ガンダムSEED/DESTINY/FREEDOM

アニメ・スぺエディ・リマスターごっちゃごちゃ。DESTINYはTHEEDGE基準
アスラン成り代わり。特殊設定・構成につき注意。名前変換はありません。
成り代わり要素はちょっと濃くなりました。
ストーリー上必要だったのでネームドのオリキャラがいます。

 頭をよぎる思い出たちは、いつも戦いと一緒にある。絶えず行われる戦争の中に、果たして意義はあったのだろうか。

 ミレニアムが地球への降下行動を開始した。艦内を強い衝撃が襲った。艦内の窓から見える宇宙と地球の境目。幾度となくみた光景はすでに慣れ親しんでしまったもので、でもきっと、知らない方が平凡に生きていられたのかもしれない。そこに、今の自分も、今の幸せもないのだろうけれど。
 衝撃の後に、艦内が地球の重力に適応して動きが緩やかになった。このままオーブ近郊の海へと着水し、海港へと向かうという。ほぼ手ぶらと言っても過言ではない荷物をまとめて立ち上がる。着陸準備をしている面々には悪いと思い、ラクスにだけ声をかけた。正装したラクスは快く出迎えてくれて、そして見送ってくれた。
「アスランがあの時のようになっていなくて安心しましたわ」
「あの時?」
「貴方が、ザフトのアスラン・ザラだった時」
 ラクスはハロを手にしたままそう言った。その言葉にどんな意味が込められているのか、おそらくすべてを自分が理解しているわけではない。けれど、それが悪い意味ではないことは分かる。
 オーブの港について艦を降りると、出迎えてくれたのは2人の男女だった。どちらもオーブの軍服を着ている。
「お疲れ様です。アスランさん」
「ザラ二佐、お迎えに上がりました」
 オーブ式の敬礼をしたのち、男の方が車を用意しています、と言って背を向けた。その隙をみて、女の方が近づいてくる。
「カガリさんから話は聞いてます。彼……ブラウン三尉は知らないです」
 小声で彼女はそう言った。視線を向ければにっこり微笑まれる。紅のツインテールをなびかせて俺の隣へとやってくる
「メイリンです。公だと、ホーク三尉って呼んでましたけど……部下なんで呼び捨てでどうぞ」
 彼女はそのあと、普通のトーンで言葉を続ける。
「カガリ代表がお待ちになっています。面会時間は1時間後の予定となっていますが、このまま官邸まで向かってよろしいでしょうか?」
「……一度、アスハ私邸まで向かうことは可能か?」
「はい。十分間に合います」
 彼女は俺の返事を聞いて、すでに車の運転席にて待機しているブラウン三尉に行先を告げる。彼が少し慌てた様子を見せるも、命令だと受け取ったのか了承してくれた。彼女が助手席に、俺が後部座席へと座ってから、車はゆっくりと動き出した。



「議長、お聞きしたいことがあります」
 司令部からの出頭命令。シンとともに受けて向かった先にはデュランダル議長とラクス・クライン扮したミーア・キャンベルがいた。最新モビルスーツの授与。本来であれば喜ばしいことであるのに、依然心は重い。それは、アークエンジェルを落とせと議長が命令したからか、それとも、キラたちがいないからか。
「……なにかな?」
 だから、真偽ははっきりさせておきたかった。2年前の戦争においても、ただ疑っているだけではなく、その目で確かめたいと思った時と同じように。
「なぜ、アークエンジェルとフリーダムを討てと命じられたのですか?」
「アスラン……」
 シンがこちらを見た。その視線に気が付かないフリをして続ける。
「解決には他の手段もあったはずです。なのになぜ、彼らの言い分も聞かずに撃墜命令を? __あの艦に誰が乗っていたのかを分かっていたのに」
「なるほど、君からの話とはやはりそのことか。シン、すまないがアスランとは個人的な話になりそうだ。君はひとまずミネルバに戻って新機体の登録などを済ませてくれ」
「あ……はい、失礼します」
 話の内容をシンに、外部に漏らしたくはないらしい。当たり前だ、アークエンジェルにラクス・クラインが乗っていたなど。ここにいるラクス・クラインが彼女ではないことを、今知られたりすればザフトは、プラントは荒れる。
「さて、アークエンジェルの件だが、君には辛い命令だったことは承知しているよ。本当に……すまなかったね。だが、彼らは間違えた。私はザフトの最高責任者としてこれ以上アークエンジェルの行動を放置するわけにはいかなくなったのだよ。私は、戦争を生み出すロゴスを滅ぼすと決めたのだ。そのための作戦もまもなく開始される。できれば戦いたくはないが、あちらが抵抗すれば戦闘は熾烈を極めるだろう。もしその時に……」
「彼らがロゴスに味方すると?」
「可能性はあるだろう? 連合にオーブが与している限り。我々は勝たねばならんのだ。あの命令はやむを得ない判断だった……。グラディス艦長も投降を呼びかけてくれたそうだが、ザフトを信じてもらえなかったのは本当に残念だよ」
 ザフトを信じる。情勢だけを見れば、ロゴスという1つの敵を倒すためにプラントと地球が協力するこの瞬間を見れば、信頼は出来なくても、信用できた可能性はあっただろう。けれど、彼等の言葉が真実ならば、今のザフトに信頼できない要素がある。ミーアの存在もそうだろう。そこに、実質的肯定をしている俺が言えることはないけれど。
 けれど、そのあとに続いた議長の言葉に、驚きを隠せなかった。
「彼らは本当に……不幸だった」
「不幸……?」
「そうだよ。例えば……極めて優秀な戦士の資質と力を持ちながらそれを知らぬまま時代に翻弄されて生きてしまった君の友人キラ・ヤマト君……。民衆を言葉で大きく動かす力を持ちながらその役割を放棄したラクス・クライン……。彼等は知らぬが故に道を間違え、身を滅ぼしたのだ。彼らが君やシンのようにその力を正しく使っていれば、一体どれ程のことができたかと思うと、実に残念だよ」
「……」
「知らぬが故に道に迷い、誤って悔やみ、無益に争い滅ぼしあう。それは無意味で不幸なことだ。人は自分を知り、出来ることをして社会の役に立ち、満ち足りて生きることが幸せだろう? すべての人がそうやって幸福に生きる……そんな世界なら二度と戦争など起こりはしない。そうは思わないかね?」
 そんな理想論の世界を、どうやってつくるというのか。そしてその理想は、人々の願いや想いをどれだけくみ取ってくれるのか。まるで、そんなものは投げ捨てて、役割のためだけに生きろと、言われているようだ。そして、役割を遂行できないのなら、役に立てないのなら、アークエンジェルのように、彼等のように消されていくのか。
「……私は、その世界が幸福だとは思えません」
「……そうか、残念だ」

 戦争をなくす。その一点においては、考えは一致している。それどころか、これはアークエンジェルの面々も同じのはずだ。ロゴスを討って終止符を打つ。今見えるなかで一番近い、戦争を終わらせる方法。それなのに、過去三隻同盟として戦っていたアークエンジェルが、キラやラクスたちが戦争をするロゴスの味方をする可能性があるなどという与太話を、議長は本気で考えているのか。彼等の目的が不明瞭だったのは事実だ。急に現れて、地球軍もザフトも、どちらも攻撃する彼らは、義賊と言えるのだろうか。ザフトにとっては、明らかな敵だったのは間違いない。だから、彼等を討つ指示が間違っているとは言えない。だがその意義は、アークエンジェルに誰が乗っていたのかもわかっていてそれをする意味とは。ロゴスを討った先にある平和な未来。議長が想う幸福な世界。
__そこまでの過程における致し方ない犠牲。
 その言葉を納得して受け取れるほど、俺は薄情者にはなりたくはない。
「アスラン!」
 扉が開いて、入ってきたのはミーアだった。会う予定もなかったため首をかしげる。
「やっぱりいた! だめよ、こんなことしてちゃ!」
 彼女はそういって部屋の中へと入ってくる。ラクスと同じ姿をしてはいるが、その表情も、動きも、ラクスとは違う。
「貴方、こんなことしてたらほんとに疑われちゃう」
「……議長の思う役割を遂行できないと?」
「それは」
「君は、ラクスが居なくなって、ラクスに成り代わって、ラクスとして生きることが幸福か?」
 役割を果たすことだけが、幸福へとつながるものか。それが幸福なら、誰も戦争に対して辛い想いなど抱えていないだろうに。俺の言葉に、彼女は大きく慌てて
「そ、そんなこと……だって、ラクスさんは生きているものっ」
「え」
「あっ」
 とっさに口を手で押さえるも、一度口にした言葉は戻らない。
「どういう……」
「……アークエンジェルには、もう乗ってなかったはずよ。私が乗るはずだったシャトルで宇宙に行ったもの。でもこれは黙ってて! お願い!」
 彼女が知っているなら、議長が知らないはずはない。少なくとも、ラクス・クラインが生きていてあんな台詞を言えるものか。議長は、何を隠している? これまで見ていた議長が表なら、彼の裏は。
「ラクスさんは無事だから、あなたも今は議長の為に……」
「……議長のために、役割を遂行するだけの存在、ね」
 そのためだけに、軍法会議で無罪放免としたのなら、よほどの策士だ。いつからここまでの先を見通していたのか。俺もディアッカも、イザークも、少なくともあの時恩義を感じた。それすらも、手のひらの上だったとしたら。
「ミネルバ所属特務隊アスラン・ザラ。保安部の者です。ちょっとお話をお聞きしたいことがあるのですが」
 ノックが聞こえる。なるほど、議長はミーアの動きすらわかっていたのだろう。用意周到で、そして無駄に早い。
「アスラン?」
 彼等がノックした扉に向かう。不安げにするミーアを後ろに、扉を開いた。目の前には、武装した2人組。素直に出てくるとも思われていなかったのか、逆になぜか彼等が驚いていた。
「議長の下でしたら、お伺いします。ですが、この場にラクス・クラインを置いてくのも憚られます。彼女の護衛がこられてからの出頭でも構いませんか?」
 そう言えば、彼等の視線がミーアを向いた。彼女を1人で置いておくことに、彼等も抵抗があったのだろう。無線機で人を呼び始める。その間に、ミーアが近づいてくる。
「アスラン」
「……ラクス。俺は君の行動を肯定できない。けれど、元婚約者として君の幸せは願っている」
 これが、本当に君の幸せであるならば。

「えっ?」
 ルナマリアは廊下で見た光景に目を疑った。アスランが、武装した誰かと一緒に歩いている。それはまるで拘束されているような光景で、状況の理解ができなかった。とっさに廊下の角に隠れて、その場をやり過ごす。アスランたちが居なくなったのを確認して、ルナマリアは電話を手に取った。

「残念だよ。アスラン。君がこのようなことをしていたとは」
 議長はそういって、1枚の写真を机に置いた。俺が、キラやカガリと会っていた写真。それを見ながら、なるほどそれを利用するのかと少し納得した。
「外部への情報漏洩、謹慎だけでは済まされない」
 ましてや君は設計局にいた経歴もあるからね、と議長はつづける。さらに言えば彼等はオーブの人間だ。オーブ軍に、ひいては地球連合に、情報を渡したと思われても仕方ない姿でもある。それからも、彼はありえそうな罪状を述べていく。
「……弁解はあるかね?」
 議長のそれに対して、口を開く。周囲の保安官が銃口をこちらに向ける。両手を背中で拘束されている以上、危害を加えることなどできないというのに。それとも、よけいなことは話すなという威嚇か。
「議長、あなたの考えは、あなたを信じた人たちを見ていない。彼等の想いを、願いを、すべて踏みにじる行為だ。彼等の内面を見ないで一つの駒のように使う行為を、俺は認めない」
 一発、銃声がなった。右肩に強い衝撃が襲った。同時に焼けるような痛みを感じた。
「今ここで、俺を殺しますか」
 再度、撃った保安官が銃に手をかけようとして議長が静止した。さすがに、ここで俺を殺すと偽装が面倒だと思ったのだろう。せめて、事故かなにかに見せかけて処分した方が都合がいいはずだ。
「君には、期待していたのだがね」
「……わたしもです」
 両腕を掴まれて無理やり退室を促される。はてさて、行先はどこになるだろうか。似たような状況で、あの時父と敵対したときのことを思い出した。あの時と違うのは、場所と、相手にしている存在。外の天気すら同じでこういう現場に俺は縁があるのだろうか。
 外に出されて、車に押し込まれそうになるところで、両腕を無理やり振りほどいた。一発、彼等の銃を蹴とばして走り出す。夜で、そして雨という環境は周囲にバレにくくてありがたいが、まずは拘束をどうにかしないと話にならない。ひとまずどこかに隠れて、と走り出したところで路地裏から伸びた手に捕まれた。とっさに振りほどこうとして、聞き覚えのある声が聞こえて動きを止めた。
「こっち!」
 そのまま路地裏に引き込まれて、すぐそばを保安官が走っていくのが見えた。
「……どういうつもりだ?」
「あんたこそどういうつもりなんだ!?」
 引き込んだ相手は、シンはずぶぬれになりながらも小声で声を荒げた。

 ルナマリアがアスランが連行される現場をみて最初に連絡を取ったのはシンだった。ミネルバにて新機体の登録を済ませて、また機体を見に行こうとした矢先のことだった。ルナマリアの連絡を受けてそのまま彼女の部屋に向かう。部屋に二人っきりになって、ルナマリアはシンに向かって口を開いた。アスランが保安官に連行されていた、と。
「なんで!?」
 状況が見えてこずにシンが驚きの声を上げる。わからないわよ、とルナマリアは返した。
「でも、たぶん……」
「たぶん?」
「私、艦長に言われてアスランを尾行したことがあるの。その時に、その……これ、誰にも言わないでね」
 アスランが、アークエンジェルクルーとコンタクトを取ったこと。艦長にもそのことは彼自身が報告しており、その結果もすべてが伝えられていること。けれどその中に、“今議長のところにいるラクス・クラインが偽物”であることが含まれていたこと。艦長には忘れるように、と言われていたことを、ルナマリアはシンへと打ち明けた。
「もしかしたら、それで何かあったのかも……ほら、ラクス・クラインってアスランの婚約者でしょ?」
「でも、それで保安官がでてくるって……あ」
「シン?」
 シンはふと、ついさっき格納庫でのアスランと議長を思い出した。アークエンジェルとフリーダムの討伐について。結果としてシンがやりぬいたことではあるが、アスランはそれに対して議長に疑問を呈していた。議長はそれに対して個人の話、といってシンを退出させた。その時に、なにかあったのか。
「……聞きに行く」
「え?」

 __落ち着けってアスラン
 __落ち着いている! 司令部は何を考えているんだ!? あの状態のシンを2度も不問にするなんて
 __そりゃあ俺らには機体がないしな。戦える人材には限りがある
 __だが結果として周りからシンに対する不信感が増長されるだけだ!
 __そいつは
 __あいつがエースで、今戦えるのがシンだけなのはわかる。だが、その状況でミネルバを前線から引かせずに戦わせて、シンへ負担を押し付けて……それをシンが望んでいたとしても認めちゃいけない
 __……
 __大切な誰が死んで苦しんでいる一人の人間を想うことすら、戦争は許してくれない……

 ステラを逃がした時、ステラがフリーダムに殺された時、そのどちらも、シンはアスランの言葉を聞かなかった。聞く気もなかった。最終的にお咎めもなく不問となって、自分が正しかったのだと、ミネルバの他のクルーたちが間違っていたのだと、そう思ったのもある。その裏で、アスランがハイネと話していた内容は、当時のシンの耳には入ってもそれ自体を投げ捨てた。
 自身が、腫物扱いされていたのも、わかっていた。同期が多くいるなかで、シンの側にいたのはレイだけだった。ましてやあの時、シンの頭の中はフリーダムを討つことしか考えていなかった。
 それが結果として、アスランに、ステラを討ったフリーダムを敵視する自分と同じ状況を与えた。それなのに、アスランはシンとは違って、フリーダムを討ったシンに対して怒るどころか、労わるなんて。2年前の戦争において、アスランがフリーダムのパイロットと一緒にいたことなんてアスランの活躍を知っている人ならだれでもわかる。少なくとも、一緒の母艦に乗っていることくらい。そんな人物を討ったのにアスランはシンに対して怒りも、恨みも、そういった感情を向けなかった。
 そんな彼が、新しい機体を譲渡されて早々に保安官に捕まるようなことをするのか。シンに向けたかった恨みを議長に向けたのか。それとも別の理由があるのか。けれど少なくとも、あれほどのことをしたシンが不問なのにそれだけでアスランが処罰されるのに納得はいかない。
 だから、こんな雨の中、シンはアスランに手を伸ばした。ルナマリアの静止を振りほどいて。

「なんで追いかけられて……って怪我!」
「シンこそなんで。いや、見なかったことにしろ。自室に戻って……」
「あんたの状況見て、見ぬふりは無理でしょ!」
 シンは俺の背後に回って拘束をほどいた。いいから、と言っても聞いてくれない。
「なにしたんすか!? こんなこと」
「……議長にとって、俺は不要になったというだけだ」
「はあ?」
「銃殺刑、いや不慮の事故で死んだ扱いかな。どちらにしても、殺して終わりだ」
 事実を伝えれば、シンの顔が歪んだ。どこか気に入らなかっただろうか、と首をかしげる。死ぬつもりですか、と返ってきてまさか、と返答した。
「簡単に死んでやれるほど、俺は人間ができちゃいない。議長が望んだとおりに情報漏洩くらいするかな」
 そういって立ち上がってそっと外を見る。すでに警報が鳴っており、逃げ出したことは知れ渡っているようだ。ジブラルタル基地から逃げ出すには、やはり足がないと難しい。奪取するにしても、どこも厳重だろうが。
「……ついてきてください」
「シン?」
「あんたが、俺よりやばいことするとは思えないし。あんたに、死んでほしいとも思ってない」
「……自覚はあったのか」
「今思い返したら! です。でも、間違ってなかった。それは今も変わらない」
「……それでいいんじゃないか。俺も、議長への返答は間違えていたとは思っていない」
 シンが俺の手首をつかんで走り出す。怪我をしていない方なのは、彼のやさしさだろう。いくつかの路地を曲がって、シンは1つの部屋へと遠慮なく入り込んだ。扉を閉めて切れた息を整えていると、シンがあれ、と言葉をこぼした。
「シン?」
「……まちがえた」
「シン? アスランさん?」
 その部屋にはメイリンがいた。外の騒ぎを見ていたのだろう、カーテンが少し開いた窓の側に彼女はいた。
「……ルナの部屋にいくつもりでした……」
「もしかして、2人がスパイ!?」
「シンは違う」
「あんたを逃がそうとしてるって意味じゃあってますけどね……」
 息を整えながらシンが口をはさむ。庇おうとしたところに横やりを入れられて思わず睨んでしまった。
「お姉ちゃんも?」
「メイリン、このこと内緒にしておいてくれ。全部終わったら説明するから」
 メイリンはシンをじっと見つめて、そのあとにこちらを向いた。直後少し目を見開いて、待ってください、と声を上げた。
「メイリン?」
 彼女はすぐに机の上にある端末を動かした。何をしているか聞く前に、メイリンは作業を終えて立ち上がった。
「港に警報を出しました! 今なら……」
「君……」
「いいんです。なにか事情がおありみたいだから」
 私、車回してきます。と言って彼女は部屋を出ていった。その様子を、思わずシンと見送ってしまった。そしてすぐに、彼女を完全に巻き込んだことに気が付いた。
「えっ、メイリン!?」
「……彼女は俺に脅されたことにすればいい。シン、君はさすがに」
「でも」
「シン、君まで反逆罪になったらミネルバはどうなる。これまで不問にされた問題を掘り返されれば君の立場が怪しくなる。」
 窓の外から車が見えて、窓を開けて飛び越える。そうして、シンの方を向いた。
「それとも、一緒に来るか?」
「ぁ……」
「プラントに、ザフトに、そして議長に反旗を翻す行為だ。ザフトにはもう戻れなくなる」
 シンは少しの沈黙の後、首を横に振った。だろうな、と思う。ザフトには、ミネルバには彼の同期や仲間がいる。彼等を裏切ってまで、脱走する気は毛頭ないだろう。シンからしてみれば、議長は敵ではないのだから。
 シンに背中を向けて走り、そのまま車に乗り込んで、窓から見えないように身体を横にする。メイリンはそのまま車を走らせて、港とは反対の方向へと向かう。
「君は降りるんだ。俺に脅されて協力していたといえばいい」
「だったら格納庫まで行きます。それに、これは私の意志ですから」
 彼女は俺の言葉を蹴った。せめて、格納庫で彼女を逃がせればと思う。近くで車を乗り捨てて、格納庫へと忍び込んだ。
「ありがとう」
「はい……気を付けて」
 メイリンと別れを告げたところで、物音がして彼女を抱えて物陰に隠れる。直後、先ほどまでいたところに銃弾が撃ち込まれた。
「きゃっ」
「やっぱり逃げるんですか!? また!」
「レイ……」
 その声は、レイだった。早々に議長が手配した追手は彼だったか。驚きと同時に、議長がミネルバを気に掛ける理由、FAITHを最終的に3人も配属したのは、クルーに一目置いていたからと納得した。それがレイで、シンなのだろう。
「俺は許しませんよ! ギルを裏切るなんてこと!」
 近場に隠されていた銃を手に取って、レイに向けて撃つ。
「やめろレイ!」
 銃弾はレイの持つ銃を打ち抜いて、彼の手からはじいた。その隙に彼女に手を伸ばす。
「来るんだ! 早く!」
 あれでは、確実に俺だけではなくメイリンも撃っていた。脅されていた、という事すらなかったことにしてメイリンも一緒に始末するつもりなのだろう。どちらも、スパイだと仕立てあげて。
 モビルスーツに2人で乗り込んで起動する。最低限の武装しかないが、ひとまず逃げきれればいい。彼女を逃がせるところを見つけられれば、と港から離れるようにと飛ばした。乗り込んだグフイグナイテッドにはフライトユニットがあるから、追手もある程度は撒けると踏んでいたが、追手の機体が見えるよりも早く背後からビームライフルが飛んできた。水しぶきが上がって進行を妨げられる。
「アスラン!」
「レイっ」
 俺に譲渡される予定だったレジェンド。レイが乗ることになったか。撃ち込まれるビームライフルをよけながら、どうにか距離を取ろうとするも、続けて襲ってきた攻撃に舵を取られる。
「アスラン! お前どういうつもりだ!?」
「ハイネ……っ」
 なるほど、ミネルバに残っていて出撃が可能だったのは彼だったか。量産型のグフイグナイテッドに乗っているのはこちらと同じだが、武装はもちろん向こうの方が多い。
「俺は、議長に、人間を目的の道具としか見ない人間に自分の力を預ける気はない!」
「俺達は軍人だ! 割り切れと言ったはずだ!」
 __割り切れたら、どれだけ楽か。
 結局、俺は軍人には向いていないということだ。士官学校を卒業してからザフトにいて、一時離反したときはあるもほとんどの時間を軍人として過ごしておきながら。けれど、だからこそ、俺には俺の目的がある。それが、誰かから批難されようとも。
「メイリン、捕まっていてくれ。衝撃に備えて」
「は、はい」
 2対1、ましてや相手の一機は最新機体だ。性能からしても逃げきれるとは思っていない。レジェンドのビームライフルは絶え間なく飛んでくるし、迫ってくるグフのビームソードは元々高出力で機体を切り裂くことができる性質がある。互いの機体の性能がある程度わかるからこそ、厳しい状況であることはわかる。
 __一か八か、か
 一つ間違えれば、こちらの生存は絶望的だ。けれど、それにかけるしかない。少なくとも、メイリンだけはどうにか生還させたい。
 レジェンドのビームライフルを足で受ける。吹っ飛んだ足もろともビームソードが切り込んでくる。そこに腕も巻き込んで、コックピット近くの胴体で受け止めた。爆発を誘発したと思ったのかすぐにグフは機体から離れた。その瞬間に動力を落としてそのままメイリンの頭を抱え込んだ。強い衝撃をもって海に叩きつけられる。コックピットが無事なら、沈んだところで密閉は保たれる。しかし、無事だとわかれば向こうは追い打ちしてくるだろう。だから、賭けるしかない。1つ目の賭けはコックピットが無事だということ。2つ目の賭けはこのまま彼等に生存確認されずに沿岸までたどり着けること。そして3つ目はザフトにも地球連合にも、そしてロゴスにも見つからないこと。無謀な賭けなのはわかっているが、それしかないのだ。

 できれば、彼女は巻き込みたくなかった。



「なにか忘れ物ですか?」
 アスハ私邸に着いて、メイリンにそう問いかけられた。メイリンは事情を知っている。もしかしたら、アスハ私邸で療養していたことも知っているのだろう。
「ああ、すぐに戻る」
「ご一緒しますか?」
「いや、大丈夫だ」
 2人を置いてアスハ私邸にはいれば、あらあらとメイドに声をかけられた。療養中、世話になった人たちだ。お帰りなさい、と言われて思わずただいま、と言ってしまった。窓から逃亡したというのに、カガリから説明されているのかあまり驚いた様子はない。
「どうかしましたか? カガリ様は官邸にいますけれど」
「いや……着替えを取りにきただけなんです。すぐに出ます」
「あらぁ。お手伝いはいりますか?」
「い、いえ……1人で大丈夫です」
 メイドの声掛けを断って、療養中過ごした部屋に入る。部屋は、俺が出て行ったときと変わらずそのままだった。扉を閉めて、壁にかけていた服に手を伸ばした。

2024/3/3

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