ガンダムSEED/DESTINY/FREEDOM

アニメ・スぺエディ・リマスターごっちゃごちゃ。DESTINYはTHEEDGE基準
アスラン成り代わり。特殊設定・構成につき注意。名前変換はありません。
成り代わり要素はちょっと濃くなりました。

「シン、少しよろしいですか?」
「えっ、はい。なんでしょうか、クライン総裁」
 コンパス所属ミレニアム内。プラント首都のアプリリウス市に置かれた本部から、宇宙空間にて待機していたミレニアムにやってきたラクス・クラインは、来て少し執務室に入った後に、食堂にいたシン・アスカへと声をかけた。一緒にいたルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレルもまた、その場にいたためにラクスへと視線を向けた。3人は、ミレニアム内に結成された、キラ・ヤマトを隊長とするヤマト隊の面々だ。隊長からではなく、総裁からの声掛けに、3人の中に疑問符が浮かんだ。
「お使いをしてきてほしいのです」
「お使い、ですか?」
 ラクスの言葉に、シンは余計に首を傾げた。
「ええ、ジュール隊隊長、イザーク・ジュールに対して届けてほしいものがあります」
 その言葉にシンが返答する前に声を上げたのはレイだった。
「なぜシンなのですか」
「それがいいと、判断しました。ルナマリア、ならびにレイはミレニアムで待機をしてください」
「ええ?」
「シン1人で、ですか」
「はい」
 3人が、全員ザフトから出向している。ラクスが言っているジュール隊長もまた、ザフトであり、シン以外にも関係はあった。が、3人とも彼と面識はない。同じ戦場に立ったことも、おそらく同じ空間にいたこともあるだろうが、話をしたことはない。
「それは、隊長ならびに艦長からの命令でしょうか」
「はい。キラと、コノエ艦長からは承諾を得ていますわ」
 ラクスはそういって、1つの封筒をシンへと渡した。しっかりと封がされており、中身がなんなのかはわからない。
「準備ができたらジャスティスをお使いください。吉報をお待ちしていますわ」
 そのまま去っていくラクスを、3人は唖然として見送った。彼女が居なくなったのを見届けてから、3人は視線を合わせる。
「なんだと思う?」
「さあ?」
「……」

「ええっと、こちらコンパス所属シン・アスカ。特務任務のためジュール隊長にお目通りを希望する。入艦を許可されたし」
 慣れない言葉を発しながら、シンは近くに停留しているはずのボルテールに発信する。ジュール隊が使用している母艦だ。確認中なのだろうと、再度同じ言葉を言おうとしたところで返答が返ってきた。
【こちらボルテール、ジュール隊。入艦を許可します。右翼より入艦してください】
 女性の声だな、と思いつつ返答してそのままボルテールの右翼側へとシンはモビルスーツを動かす。母艦がジャスティスを認識したところでハッチが空いたため、そのままそちらへ機体を動かした。
 母艦の種類は違えど、宇宙にある艦での、モビルスーツへの扱いは変わらない。決められた場所へと機体を置いて外に出て、ヘルメットを外す。そのまま降りていけば、数人の整備員と、ジュール隊副官であるディアッカ・エルスマンがいた。互いに敬礼にて挨拶を交わして、ディアッカの案内にてシンは艦内を歩いた。
 艦内に、特に珍しいものはない。ただやっぱり大きさに差があるから多少なりとも部屋の配置は違う。モビルスーツの保管庫から、長官室までの道のりも、ミレニアムとは違っていた。
「それで? こっちには使いがくるって連絡だけで詳細がきていないんだが」
 もうすぐ長官室、というところでディアッカがシンへと聞いた。しかし、残念ながらシンにも詳細はわかっていない。本当にただ、使いなのだ。
「クライン総裁から、ジュール隊長への届け物です。中身については、おれ、私も知りません」
「ふうん。ま、ラクス・クラインからならまあいいだろうけど。おっと、ここだぜ」
 シンの返答に納得したのかしていないのか、ディアッカは長官室の前まできてその話について深堀することなく、部屋の扉をノックした。どうぞ、という声を聴いて扉を開く。中には、ジュール隊隊長であるイザーク・ジュールと、現在ジュール隊へと出張中のハイネ・ヴェステンフルスの2人がいた。知り合いがいることにシンは少し驚きながらも、とっさに敬礼を取った。
「いいって。久しぶりだなーシン」
「は、はい」
「ハイネ、お前は下がれ。シン・アスカ、それで、クライン総裁からなにを?」
「あ、はい。これです」
 イザークの言葉でハイネはドアの近くまで下がり、ディアッカと視線を交わした。シンは机の向こう側にいるイザークに対して、ラクスから受け取った封筒を渡した。イザークは仏頂面のまま封筒を受け取り開いた。イザークが中身を見ている間、長官室には静寂が広がっていた。それに耐えられなかったのか、ハイネはそっとシンに近づいて肩を叩いた。
「うわ」
「元気そうじゃん。どう? コンパス」
「えっと」
 ハイネの声に、イザークは1度そちらを向いたが、特に何かを言わずに文書に目を移した。それをみて許されたと思ったハイネは、そのままシンへと絡んだ。
「あのキラ・ヤマトの隊にいるんだろ? ナチュラルも混じった機関だっていうし、大変じゃないか? いやだったら戻ってきていいんだぞ」
「いえ……今のところ特には」
「そう? 帰ってくれば俺の副官立場で迎えてやるからな~」
 最終的に、FAITHに任命された2人はザフト内での地位は同等だ。しかし、ハイネは隊長を務めており、逆にシンは隊員扱い。ミネルバにて第2次連合・プラント大戦を一緒に戦った仲間でもあるからこそ、ハイネはシンを気にかけていた。また、ハイネがミネルバにて隊長をした際の部下パイロットが全員、出向の形とはいえザフトを離れているのも理由なのだろう。
「シン・アスカ」
「はい!」
 文書を読み終わったイザークがシンへと声をかける。そうしてから、内容は真実か? と聞いた。内容について知らないシンは首を傾げた。それが答えだとわかったのだろうイザークは、ディアッカに人払いを頼んだ。
 部屋内には4人。外に誰もいないことを確認して、イザークは口を開いた。
「アスラン・ザラだ」
「アスラン?」
 思ってもいなかった内容に対して、声を上げたのはハイネだった。イザークはそれに対して特に突っ込むことなく続ける。
「アスラン・ザラが表向きコンパスに出向していることは知っているか」
「あ、はい。それはキラ隊長からお達しがありました」
 あくまで表向きで、実際はいないけれどという前置きを置いて、キラがシンたちに話したことをシンはおもいだした。オーブ首脳陣を相手にしたテロ活動で重症を負ったアスランの療養期間を延ばすためにそうしたと。ただなぜ療養期間が延びたのかは聞いていない。ラクスからイザークに宛てられた文書には、そこも詳細に書かれているのだろう。
「アスラン・ザラがオーブから消えたそうだ」
「なんで?」
「しらん! だが、クライン総裁からはプラント内におけるアスランの捜索依頼が来ている」
 その後、イザークはそれと……と前置きして言った。
「記憶喪失、というのは本当か、シン・アスカ」
「え!?  知りませんよそんなの!」
 イザークに振られたシンは寝耳に水だ、と声を上げた。その言葉に驚いたのはディアッカたちも一緒だった。どういうこと? という声に対して、イザークは先ほどよ同じように知らないと声をあげる。
「あのアスランが? 記憶なくしたからコンパスと協力して隠蔽してるってこと?」
「おそらくな。そのアスランが療養中のオーブからプラントに来ている……とクライン総裁はお考えのようだ」
 はぁ、と誰かが息を吐いた。ずいぶんと突拍子のないことだ、とは誰もが思ったが、アスランならやりかねない、とも思ってしまっていた。
「ハイネ、FAITH権限でこの艦を一時的にみていろ。指揮は艦長に任せるからお前は報告を聞いて俺に後で報告しろ」
「ええー? 俺も行きたいんだけど」
「これはジュール隊への要請だ。シン・アスカ、お前はアスランを捕まえ次第コンパスに連行しろ、ついてこい」
 イザークはそう指示を出すと、机の上の端末から艦長へシャトルの用意と、イザークがいない間の指揮を伝えていく。それをききながら、ハイネはディアッカはどうすんの? と聞けばディアッカからもちろんついていくけど? と返ってくる。本来なら長官が抜けるなら副官が残って指揮するのだろうが、ハイネにそれが振られた時点でついていくことは2人の間では決まっていたのだろう。
「シャトルでいくから、モビルスーツは置いていく。あとでちゃんとコンパスにいくようにするからな」
 驚いたまま思考を止めていたシンに、ディアッカはそう言った。それに咄嗟に返答しながらも、シンの頭は未だ混乱状態だった。
 __記憶喪失? あのアスランが?

 シンは2人に言われるがままシャトルに乗り込んだ。ボルテールは非戦時とはいえ作戦行動中なこともあり、そのままアプリリウス市に戻ることはできない。その代わりに、シャトルでアプリリウス市へと向かった。
「なんでアプリリウス市なんですか?」
 2人はさも当然のように向かっていたが、シンからすればなぜそこにアスランがいると踏んでいるのか理解できなかった。シンの問いに答えたのはディアッカだった。
「そりゃあ今のアスランにとって、プラントで行くところっていったらそこくらいしかないし」
「……なんでです?」
「あいつにはもう、家族も、家も、プラントにはないからな」



「仇、うちましたよ」
 フリーダムを打ち取った時、シンはアスランにそう言った。周囲の絶賛する声に、高揚していたのもあった。当時のアスランはフリーダムに機体を破壊され、補充もなかったがために戦場には出られなかった。だからこれは、アスランの代わりにやったのだという意味も込めた。ステラが死んで、そのかたき討ちでもあった。怒るだろうか、喜ぶだろうか、シンはアスランの反応を見てみたくてアスランを見た。
「……ぇ」
 シンの見たアスランは、悲し気だった。それがどういう意味だったのか、この時のシンにはわからなかった。
「__ご苦労だった。今回は報告書を遅らせないように」
 アスランはそういって、踵を返した。すれ違いでハイネがやってきて、シンを労わった。けれど、シンは、そのアスランの表情が気になった。

 あの時のアークエンジェルとフリーダムは撤退していた。ミネルバからの勧告を振り切って、生命の安全よりも信念を選んで。それがあっていたとも、間違っていたともいえない。追い詰めるミネルバと、逃げるアークエンジェル。シンの操縦するインパルスはそれを追いかけるし、キラの操縦するフリーダムはアークエンジェルを護るために防衛する。正直、キラは防衛戦は苦手だろう。これまでの戦禍において、防衛の為に攻めることが多かった彼だ、完全に逃げの姿勢になっている状態の戦いは、やりにくいだろうに。そして逆に攻める側のミネルバとシンは戦いやすかっただろう。だからある意味、見えていた結果ともいえる。フリーダムとアークエンジェルは生死不明になった。
 __キラが死ぬのは、二度目だな。
 一度目は自分が、自爆特攻をかけて死んだ。実際は生きていたけれど。だから機体が無事な時点で、実力はシンの方が当時の俺よりも上だろう。いや、セイバーをアークエンジェルに壊されている時点で、今もシンの方が上かもしれない。戦いに対して一直線なところは。
結局のところ、迷いがあるのだ、俺には。これでいいのかと、結局2年前となにも変わっていないんじゃないかと。こうして今も、キラと敵対していることも含めて。デュランダル議長に恩があることは事実だし、今のところ不信もあるか信用できるところもある。プラントで生まれて、プラントで育ってきた俺にとっては、たとえかつての家がなかったとしてもプラントが故郷であることに間違いはない。今の俺には、そこにしか帰る場所はないのだから。
 __カガリは今、泣いているんだ
 キラが、以前の戦闘で言った言葉がよみがえる。時々連絡を取っていたとはいえ、キラが、フリーダムがカガリを連れさってから彼女とは連絡が取れていない。一緒にいなかった彼女が、オーブでどんな生活をおくっていたのかを、俺は知らない。逆に、俺がプラントで過ごしていた時期を、彼女は知らない。それでも、目指す場所は同じだと、そう信じて生きてきた。それももう、今ではわからない。どこかで、きっと間違えたのだ。もし、プラントに戻らずに、彼女の誘いを受けていたら、なにか違ったのだろうか。でももう、キラが死んだ時点で、彼女に合わす顔は、もうない。もっとも、アークエンジェルが撃沈した時点で、カガリももういないのだけれど。
「……こんなところにいたんすか」
 1人でいて、誰の声もなかったところに聞こえた声に、俺は振り向いた。気配すら感じ取れないほどに、疲弊しているんだな、と心の中で笑った。声をかけてきたのは、先ほどスタッフに囲まれていたシンだ。近くにいつも一緒にいるレイたちの姿はない。
「どうしたんだ」
「それはこっちの台詞っていうか……」
 シンはそのままこちらに近づくと、隣へと立った。じっと見ているのも悪いかと思って、視線を先ほどのように外へと向けた。
「シン」
「なんすか」
「これは、軍人ではなく俺個人として聞きたいんだが……」
 本当は言うつもりも、聞くつもりもなかったが、考える前に言葉にしてしまった。
「フリーダムを撃った時、清々したか?」
「えっ」
「俺は、1度友を殺したパイロットを撃ったことがある。大破された機体から見ても、ほぼ即死。友を殺されて、怒りに任せて彼を撃った。でも、うれしくも、清々もしなかった。使命を果たしたと表彰されても、全く喜べなかったんだ。」

 シンはどうだった? と悲し気に言うアスランに対して、シンはなにも返せなかった。皆からよくやった、と言われてうれしくなかったわけはない。褒められればもちろんうれしい。けれど、フリーダムを討ったから清々したか、憂いが晴れたか、と言われたら。きっと答えはノーだろう。だって、そうしたところで、ステラは還ってこないのだから。
「__っ」
 そこまで解ってから、シンはアスランが何を言いたいのかようやくわかった。オーブにいたころのシンが家族を失ってオーブを恨んでプラントにきて。ステラに出会って、戦場で彼女を失って。それはすべて、誰かのせいだった。だからその誰かを恨んで、討取って。けれどそれをしたころで過去に戻れることも、失った人が還ってくるわけでもない。失ったものは失ったままなのだ。
「軍人として、命令に従うことは正しい。FAITHだろうが何だろうが、上の命令に従う必要がある。でも、その命令が本当に正しいかどうかは、従う従わないとは別に考える必要がある。でなければ、待っているのはただの傀儡としての自身だろう」
 アスランはそういってから、シンの肩を叩いた。いつの間にか、アスランは外から機内へと視線を向けていた。
「シンには、そうなってほしくないから」
 そういって、そのままアスランは機内へと入っていった。その場に、シンだけが残される。結局、ルナマリアがくるまでシンはそこから動けなかった。



「シン、ついたぞ」
「あ、はい」
 アプリリウス市についてから、ディアッカの操縦で車に乗る。助手席にはイザークが座ったため、シンは後部座席を陣取った。イザークは苛ついているのか、ここに来るまでに一言も話していない。重くなる空気を軽くしていたのはディアッカだった。ディアッカに言われてシンが下りたのは、アプリリウス市にある墓地だ。ザフトに所属していた軍人を中心に、市民も多く埋葬されている。けれど、その内のいくつが、空っぽなのだろうか。
駐車場にはもう1つ車が止まっていた。イザークはそれを一瞥し、そのまま墓地へと進んでいく。それについていけば、イザークとディアッカが向かった先に献花がおかれた墓石が見えた。少し距離はあるけれど、ざっとみて3つ。2人がその墓石に向かって敬礼していて、シンもそれに習った。
「まだここにいるな」
「としたら奥か」
「えっと、ここに本当にアスランがいるんですか?」
 確信する2人をよそに、シンはいまだ理解が追いついていなかった。その言葉にイザークは鼻を鳴らす。
「ニコル、ラスティ、ミゲル。俺達の同期と、同じ隊に配属されたやつだ。クルーゼ隊、あいつも俺達もそこにいて……アスランは、全員を看取った」
 補足したのはディアッカだ。看取った、といっても目の前で死んでいく彼らを見ていた、が正しい。モビルスーツに乗っていたり戦時だったりと、彼らは五体満足でここには眠っていない。
「3人に献花を置くなんて、俺ら以外だったらアスランしかいない」
「で、でもアスランって忘れてるんですよね。……俺達のことも」
「そんなもの、会えばわかる」
 イザークはそういって、視線を墓地の奥へと向けた。自然と、シンもそちらを向いた。
「向こうには、誰が?」
「……アスランの母君だ」

2024/2/16

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