ガンダムSEED/DESTINY/FREEDOM

アニメ・スぺエディ・リマスターごっちゃごちゃ。DESTINYはTHEEDGE基準
アスラン成り代わり。特殊設定・構成につき注意。名前変換はありません。
正直成り代わり設定は香る程度であまり重要じゃない

 操作は問題なさそうだな、と言われて俺は頷いた。アスハ家が管理している自家用車。ギプスも取れてリハビリも順調に進み、医師から身体はもう問題ないでしょうとお墨付きをもらって。それでもほとんどを療養場所-アスハ私邸-に過ごしていた俺に対して、カガリはいい思いをしなかったようで、外に出られるようにと運転技法を伝授してくれた。とはいっても、見て、触ってみればなんとなく動かし方はわかったし、実際に問題なく動かせた。それに対してカガリは、せっかく教えられる機会だったのに、と少し残念そうだった。
「なにかったらすぐに連絡してくれ。私は出られないかもしれないが、必ず誰かにつながるようにしてある。それと、何かあったときのためGPSはつけさせてもらう。あまりいい気はしないと思うが……」
 通信機器を受け取りながら、ふるふると首を横に振った。申し訳なさそうにしてはいるが、今の俺が1人でなにかあったら対処なんてなにもできないだろう。カガリが心配するのは道理だ。
「ありがとうカガリ。忙しいのに」
「このくらい平気だ! ……本当に大丈夫か?」
「ああ。少し、走ってくる」
 運転席へと座ってエンジンを入れれば、特に問題なく自家用車は動き出した。外から不安そうにこちらを見るカガリに対して、できる限り安心できるようにと笑った。
「カガリよりは先に戻るよ」
 アクセルを踏んで、自家用車は進みだす。ミラー越しにこちらを見つめるカガリを見ながら、そのままアスハ私邸を出た。



 アスハ私邸から去っていくアスランを見て、カガリは胸の内に秘めていた指輪を服越しに握りしめた。すべてを忘れてしまったアスラン。出会いも、別れも、今一緒にいる理由も、そのすべてを今のアスランは覚えていないという。彼が全くの別人になっていたら、カガリもまた諦めが付いたのだろう。今の状態のアスランをオーブ軍に戻すわけにもいかない。殉死か、それ相応の対応にして彼には彼の新しい人生を歩んでほしいと願っていたかもしれない。けれど、アスランはアスランだった。カガリに見せる表情も、言葉に込められている想いも、そのすべてが記憶を失う前の、カガリの知っているアスランと同じだった。時々、本当に記憶を失っているのかと疑いたくなるほどには。それでも、本当にアスランは記憶を失っている。部屋に置かれた段ボールがいまだに開かれていないのは、その証拠の1つだろう。キサカに頼んで軍の寮から持ってきてもらったアスランの私物。1度開けた後はあっても、それ以降中身を出している様子は一切見られなかった。カガリが渡した護り石でさえ、今もアスハ私邸のアスランの部屋の机の上に置かれている。
「アスハ代表、お車の用意ができました」
「……ああ、いこう」
 付き人の声で、カガリはアスランが向かった先から目を反らした。実際、アスランが言う通り、この時間は無理やり調節して作ったもので、業務はすし詰め状態だ。やるべきことは、いまだたくさんある。それでもアスランとできる限り一緒にいる時間を取ろうとするのは、今のアスランがカガリをどう思っているのか、わからないからだ。過去、アスランがプラントに、カガリがオーブに残った時も長期間連絡が取れなかったが、その時抱えていた不安よりも、今のカガリは強い憂慮を抱いていた。

 __アスランは帰ってくる。必ず



 特に向かう場所も考えず、気の向くままにエンジンをふかした。アスハ私邸とその周辺については先んじて地図にて確認はしていたが、車で動ける範囲になると調べていないこともありほとんど勘だ。帰り道についても気にはなるが、簡単に脳内に走ってきた部分の地理が浮かんでくる時点で、頭の出来はさすがコーディネーターなんだな、と感心した。
 なのに、記憶は簡単に飛んでしまった。
 どのくらいの時間が経ったか、いつの間にか海岸まできていて、潮風が肌に触れた。その景色が、なんとなく見覚えがあって路肩に車を止めた。着替えはないので海に浸かるつもりはないけれど、さく、さくと砂浜に足を付ける。波が来ない位置まで海に近づいて、海へと視線を投げた。

 __俺たちは、何のために戦ったんだ?

 誰かと、そんなことを話した気がする。



 C.E.71年9月27日。地球とプラント間での戦いが終焉した日。それから約2年後。ザフト軍に復帰してミネルバにいた俺は、乗り合わせていたアスハ代表をオーブにお連れするために一緒にいた。彼女をオーブへと戻してから、ミネルバは再び宇宙へと戻る。その合間を縫って、ミネルバにいた面々は時間をずらしながら休息の時間を得ることができた。必要ならばとオーブから提供された自家用車に乗って、友人たちが今住まう場所に比較的近い浜辺へと足を運ぶ。特に、予定は合わせていない。けれど、彼らがいるであろうということは、俺がそこにくるであろうということは、互いにわかっていた。
 浜辺には友人であるキラと、元婚約者であるラクス。そして2人が面倒を見ている子供たちがいた。はるか昔、彼の要望に従って作ったロボットであるトリィが空を飛んだ。
「アスラン。おかえり、大変だったね」
 トリィの動きで彼は、キラはこちらに気が付いたようで車の側にやってきた。2人で車に重心を預けながら、海を見る。
「……あの報道、お前も見ただろ?」
 この時、俺がキラに話したのは、つい先ほど宇宙で起こった、農業プラント:ユニウスセブンの地球落下騒動だ。結果として、それの破壊作業とミネルバによる砲撃によってそれは防がれた。その騒動を起こしたのは、父を、パトリック・ザラを慕っていた人たちだった。
 __我らコーディネーターにとって……パトリック・ザラの執った道こそ唯一正しきものと!
 核を撃った地球軍に対して、ジェネシスを撃った父。それが正しかったとは、当時の俺は思えなかった。憎しみは、新たな憎しみを生むだけだ。でも、きっと父の行いが救いだった人たちもいた。結局、どれが正解かなんてわからない。だからか、常に考える。俺の行いは、本当に正しいことだったのかを。
「犯人は“血のバレンタイン”で家族を失った人たちの一部だ」
「……戦ったの?」
「……破壊作業に出たら彼らがいたんだ」
「どうして……同じことを繰り返すんだろうね……」
 血のバレンタイン。地球軍が、農業プラント:ユニウスセブンを撃った事件。あれがきっかけで、地球とプラントは戦争を始めたし、俺はザフト軍へと入った。それだけを見たら、プラントの動きは防衛で間違いなかったし、地球の行いは許されないものだった。その終焉は、あの日に本当に迎えられたわけじゃないことを、今回の騒動は突きつけていた。
「キラ。前の戦争で、俺はお前に聞いたよな。俺たちは本当は“何”とどう戦わなきゃならなかったんだ? って。そしたらお前は……それも皆で一緒に探せばいいっていってくれた。お前はあの戦いの中でそれを見つけられたか? それとも、今も探し続けているのか?」
 ぐっとこぶしを握った。キラの表情を、俺は見ることができなかった。今でも、俺はまだ過去に囚われている。あの戦争はまだ終わっていない。
「キラ……俺たちは、何のために戦ったんだ?」



 戦争をして、なにかを得られるのは国の上層部と、兵器を作っている者たちだけだ。下々は、一般兵は、得るよりも失うものの方が多い。それでもやっぱり、利益があるから、上層部は武力を手にして、それを行使するのだろう。あとは、もう引くに引けなくなってしまったから、とか。
 思い出す記憶は、基本的に苦しいものばかりだ。戦いに対して苦しんでいる自分。自分の行いが本当に正しかったのかと、永遠に悩んでいる自分。オーブにいる自分を襲う記憶は、なぜかほとんどが苦しい。これを、記憶を思い出してきていると喜んでいいのか、正直わからない。カガリに言ったら、喜んでくれるのだろうか。
 きっと、カガリは記憶を失う前のアスランを望んでいる。療養場所まで与えてくれて、アスハ私邸で過ごすことの多い俺を心配して外にでる手段を与えてくれた彼女。何も返すこともできない自分。

 記憶を取り戻すことが、彼女のためになるだろうか

2024/2/9

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