ガンダムSEED/DESTINY/FREEDOM

アニメ・スぺエディ・リマスターごっちゃごちゃ。DESTINYはTHEEDGE基準
アスラン成り代わり。特殊設定・構成につき注意。名前変換はありません。
正直成り代わり設定は香る程度であまり重要じゃない

 浜辺の散策のあと、車はアスハ私邸の人へと渡して部屋に戻る。すでに日が暮れ始めてはいるが、家主であるカガリはいまだ戻っていない。カガリは、基本的に私邸にいる間は一緒に食事をとりたがるが、朝はともかく、夜に一緒に食事をとる頻度はとても少ない。昼なんてもってのほかだ。ベッドの上に上着を放り投げてから、机の上に目を向ける。車の鍵はすでに返してあって、机の上に置いたのは先ほど上着のポケットから出した財布と身分証。それと、ずっと置かれていた小さな箱が1つ。ずっと開ける気がなくてここで生活し始めてから置きっぱなしだったそれに手を伸ばす。そっと箱を開けば、そこにあるのは紐にくくられた赤い石。知識が正しければ、護り石。カガリがアスランへと渡したものだ。おそらく治療の時に外され、1度カガリへと渡ったのだろう。そしてカガリは箱にいれてここに置いた。今の俺がこの護り石を持っていないことは、きっとカガリも知っているだろう。護り石を握れば、石特有の冷たい感覚が手のひらに伝わった。それでも、握っていると泣きたくなるような気分になった。
 いつまでそうしていたか、扉の前に立つ気配に対して振り向くと、同時にノックの音が聞こえた。
「アスラン様、カガリ様がお戻りになりまして。お夕食をご一緒にどうか、と」
「分かりました。今行きます」
 今日は早かったんだな、と思う。護り石は箱に戻して、そのままドアへと向かった。

「今日はどこまで行ったんだ?」
 食事の合間に話しかけてくるカガリに対して、今日のことを話す。といっても、めぼしいことなんて本当に何もないのだけれど。
「沿岸まで。いいドライブだったよ」
「そっか。気分転換になったのならよかった」
 食卓はこじんまりしている。元々、カガリと一緒に食事をとる者は少ない。この私邸に勤めている者はカガリが雇い主になるからこうして一緒に食事をとることはない。一応“客人”扱いになっている俺か、カガリの後継者候補であるトーヤと呼ばれる少年くらいだ。よく護衛にいるキサカ一佐も、よほどのことがない限り一緒にはとらない。だから、今日も俺と彼女の2人だけ。
「……カガリ」
「なんだ?」
 だから、話すなら今でもある。
「少し、思い出したことがある」
「!? 本当か!」
 驚きの声を上げるカガリ。それに対して、俺の表情は特に変わらない。
「本当に、少しだけなんだ。__カガリ」
 食事中の食器から目を離して、目の前にいるカガリへと視線を向ける。どうした?  とでも言いたげに首をかしげるカガリに対して、気になっていたことを聞きたかった。
「俺は、君をまもれているか?」



「俺は、君をまもれているか?」
 アスランのその言葉に、カガリは何を言っているんだ? と困惑した。今の状況になってしまったのだって、カガリを護った結果だ。けれど、きっとそういうことじゃないのだろう。今のアスランは、アスハ私邸で療養している、一般人と変わりはない。軍服も来ていない、ただの1人の男だ。アスランが、思慮深く、いつも思い悩んでいることを、カガリは知っている。おそらく、今も悩んでいるんだろう。果たして今の状況がいいのか、と。
 過去、第一次連合・プラント大戦においても、そのあとの第二次連合・プラント大戦においても、アスランは苦しんでいた。アスランだけじゃない、カガリも、キラも、ラクスも、その戦争に関わっていた者のほとんどすべてが苦しんでいた。今のアスランは、その苦しみを今も味わっている。ザフト軍からオーブ軍へと移籍して、少しずつ前を向き始めていた頃だったというのに。
「あのなぁ、お前の怪我だって、私を庇ってできたんだぞ。……守られているよ、私は」
 だから、カガリは率直に答えることにした。不謹慎ではあるが、今までほとんど一緒に過ごす時間が取れていなかった状況から、こうして家に帰ってくればアスランがいる状況は、カガリにとっては、少し好ましい状況だった。今のアスランだからこそ味わえるものでもある。カガリも、アスランも仕事に生きていることが多い。特にカガリに関しては国を背負い、国と結婚しているともいわれるくらいには。アスランも、ほとんどを軍人として過ごしている。プラントにいたときも、オーブにきたあとも。
「だから、今は私に守られておけばいい。そのくらいのお返しはさせてくれ」
 カガリの言葉に、アスランはゆっくりとうなずいた。納得してなさそうだな、とカガリは心の内で思ったが口には出さず、食事を再開した。



 あれからさらに数日。俺が目を覚ましてから大体2週間。ずっと置き去りにされた段ボールをようやく広げた。軍服と、おそらく飾っていたのであろう写真。それからデバイス。デバイスについては後で触ることとして、写真に手をのばした。幼い自分と、キラが写っている写真。俺と、母が写っている写真。俺と、同じ赤い服を着た青年らが写っている写真。どれも俺と誰かの関係を示すもの。誰が写っているのかはわかるのに、どういう経緯で撮られたものなのかは、全くわからなかった。飾ってあったはずのこれがここにあるということは、少しは刺激になるようにと気にかけられた結果なのか、それともこれくらいしか私物がなかったからなのか。さすがに長期間無人となる部屋に個人情報の塊であるこれらの物は置いておけなかったのか。まとめたらしいキサカ一佐に聞かなければわからないこと。
 軍には、健忘症のことについては伏せられているらしい。療養期間が長期化する時点で、療養が終了するであろう時期からコンパスへ出向しているという扱いにしたという。これはコンパスの上層部であるキラやラクスが俺の状況を知っているために口裏合わせしてくれているらしい。このまま記憶が戻ればコンパスの出向を終了させてオーブ軍へと戻す。記憶が戻らなかったり、俺が軍に残ることを選ばなければ、そのまま退隊扱いにする。表向きの出向期間までに決めてほしいと、カガリに言われていた。いまだ、その決断は出来ていない。
 写真をとりあえず机の上に飾って、折りたたまれた軍服を広げる。白と青を基調としたオーブ軍の軍服。しまわれた期間が長くて、少ししわになった部分を広げてハンガーで壁にかけた。デバイスも机の上に出して、空っぽになった段ボールをたたむ。椅子に座って、机に身体を伏せながら軍服を見つめた。あれが、ついひと月ちょっと前まで自分が着ていた服。なんとなく、複数の人と写っている写真のように赤色の服を着ていたイメージが強くて、なんだか不思議な感じがした。……そうだ、赤服。
 身体を起こして、再度写真を見る。赤は、ザフトのエリートを象徴する色。それはザフトの制服にも反映されていた。写真に写る者は、俺も含めてその赤を着ている。それに合わせて、医師が最初に話していたアスラン・ザラの経歴を思い出す。“C.E.71年にプラントのザフトに所属、C.E.74年にオーブ軍に入職。”ザフトには3年前後ザフトにいたはずだ。きっとそれまではプラントに。今までの人生の内のほとんどを過ごした場所。
 記憶を取り戻すことに対して、抵抗はある。思い出す記憶はほとんど苦しいもので、わき目も振らずに叫び出したくなるものだ。けれど、きっと。思い出さないとカガリを護れない。具体的なエピソードなどなに一つ思い出していないのに、もうカガリの手を離してはいけないと、心のどこかが叫んでいた。


 その日、夜遅くなったカガリは、アスランが夕食をとっていないと聞いて彼の部屋を訪れていた。外出はしていないとのメイドの言葉で部屋にいるのだろうと思って部屋の扉をノックする。
「アスラン?」
 疲れて眠っているのだろうか? メイド曰く昼間はデバイスを弄っていたようでもしかしたらそれで疲れたのかもしれない。再度ノックするが返答は帰ってこない。カガリが戻ってきた時間は日付が変わるぎりぎりだ。やっぱり眠っているのだろうとカガリは部屋の前から離れた。

 翌日、再度ノックするも反応のないアスランを心配して無理やり開けたカガリの目に入ったのは、窓を開けっぱなしにしたまま、誰の姿もないがらんどうの部屋だった。ないのは身分証と財布、それからカガリがアスランへと渡したハウメアの護り石だけだった。


2024/2/9

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