近しい人への恋心で5つのお題

4.もう二度と離さない

家族が皆死んだ。
何があったのか、なんて分かり切っていた。
戦争だ。
戦争のせいで皆死んでいったんだ。
兵隊が襲いに来て、目の前で死んでいった。
俺はあのとき、ただ見てることしかできなくて
”来い!”
そういったあの人の言葉で、ただついてきた。
両親の敵は自分で討て、と。
なぜ俺に話しかけて来たのか
なぜ俺を連れて行こうとしたのか
そんな理由は、俺にはわからない。
「どうしたんだ、ディオス。」
「・・・別に。」
どこかの部屋に連れてこられ、そこにいるように伝えられた。
ベットがあって、机の上にはラジオが置いてある。
窓の外から見える風景は、どことも変わりはない。
「そうか・・・少しの間ここで待っていてくれるか。食事を持ってこさせよう。」
それだけ言うと、あの人・・・バンディ将軍は部屋を去っていった。
この部屋には俺だけしかいない。
もう、1人でいるのも随分となれてしまった。
昔は、いつも2人でいたから、1人になったときは心細かったけど。
ラジオをつけると、毎日のように続いている戦争についてが話されていた。
今の現状、正直俺のいる国が負けている状態だった。
どうして、あいつらを滅ぼさないんだ・・・なんてずっと思っていた。
今現在この国がどのような状態にあるのかは大まかにしか知らなかったけど
ラジオから伝えられる国の状態は、俺が知っている事よりも多少詳しかった。
でも、負けているという状態には変わりはない。
コンコン、と控えめなノックの音が聞こえた。
俺はそれに返事もせずに窓の外を見つめた。
今日は、相変わらずの曇り空だ。
雨などは降りそうにはないが、晴れることもなさそうだ。
最近、いつもこの天気なような気がする。
ドアがそっと開いていく。
さっきの将軍ではなさそうだけど
「入るわね?食事を持って行くようにお父様に言われたのだけど・・・」
女の声、いや・・・俺と同じくらいの年の・・・そしてどこかで聞いたことのあるような
「出来れば返事してくれるとうれしか・・・ぇ?」
ふと、声がとぎれた。
何事かと思って俺はゆっくりと背後にいる声の主のほうをむく。
その声を主を見たとき、思わず目を見開いた。
服装は違えど、その姿はどう見ても彼女と同じで。
「ディオス・・・?」
その言葉が、声の主が彼女であるという真実を俺に伝えた。
「メルティア?」
「ディオス・・・どうしてここに・・・?」
手に食事がのったトレイを持ったまま立ちつくす彼女と俺
以外だったのだ、彼女がここにいることが。
なぜここにいるのだろう。
そう思っていると、ふとあの将軍の顔が浮かんだ。
俺と同じように彼女を連れてきたのだろうか。
彼女が死なずに生きてくれていることに関しては感謝しなければいけない。
彼女はそっとトレイを机の上に置くと、俺の方に近づいてきた。
「本当に、ディオスなのね・・・?」
「・・・あぁ。」
そういって笑ってやると、彼女は手を顔にあて目を細めた
そして、目から涙をこぼし始めた。
「め、メルティア?」
「本当に・・・ディオスなのね・・・もう、会えないって・・・」
崩れ落ちそうになった彼女を支えると、小刻みにだが震えていた。
「・・・俺も、もう会えないと思ってた。」
「ごめんね・・・ディオス。私、私・・・」
「大丈夫。・・・もう、勝手にいなくならないだろ?」
確認だった。
あのときのように急にいなくならないで、という。
「・・・えぇ、もう・・・いなくならないわ。」
涙目のまま、そう彼女は微笑んだ。
「ごめんなさい、もう大丈夫。」
そういった彼女が立ち上がり、支えていた腕を放す。
それを見た時、俺は彼女を抱きしめた。
「でぃ・・・ディオスっ?」
抱きしめたまま、俺は無言で顔を埋める。
自分でも、何をしているのはよくわからない。
「ど、どうしたの・・・?」
「・・・っ」
もしかしたら俺は、彼女がいないことに相当こたえていたのかもしれない。
「・・・ディオス?」
さっきまでの驚いた声とは違い、すこし落ち着いた声。
それが聞こえても、俺は腕をゆるめなかった。
そのまま、少しの時間が過ぎていく。
抵抗せずにされるままだったメルティアが、そっと行動を起こした。
されるままだった手が、俺の背中に回される。
「大丈夫よ?ディオス。」
ポンポン、と背中を軽くたたかれる。
「・・・ごめん。」
「どうして謝るの?」
いつからだったんだろう。
こうして彼女にふれることが出来なくなったのは
もう、覚えていない。
たぶん、年月に換算すれば短いのだろうけれど
俺にとってはとても永かった。
「・・・もう、離さないから。」
「ディオス・・・」
「もうっ・・・離れないから・・・」
「・・・えぇ。」
もう離れたくないと思った。
あの永い時を、再び味わいたくなかった。

だから・・・
「もう、2度と離さない。」

2010.10.24

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