ガンダムSEED/DESTINY/FREEDOM

アニメ・スぺエディ・リマスターごっちゃごちゃ。DESTINYはTHEEDGE基準
アスラン成り代わり。特殊設定・構成につき注意。名前変換はありません。
成り代わり要素はちょっと濃くなりました。

 ミレニアムはもともと、これからオーブへ向かい、カガリと会談予定があったのだという。一部屋与えられて、到着までくつろいでほしいとラクスに言われてしまった。とはいうものの、到着予定は翌日。一晩どうするか、とごろんとベッドに横になった。キラはどうやらアークエンジェルの方にいるらしく、パイロットはシンたち3人のみ。クルーゼ隊に比べたら、やっぱり少ないな、と思うが少人数体制なのだろう。乗務員人数は不明だが、パイロットが少ないのならモビルスーツの管理も少ない。ジャスティスから降りたときに格納庫を見たが、動かせそうな機体はジャスティス含めて3機。とはいってもどれも整備中に見えた。コンパスは設立してまだ間もないのだろう。デバイスを起動してさっと検索をかければ表向きの理由は意外と速く結果が分かった。シンの言葉にも出てきたメサイア攻防戦が半年前。当時のプラント最高評議会議長のデュランダル議長が死去したのがこの時。その後プラントとオーブで停戦協定が協定され、その後世界平和監視機構コンパスの設立。多国の事情を考慮した結果、ある程度形になったのは本当にここ数か月の出来事のようだ。そうなれば、モビルスーツがまだ整備中なのはわかる。まあ、援助している国々の量産機を使えばいい、と言ってしまえばそれでおしまいなのだが、コンパス専用、となると勝手がちがうのか。
 デバイスを閉じて、ベッドの上で身体を伸ばす。目の前には白い天井が広がった。退屈だな、なんて思う。病院からアスハ私邸に移動した後も腕が使えなかったとはいえ療養中で時間はたくさんあった。けれど、その時はこんなに退屈だ、なんて思わなかった気がする。なにをしていたのか、と聞かれると答えられないほどにはなにもしていなかったのだけれど。何が違うのか、と聞かれたらたぶん1つしか心当たりはない。ここには、カガリがいない。

 しばらくぼうっとしていれば、扉が開く音が聞こえて体を起こした。ロックはしたはず、と思うと同時にぴょんぴょん跳ねる球体が飛んできた。手でキャッチして、それが放つ機械音に聞き覚えがあって目を見開いた。
「……ハロ?」
 オオキニ! なんてハロは音を出した。開け離れた扉と、ハロ。これが開けたのかと気が付いてから、そんな性能つけたっけ、と考える。まあ、たぶん渡して以降いろいろな機能が搭載されたのだろう、と自分を納得させた。
 ハロは手から逃れると再度跳ねながら部屋を出ていこうとする。扉を閉める機能はないのか、開けるだけ開けて出ていったハロを見送ってから扉を閉めるために立ち上がった。扉に手をかけようとしたと同時に、すぐ外に人影があってそちらに目を向ける。赤いコンパスの服装に、白金の髪を持った少年と目が合った。ミレニアムに来た時に格納庫にシンを迎えに来た2人の内の片割れ。
「……レイ?」
「アスラン」
 どうしたんだ? と聞けば時間があったので、と返ってきた。聞くとちょうど夕食時らしく、食堂に現れなかったために様子を見に来たとのことだった。彼とはそんな関係だっただろうか、と首を傾げればすぐに返答が返ってきた。
「シンはジャスティスの試運転報告をしています。ルナマリアは付き添い。2人の間に割り込む気はありません」
 レイはそう言うと、案内しますとだけ言って踵を返す。扉を閉めて、とりあえず彼についていく。
「あなたのことはシンから聞きました。ミネルバにいたときのことは覚えていないと」
「……ああ、そうだ」
「そうですか」
 それっきり、レイはなにも言わなかった。必然的に、無言で歩く男2人が出来上がった。なにか話した方がいいのかと思いつつも、彼とどういう関係だったのかもわからないし、彼を困惑させも悪いだろうと口を開くことはしなかった。
 そうしてミレニアム内の食堂へと通される。座っていてくださいと言われていう通りにしていれば、レイは2人分の機内食を持ってきて向かい側に座った。
「ありがとう」
「いえ」
 ワンプレートに置かれた食事に手を付けると、同様にしていたレイが口を開いた。
「こうして2人で話すのは初めてです」
「え」
 レイの視線は食事を向いたままだ。思わず手を止めたが、レイは気が付いていないのか気にする様子はない。
「ミネルバにいた当時、あなたはギルの不利益になる存在でしたから。俺から見たらあなたは敵でした」
 ギル、というのは誰だろうかと思って、デュランダル議長のフルネームがギルバート・デュランダルだと思い出す。それだけで結びつけるのはどうかとも思うが、合っていると心が言っていた。
「ですが、アスランは俺に手を伸ばしてきました。いつか、その理由が聞きたいと思っていました」
 残念です、とレイは言う。俺が彼に手を伸ばした時を、俺は知らない。



 レイはあの時、ギルと一緒に逝くつもりだった。否、最初はギルをまもるためだ。しかし、2人の会話と、キラと1対1でやりあった時の言葉が、レイの頭の中で響いていた。
 __命は、何にだって一つだ! だからその命は君だ! 彼じゃない!
 それが、結果としてレイの意識を変えた。そのあと、彼らがギルに対して発した言葉たちが、よけいレイの心に突き刺さった。
 __人々が渇望した戦争のない世界があと少しで実現しようとしているのだよ?
 __あなたは、そんな風に世界を眺めているから人の心が見えなくなっているんです! あなたを最後まで信じて従った人間の心でさえ!
 __運命を受け入れることで人の苦しみは終わり、世界は生まれ変わるのだ
 __違う! 人は過去を消すことなんてできない……過去があるから明日を願うんだ!
 __ずっと背負って生きていくというのかね? 人の罪と恐ろしさを、私の示す未来を放棄して……再び混迷する世界を君たちはどうしようというんだ?
 __……覚悟はある。僕は、戦う!
 レイはギルを討った。ギルはレイにとっては親同然で、彼のいうことが真実ですべてだった。どのみち先も永くない。彼の為に命を張ることなど、造作にもないことだった。それなのに、彼のためであったのに、レイは彼を討った。それはほとんど反射的なもので、レイは彼を討って、崩れ落ちた。なぜ、と聞かれても言語化などできない。いつの間にか、ギルと深い仲であったグラディス艦長が彼の側にいて、拳銃をキラとアスランに向けていた。グラディス艦長がレイを呼ぶが、レイは立ち上がれなかった。グラディス艦長が2人に撤退するように言葉を投げる。2人がギルたちに背中を向けて去ろうとして、アスランがレイへと近づく。キラのアスランを呼ぶ声が響いた。
「レイ」
 敵だった。レイにとってアスランは、ギルの計画の妨げになる敵だった。だからこそ、アスランがザフトから脱走するときには殺す気で彼を討った。生存させる気などさらさらなかった。そんな彼が生きていて、それを仇に思っているはずの彼がレイに手を伸ばした。
「……ぁ」
「行こう。シンのところに」
 結局、レイはアスランの手をとった。シンの名前を出されたのも、理由なのだろう。戦場で別れたきりの友人。レイはシンが簡単に負けるとも、死ぬとも思っていない。だからそれは、生きろと言われているようなものだった。なぜ、アスランがそう言ったのか、レイはこの時聞けなかった。
 
だからこそ、聞きたかったのだが。とレイは心の中でつぶやいた。目の前にいるアスランはシンのいう通り、ミネルバにいたときの彼とは違うように見えた。気の抜けた表情をしている彼は、戦士と言われてもあまり納得できない意識をしているように見えた。ミネルバでの、気を張り詰めた彼とはまるで別人だ。戦後、レイは一時期療養をしていて、ザフトに復帰して早々にシンたちとともにコンパスへと出向した。その間、オーブに残ったアスランとはまともに会話をしていない。シンやルナマリアは話をしたらしいが、レイにはその機会は偶然にも来なかった。だから、アスランがミレニアムに来たときにはチャンスとも思っていた。それすら、アスランの状況が奪っていったが。



「悪い」
 覚えていないことを、思い出せていないことを。そう返せば、レイは気にしていなさそうに返してきた。
「いえ」
 それから食事を再開して、すぐに廊下から知った声が聞こえた。そちらに意識を向ければ、案の定予想通りの声の持ち主が食堂に入ってくる。
「あー疲れた」
「いい加減報告書くらいさらっとできるようになりなさいよ」
「だってさー」
 扉に視線を向けていたので、シンとルナマリアと目が合った。2人が驚いたようにこちらを見た。
「珍しい組み合わせ」
 ルナマリアがそういってこちらに近づく。シンに2人分持ってくるようにと言って隣に座った。
「なに話してたんですか?」
「いや……」
「ルナマリアが気にすることじゃない。報告は終わったのか」
「やっとね。あとはデータをハイライン大尉が確認するって」
「そうか」
 ルナぁ、という声とともにシンも合流し、シンはレイの隣に座った。先ほどの俺とレイとは打って変わって、3人でポンポンと交わされる会話に耳を傾ける。同期とも言っていたし、仲もいいのだろう。俺に対しては探るように話しかけてきたシンも口が軽くなっており、なんとなく、俺がディアッカやイザークに対して思った感覚と同じものを彼らに感じた。



結局、イザークの誘いを受ける形となり、ディアッカにより半年ほど遅くパイロットに復帰した。そんな矢先にデュランダル議長より声がかかり、オーブからくる来賓へのおもてなしと護衛の特務任務を与えられる。その相手がカガリで、全部議長はわかってて采配したのだとひしひし伝わった。ユニウスセブンの地球落下を機に意図せず地球へと降りて、オーブにカガリを返して再度宇宙へと上がった。護衛に対する恩義があるといって、シャトルはオーブで用意してくれた。そのまま、ボルテールへと移り、ボルテールのパイロットとしてジュール隊で宇宙にいるつもりだった。しかし、先の事件をきっかけとして、今まで緊張状態のまま訪れていたひと時の平和は終わった。
 __是より私は、全世界の皆さんに非常に重大かつ残念な事態をお伝えせねばなりません
 太平洋連邦の大統領がすべてに向けたその放送は、新たな戦争の始まりでもあった。俺はそれを、ボルテールから見ていた。
 __この未曾有のテロ行為を行った犯人グループを匿い続ける現プラント政権は、我々にとっては明かな脅威であります。よって先の警告通り、地球連合各国は本日午前0時を以て、武力による此の排除を行うことをプラント現政権に対し通告しました。
 同時にコンディションレッドが発令され、戦闘準備が行われる。周囲の艦隊からもモビルスーツが出撃される。
「結局はこうなるのかよ、やっぱり。こちらシエラアンタレス1、ジュール隊イザーク・ジュール、出るぞ!」
「ジュール隊、ディアッカ・エルスマン、ザク発進する!」
「同じくジュール隊、アスラン・ザラ、セイバー出る!」
 イザークを追う形で宇宙を飛ぶ。正面から向かってくるモビルスーツならびに艦隊へとビーム砲を向ける。あの時に嫌というほど戦ったというのに、まだこうして、俺も、相手も敵に武器を向けるのか。両断されて爆発するモビルスーツを横目に、次から次へと迫る機体を同じように撃ち抜いた。そうしていると、司令部より通信が入る
「全軍、極軌道からの敵軍を迎撃せよ! 奴等は核を持っている。一機たりともプラントを討たせるな!」
「核!?」
 思い出されるプラントと地球軍の戦い。相手は核を、プラントはジェネシスをそれぞれ撃ち合った。それが何を招いたかなど、向こうも解っていると思っていたが
「やらせないっ」
 プラントに向けられる核に対して背部のビーム砲を構える。周囲のモビルスーツが核に対して攻撃をするのを見て、同時にそれを発射した。いくつかの核を巻き込むも、すべては撃ち落とせず、核がプラントへと向かっていく。
「……くそっ」
 機体を核へと近づけようとして、それを邪魔する地球軍のモビルスーツへとサーベルを突きつける。それと同時に、プラント側から核ミサイルに向かって、何かが放たれた。のまれた機体が、艦隊が次々と爆発していく。それは核も変わらない。
 これをきっかけに、地球軍は月基地へと撤退。プラントは、一基も撃たれずに済んだ。けれど、これ以降、宇宙では常に緊張状態となり、いたるところで小競り合いが起こることとなった。それは最前線にいるジュール隊も同様。しかしそんな最中に、議長から呼び出しをくらった。それに対してこんな時期に、とイザークは怒りをあらわにする。
「大体、セイバーとともに来いとはどういうことだ!? こっちは戦闘中だぞ!?」
「まあまあ。けれど確かに謎だ。アスランは何も知らないのか?」
「ああ。どういう意図か、確認する必要がある」
「さっさと済ませて戻ってこい。戦闘力は多いほうがいい」
「分かっている」
 声をかけてくるイザークとディアッカに返答しながらも、格納庫にてセイバーの最終調整をすませる。周囲に地球軍がいないことが確認できたら、そのまま出撃してアプリリウス市に向かうことになる。またカガリか、それとも三隻同盟に関することか。議長が指名で呼んでくることといったらそこらへんしか心当たりはないが。
「気を付けていってこいよ」
 出撃準備が整って、整備員らがすべて退避する時になってディアッカはそう言った。それに手をあげることで返して、ハッチをしめる。発進準備完了の合図とともに、セイバーで宇宙へと飛んだ。

「ミネルバに、ですか?」
「ああ、君はFAITHとしてあの戦艦に加わってほしい」
「……FAITHとしての資格は、軍事裁判の結果失われたと認識していますが」
 議長から出されたバッジ。それは過去でいう特務隊の証。今ではFAITHという通称が使われるのが一般的なそれに該当する者たちは、特別なバッジを身に着けている。
「裁判結果は知っている通りだろうに。無論、君のFAITHとしての資格は残っている。証を渡すのが遅れたのは、こちらの失態だがね」
 議長はそういって、バッジを再度こちらへと向けた。
「己の信念に従い、この混迷する世界をよりよくしていくために戦う者の証だ。私とともに戦ってくれたまえアスラン。プラントのためだけではなく、皆が平和に暮らせる世界の為に」
「……はい」
 その後、ミーアという少女に出会うというひと時を過ごしてからボルテールへと戻った。事のあらましを話して今度は地球にいるミネルバへと合流すると伝えれば、やはりというかイザークは声を荒げた。一応は俺の上官にあたる人間に人事異動の知らせくらいこないのか、と。FAITHなら来ないんじゃないか、と返したディアッカはにらまれていた。それほどまでにミネルバという戦艦は、議長の信頼に厚いものなのか、とも疑問が浮かぶが、地球に今いる以上、プラントに戻る手筈を整えることも含めてミネルバは忙しいだろう。ましてや地球は、プラントにとっては敵が多い。今は中立オーブにいるはずだが、と思うが、その後ディアッカから告げられた地球のニュースは耳を疑いたくなるようなものだった。
「は?」
「いやあ、俺もそう思うわ」
 オーブの世界安全保障条約機構への加入。それはオーブが中立という存在ではなくなったことを示す。プラントの敵国になったのだ。
「カガリは、どうして?」
「その姫さんだけど、どーやらオーブにいないらしい」
「えぇ!?」
 どこに、と思うと同時に宇宙にいるディアッカがどうしてその情報を、と目を向けてしまった。伝手があるもんで、と彼は言うが、おそらくはミリアリアだろう。どう連絡をとっているかは知らないが。
「姫さんの結婚式にフリーダムが乱入して連れ去ったんだと。アークエンジェルは相変わらずやることがでかい」
「……結婚? フリーダム?」
「なんだ、アスラン知らなかったのか? 姫さん、婚約者と結婚したらしいぜ。でも乱入騒動で有耶無耶だと」
 オーブがプラントの敵になったことにも驚いたが、それよりもカガリが結婚、おそらく相手はセイラン家の男だろう。確か勝手に決まった婚約者がそこの人間だと聞いた気がする。正直、気に入らないが、それをカガリが国のためと受け入れたのならなにも言えない。言わないと決めていたのだが……。すこし、探りを入れてもいいのだろうか。
「地球にどのくらいいるかはわからないが、調べてみる。伝言は?」
「無事なところにいろって言ってくれればいいぜ」
「受け入れるかは別だが、わかった」
 そうしてセイバーを地球に降下させる準備を整えて、宇宙から再度地球へと降りる。本当だったらそのままオーブにいるはずであろうミネルバに合流する予定だったが、オーブが敵国になった以上そこにはいないだろう。一番可能性の高い、カーペンタリア基地へと向かう。先の大戦でも訪れたことのある場所だ。上空から信号を送って入港許可を取り、そのままミネルバへと機体を下ろした。上空から見たところ、戦艦は修理を受けていた。すでに戦闘を行ったのだろうか、宇宙と同じように。
「アスランさん!?」
 機体から降りれば、見ていたのであろう軍服を着た者たちに迎らえた。その中には、ユニウスセブン落下テロ事件でミネルバ内にてあったパイロットたちの姿もあった。
「認識番号285002 特務隊FAITH所属アスラン・ザラだ。乗艦許可を」
「なんであんたが!?」
「シン!」
 声を上げたのは、あの時インパルスに乗っていた少年だ。ザフトの赤服。今では上位10名ではなく20名になったらしいが、少なくとも、士官学校での成績は十分あるのだろう。
「艦長は? 艦橋ですか?」
「ああ、はい、だと思います」
「確認してご案内します!」
 上官であることが分かっているだろうに声を上げるのは、その意味を理解しているのか、していないのか……とはいっても、自身も経験があるためなにも言えなかった。近づいてきていた他の乗務員に聞けば、すぐに動いてくれた。

「貴方をこの艦によこして、私までFAITHに? 一体何を考えてるのかしらねえ」
 ミネルバ艦長であるタリア・グラディス艦長へと議長より預かったものを渡した。FAITHの証と、今後についての命令書。その内容はこちらには知らされていない。グラディス艦長はその内容を見て、一つ溜息をついた。
「ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへ向かえ。現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ」
「スエズの駐留軍支援ですか!? 我々が」
 同席していたアーサー・トライン副艦長が叫んだ。
「そうよ。ユーラシア西の……連合の制圧から独立しようとするレジスタンスの紛争もあって地上では今一番ごたごたしている場所ね。何の意図があるか知らないけど、ともかく準備が整い次第出航することになるわね」
「ミネルバは地上艦じゃないんですけどねぇ……」
 議長は、連合からの声明の後、積極的自衛権の行使を名分に地上への降下作戦を開始した。ジブラルタルは地球にあるザフト軍の駐屯基地だ。ザフトにとって重要拠点であることに違いはない。しかし、宇宙艦であるミネルバが行く理由はわからない。別で地球艦を用意すればいいだけの話だ。そこまで逼迫している状況でもない。さらに地上に俺を下ろした意味。ミネルバが重要なのか、それとも乗務員か。偶然地上に降りていたから、というわけではないだろうが。
「アスラン」
「はい」
「貴方がFAITHとして乗艦するということは、戦闘時のモビルスーツの指揮はすべて貴方に任せることになるわ。うちの部下たちのこと……よろしくたのむわね」
「……はい」

 オペレーターだというメイリン・ホークに部屋へと案内される。モビルスーツに入る程度の小さな鞄だけが持ちものだから最低限ではあるが、荷物を広げた。少なくとも、議長から命令が来るまでか、FAITHの権利を施行してミネルバを出るまではここで過ごすこととなる。が、モビルスーツの指揮、か。過去、1度だけ隊長をしたことがある。けれどメンバーは旧知の面々だった。それに、その隊は十分には動けなかった。2年前とはいえ、そんな俺がここでやっていけるかどうか。あまり、タイプではないと自分では思っている。が、やらないといけないこと。ただ、やっぱり。戦いは、苦しい。

「シン・アスカ。レイ・ザ・バレル。ルナマリア・ホーク。君たちがミネルバのパイロットで間違いないか?」
「「「はい」」」
 一緒に戦う以上、顔合わせと最低限の特徴くらいは知っておくべきだろう。艦長にお願いしてミーティングスペースに3人を呼んでもらった。
「ユニウスセブンの降下作戦でも会ったが、アスラン・ザラだ。本日付けでミネルバへの異動となった。艦長より、君たちの指揮も任されている」
 そう言葉にすれば、3人から、とはいってもレイはあまり表情に出ていないが驚いた表情を見せた。元々3人は今期士官学校を卒業したばかりだという。地上戦は、オーブより出航した後に地球軍らと一戦したのが最初だそうだ。まあ、ミネルバは宇宙艦だし、それが普通だろう。
「なんであんたが」
「議長からの指示だ。一応、ブランクはあるけれど地上戦経験もある。至らぬ点もあるとは思うが、よろしく」
 そういって手を出せば、率先して返してくれたのはルナマリアだ。次点でレイ。シンは戸惑いながらも最後に返してくれた。おそらくだが、クルーゼ隊でいうとイザークタイプだろうか。今のイザークは少しまるくなったけれど、俺との相性はあんまりよくないだろうか。
「先日の戦いのデータは見させてもらった。インパルスは性質上戦況に応じてシルエットを換えて臨機応変に戦うことが多いが……シンの場合状況を見極めたうえで、前線を張る方が向いているだろう。ルナマリアとレイは彼の補助、ならびに別動隊としての役割を振ることが多いかもしれない。俺の乗るセイバーは機動性重視、補助に回ることが多くなる。指揮は執るし指示も飛ばすが、君たちには細かい部分においては自己の判断で動いてもらうことになる」
 レイとルナマリアが乗る機体はザクだ。彼らが赤服であるため、高性能なものが与えられている。汎用性が高いため、様々な状況に対応しやすい。一つの能力に突出だけしているよりかは、十分に実用的だ。
「職業柄、君たちの機体に合わせた指示を飛ばす可能性がある。得手不得手も含めて、今後君たちの士官学校での成績、ならびに今後のシミュレーションの成果を拝見するだろうが、気を悪くしないでくれ」
「職業柄って、パイロットじゃないんですか?」
 ルナマリアがそう言った。まあ、パイロットに間違いはないのだけれど。
「一時期設計局で技術者として働いていた」
第一次地球・プラント大戦のあと、約1年半くらいか。今は正規軍となったが、俺がザフトに所属したときはまだ義勇軍。大戦のあとの条約にてプラントは独立国として認められて、ザフトも正規軍になったが、義勇軍時代に所属していた者は基本的に本来の役職を持っている。イザークが議員だったのもそれだ。俺はザフトのみの所属ではあったが、正規軍になった時点でパイロットから技術者へと移った。結局、イザークに声をかけられてパイロットに戻ったのだが。
「自己分析したうえでの得手不得手も教えてくれると助かる。それと、最低1度は地上戦のシミュレーションは行っておいてくれ。いつ、戦いになってもいいように」



「アスラン?」
「……なんだ?」
 ふとシンから声をかけられて顔を上げた。3人の視線がこちらを向いていた。
「大丈夫ですか? 病み上がりって聞きましたけど」
「あぁ……大丈夫だ。あとは3人でゆっくりしてくれ、俺は部屋に戻るよ」
 空になった食器をもって立ち上がる。やりますよ、と言って立ち上がったルナマリアを制止させて所定の位置へと食器を持って行ってから食堂を出た。

「……なんか、ぼうっとしてたけど、本当に大丈夫なの?」
 アスランを見送って姿が見えなくなってからルナマリアが口にした。ミレニアムに戻るまでに何度か同じ様子を見たシンは肩をすくめた。
「おそらく、ここまでの過程でなにかしら記憶を刺激するものがあったんだろう」
 いち早くアスランの方から視線をそらしたレイが、水分に手を伸ばしながらもそう言った。
「シンに聞いたけど、本当に覚えてないの? なんか、ぼーっとはしてたけど、どう見てもアスランじゃない」
 ルナマリアはシンから聞いたことを疑っていた。実際に会っても、特に違和感がなかったのが理由だ。
「……いや、たぶんレイのいう通りだと思う」
「えぇ?」
 しかしシンは、アスランが向かった方向を見ながらそう返した。シンが思い出すのは、墓地にてシンから視線をそらしたアスランの姿だ。
「プラントでアスランと会った時、全然視線が合わなかった。でも、さっきは普通だったし。……ミネルバにいたときのこと、思い出したりしてんのかな」

2024/2/26

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