近しい人への恋心で5つのお題

5.ずっと一緒に・・・

父上が死んだ。
俺の目の前で。
降伏をしようとはしなかった父。
“あれ”を起動しろと俺に命令し、死した父

その命令に従い、研究所へと向かった。
いつもは何人かの研究員、科学者たちが忙しなくうごく研究所
しかし、今回は人が見あたらない。
そして、時々臭う異臭。
それは、戦場に出ていればいつも感じるもので。
嫌な予感がした。
それは、昔も感じた予感。
“・・・何言ってるの?急に。”
あのとき、ふと彼女がいなくなってしまうのではないかと思った。
彼女の返答で、気のせいだと思いこんだけど。
結局、1度彼女はいなくなってしまった。
再び巡り会えてからは、今まで一緒にいたけれども。
彼女がいる場所は事前に知っていた。
過去何度か行ったこともある。
だから、出来るだけ急いで向かった。
“あれ”がある場所に、彼女はいるはずだから。
彼女がいるであろう部屋の入り口まで向かい、ドアを開ける。
あけた瞬間、目の前には悲惨な光景が広がっていた。
彼女の助手であろう者の亡骸
そして、
「メルティア!?」
倒れている彼女の姿。
急いで抱きかかえるものの、既に体は冷たくなっていた。
「なん、で・・・」
どうして彼女がこんな状態になっている?
いつ、ここに敵国が攻めてきた?
なぜ、父上の所にその連絡が来なかった?
もう、生きてはいない彼女を再び横たえる。
すぐ側には、彼女が開発していた“あれ”があった。
“あれ”――魔科学兵器は、この戦争を終わらせるものとして注目されていた。
だが、予行の時に重大な欠点が発覚し、使用が遅れているとも聞いたことがある。
実際、彼女もそう言っていた。
これは、“世界のマナを全て使い果たす驚異”
これは今の段階では世界樹を枯らし、世界を滅ぼすと一部で言われている。
最も、知っているものはほとんどいないけれど。
ふれてみると、壊れていないらしく、発動できるようになっていた。
攻めてきた敵国は、これに気づかず放置したのだろうか。
スイッチを押すと、いつもの電子音とともに、文字が浮かび上がる。
その文字には目もくれずに、発射の準備を行う。
父上の命令だから、とかそんなんじゃない。
彼女の、敵討ち。
はじめの頃は、両親の敵討ちだったのに、気づいた頃には変わってしまっていた。
それほど、俺にとって彼女は大切な人だったのだろうか。
彼女を抱えたまま、発射のレバーを動かした。
青い光が、2つの国を襲った。
それを窓を通して見つめた。
あれが、彼女が開発していたもの。
それは、民間人も、兵士も、全てを巻き込んでいた。
見ていると、突然息苦しさを感じ、膝をついた。
今まで、体験したことのない・・・
これがマナを消費するということなのか。
人も、大地も、全てはマナが無ければ生きていけない。
そんな世界だから。
無くなれば・・・もうこの世界は破滅を迎えるだけ。
・・・俺の、せいになるのだろうか。
それとも、これを作った彼女?
全てを引き起こした戦争?
いや、彼女は悪くない・・・
俺が、勝手に操作してしまったのだから。
「・・・メルティア・・・ごめん・・・」
守ると、決めていたのに。
結局、あの時の約束も守ることが出来なくて。
眠気に襲われるように、うつぶせに倒れ込んだ。
手を伸ばせば、すぐに彼女に触れられる。
もう、既に冷たい彼女。
研究所にこもりっきりだった彼女と、最後に話したのはいつだっただろうか。
こんな事になる前に、一緒にいれば良かった。
こんな事になるなんて、思っていなかったから。
戦争の真っ只中だったのだから、そんなこと思っていてはいけないのだけど。
彼女は大丈夫だと、ここにいるのならば、護衛兵士もいることだし
大丈夫だと思っていたのだ。
その考えが、甘かった。
もう、体を動かすこともままならない。
言葉を発することも、もう何も出来ない状態だった。
瞼も、俺の意志に関係なく下がっていく
そっと、手を彼女の手の上に重ねた。
せめて、最後だけは一緒にいたいから。


意識を完全に失う前に、誰かの声が聞こえたような気がした。

2010.11.06

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