって悩んだりすることもなくて・・・本当に適当に歩いているだけなのだろうか
どう考えても、目的地が決まっているような
そう思っているうちに、どんどん家から離れていく。
本当、どこに向かっているのだろう。
彼は平気かもしれないけれど、普段外を出歩かないでいる私にはちょっと辛い距離
「ほら、メルティア。もう少しだからさ」
何がもう少し、なんだか。
いつの間にかつながれていた手は離れている。
少し距離があいて、時々後ろを向いては早く来るようにせかす彼
仕方なく、少し走るように彼を追った。
「ディオス、一体どこに行くの・・・?」
「これ、せっかくの晴れだから見せたかったんだ。」
彼に追いついた私に見せるように彼は動いた
そっと後ろに回り込まれて、軽く押される
「一体何を・・・」
「本読んでるだけじゃなくて、たまにはこういうのも見た方がいいぜ?」
私の前に広がっていたのは大きな花畑
時々、蝶がひらひらと舞っている
赤、青、黄、白。
沢山の花が至るところに咲いている
「偶然見つけたんだ。すごいだろ?」
まさか、こんな戦争の真っ最中であるこの国に、このような物があるなんて思わなかった。
人の踏み荒らした後がない、きれいな地があるなんて
「・・・すごいね。」
「だろ?本読んでるだけじゃなくて、たまには外にでようぜ!
そうすればもしかしたらこれ以上の物がみれるかもしれない」
そう言うと、彼はすっとしゃがみ込んだ。
「ディオス?」
「ほらっ。」
急に彼の手が私の髪に伸びた。
目の前には彼の顔
「うん、似合ってる。」
はじめは何を言っているかわからなかった
けれども、彼が手を離した所に軽く手を持って行くと
何かにふれる感じがした。
「ディオス・・・」
「また来ようぜ、ここにさ。」
話を聞く気があるのか無いのか・・・
彼はそういうと微笑んだ。
それにつられ、私も笑う。
そういえば、彼はいつも私の側で笑っていたっけ。
時々、戦争の様子を見ると悲しそうな顔をするけれど
それでも、私の側では笑っていた。
当たり前で、なんとなく気づかなかったけれども
「どうした?」
「ううん、何でもない。・・・そろそろ戻ろ?時間も時間だし」
「えー、もう少しここにいようぜ」
彼はそういって花の無い草むらに転がった。
「もう・・・」
「ほら、メルティアも」
隣の開いている所をたたかれ、仕方なく座る。
「・・・ここも、いつか戦争で焼け野原になっちゃうのかな」
「そうかもね。」
未だに戦争は止まる気配がない。
物心がついた頃にはとっくに始まっていた戦争
いつか、その戦争がこの空間さえも壊してしまうのだろうか
「たとえ、さ・・・たとえここがなくなっちゃっても・・・
俺たちは一緒だよな?」
ふと、彼の笑みが消えた
私は最初、彼の言っていることが理解できなくて
「・・・何言ってるの?急に。」
「・・・いや、なんでもないや。忘れて」
無理矢理話しを切り替えるように、彼は勢いよく立ち上がって
「行こうぜ、時間も時間なんだろ?
また晴れてる時に・・・今度はもっと早めにこよう」
「・・・そうだね」
私も立ち上がり、歩き始めた彼を追う
相変わらず、花畑には蝶が舞っていた。


でも、これ以降にここに来ることは無かった。

2010.10.09

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