ガンダムSEED/DESTINY/FREEDOM

アニメ・スぺエディ・リマスターごっちゃごちゃ。DESTINYはTHEEDGE基準
アスラン成り代わり。特殊設定・構成につき注意。名前変換はありません。
成り代わり要素はちょっと濃くなりました。

 イザークたちが使用していたシャトルに乗り込み、そのままイザークが管理しているボルテールに入った。シャトルから出れば、イザークを待っていたのだろう艦の隊員たちの出迎えがあり、そのまま報告を聞く姿勢に入ったのが見えた。ディアッカの案内で、ひとまず俺とシンは客室へと案内される。宇宙艦の中は無重力状態で、可動性の手すりに捕まって艦内を動く。一応、初めての経験のはずなのに慣れたものなのは、今に至るまでにいやというほど感じた“身体が覚えている”というやつなのだろう。そんなことを考えていれば目的地だった客室へとたどり着き、ひとまずは無重力状態から解放された。
「ミレニアムに連絡とるからそれまでは待機。なにかったら長官室まで連絡してくれ。シンが操作できるよな?」
「はい」
 ディアッカはそう言って客室から出ていった。副官として彼も本来なら忙しい身だ。俺とシンが残されて、気まずい空気が流れる。それを破ったのは予告もなしに開いた扉とそこから入ってきた男だった。
「お帰りー。なんだ、アスラン元気そうだな」
 男はそう言うと近くの椅子に腰かけた。長居する気満々なのが見えてとれる。オレンジの明るい髪を持った男は、たぶん知り合いなのだろうが記憶は彼を思い出さないし、知識としても曖昧でちょっと申し訳なく思った。困り顔なのに気が付いたのであろう男は、本当なんだ、と前置きしていった。
「ハイネだ。ハイネ・ヴェステンフルス。お前と同じFAITHの、な。」
「ハイネ……?」
「そ。ミネルバに一緒にいたんだけど。まあ命あってのものだし生きて会えるだけでも良かったと思うよ」
 そんな言葉を聞きながら、ミネルバとは、と考える。記憶の中でのった艦は、今いるボルテールの他、同期たちと一緒だったヴェサリウス、アークエンジェルとエターナル。ミネルバ、と言われても記憶の中ではピンとこなかった。おそらく、そのミネルバにハイネと、シンと一緒にいたのだろう。アークエンジェルに乗って戦っていた時のことも、その前のクルーゼ隊員として戦っていた時のことも、断片的に思い出しているというのに、そこだけが空っぽでどんな生活だったのかは思い出せないけれどなんとなく2人に申し訳なくなった。

 考え込んだアスランを置いて、シンとハイネは視線を合わせた。顔にも声にも出ていないが驚いているハイネに、シンは頷く。ミネルバにいたときのことを、アスランはなにも覚えていない。シンの名前がわかっただけでも重宝なのかもしれない、と思うほどに、アスランにその記憶がない。逆に、イザークたちとは旧知のように話ができていたというのに。シンもそうだったが、アスランもシンとどう関わればいいのか戸惑っている様子があった。車でもシャトルでも、なんとなく気まずくてシンはアスランにあれこれ聞けなかった。ミネルバにいたときにはよく突っかかっていたというのに。アスランの心情を気にもしないで。
アスランもまた、シンと同じように苦しんでいたと知ったのはシンがストライクを討ったあとだった。結果的にストライクのパイロットであるキラは生きていたけれど、親友を亡くしたとおもっていたアスランの心が悲鳴を上げていたのは事実だ。それがきっと、いつもはシンに対してきつくあたりがちがアスランが悲し気にしていた理由なのだろうと、シンは考えている。そのアスランが、その時のことも含めてすべて忘れているのは、彼を思えばよかったと考えていいのだろうか。
「2人はそのままコンパスに戻るのか?」
 アスランとシンを思考の渦から現実に引き戻したのはハイネだった。それにはっとシンは顔を上げた。
「……そうみたいです。今連絡とってくれているみたいで」
「何にのって戻るんだ? シンはジャスティス乗ってきてるだろ。アスランだけシャトル?」
「あ、どうすんだろ。そこまではクライン総裁なにも言ってなかったし……」
「……ジャスティス……ラクス・クライン……?」
 シンがハイネに対して返している間、アスランは右手で額を抑えていた。痛みに耐えるかのように歪んだ顔が、シンの目に入った。
「アスラン?」
「____」
 アスランが言葉にならない何かをつぶやいた。シンには読唇術が分からないので何を言ったのかはわからない。アスランは痛みに耐えるように目を閉じた。



「あら、ピンクちゃん! やはり貴方が連れてきて下さいましたわね。ありがとうございます」
 キラを殺して、ストライクを撃破した功績から特務隊への異動となって早々に、ラクス・クラインが極秘開発されていた最新鋭のモビルスーツ奪取に加担したと。国家反逆罪で指名手配中だと父、パトリック・ザラ議長閣下に言われ正直理解が追いつかなかった。なぜ彼女が、と。そうして任務を与えられて、今、ラクスの前にいる。自分で作って、彼女へと贈ったハロに導かれて。彼女がかつて初めて歌った劇場へ。
「どういうことですか? これは」
「お聞きになったから、ここにいらしたのではないのですか?」
 こちらの問にそう返すラクスは、逃げも隠れもせず、堂々とそこにいた。親の決めた婚約者としての彼女ではない。俺が彼女に対して義理で接していたのと同じように、彼女の本当の姿はこちらなのかもしれない。恋愛なんてなにもわからなくて、少なくともこれに関しては親の敷いたレールに乗った。少しでも父上の役に立ちたくて。それが彼女の求めているものではないことは、わかっていた。
「では本当なのですか! スパイを手引きしたというのは! 何故そんなことを!?」
「スパイの手引きなどしてはおりません。キラにお渡ししただけですわ、新しい剣を。」
「……は?」
 けれど、彼女の言っていることはわからなかった。なぜここにキラの名前が出てくるのか。だってキラは、私が、俺が殺したのだから。
「今のキラに必要で、キラが持つのが相応しいものだから」
「キラ……? 何を言ってるんです? キラは……あいつは」
「貴方が殺しましたか?」
 ストレートに言ってくる彼女に、俺は唇をかんだ。そう、その通りのはずだ。
「大丈夫です。キラは生きています。」
 けれど、彼女の言葉がそれを否定する。それでも、実際の状況をみたらそんなことあり得ない。心中するつもりで、あの攻撃を仕掛けたのだ。
「嘘だ! 一体どういう企みなんです、ラクス・クライン! そんなバカな話を……あいつは……あいつが生きてるはずがない!」
 手に持った拳銃を彼女へと突きつける。
「マルキヨ様が私の元へお連れになりました。キラも貴方と戦ったと、言っていましたわ。言葉は信じませんか?」
 信じれたらどれほどよかったか。けれど心のどこかで何かが叫ぶ。あの状況で、ニコルたちが死んで、キラが生きているなんて、などと。
「ではご自分で御覧になったものは? 戦場で、久しぶりにお戻りになったプラントで、何も御覧になりませんでしたか?」
「ラクス……」
 頭をよぎるのは、ニュートロンジャマー・キャンセラーが搭載されたという機体。彼女が、キラに渡したというフリーダムにも搭載されている。搭載を先導したのは、父であり、開発したのはニコルの父親でもある。
「アスランが信じて戦うものは何ですか? 戴いた勲章ですか? お父様の命令ですか?そうであるならば、キラは再び貴方の敵となるかもしれません。そして私も」
 ラクスはそういって立ち上がって近づいてくる。自分でラクスに向けていた拳銃が、ひどくぶれているのはわかっていた。
「敵だというのなら、私を討ちますか? ザフトのアスラン・ザラ!」
「俺は……」
 討てるなら、話も聞かずに討っている。けれど、そのあと迎える結末を、俺は知ってしまっている。拳銃を下ろしたところで、劇場の扉が開いた。黒服の男らが近づいてきているのが分かり、ラクスを背後に隠した。
「御苦労様でした、アスラン・ザラ」
「……なるほど、つけられていたんですね」
 父は、ラクスを捕まえるようにと言っておきながら信用などはなからしていなかったのだろう。それにたいして、酷く傷ついている自分に少し苦笑した。
「流石婚約者ですな。助かりました。さ、お退き下さい。」
 彼らの言う通りに彼女を差し出す。父を信じればそれもできるだろう。けれど
「国家反逆罪の逃亡犯です。やむを得ない場合は射殺との命令も出ているのです。それを庇うおつもりですか?」
「……」
 __お前は奪取されたX10Aフリーダムの奪還と、パイロット、及び接触したと思われる人物、施設、全ての排除にあたれ。
 すべての核を放棄するとしていたプラント。核動力を使用可能としたニュートロンジャマー・キャンセラー。その矛盾は、大義名分によって消え去っている。果たしてそれが本当に正しいのか。少なくとも、平和への道のりではないことだけはわかる。
 拳銃の引き金を黒服へと向けようとして、別方向からの銃撃音が響いた。一瞬黒服が別方向へ意識を向けたところで、ラクスを抱え込んで舞台から飛び去る。崩れた壁に彼女を引き込んで様子を見てみれば、誰かが、きっとラクス側の人間であろう人が、こちらへと向かってくる。
「ありがとう、アスラン」
「もうよろしいでしょうか、ラクス様。我等も行かねば……」
 撃ち抜かれ倒れ伏した黒服たちを、ラクスは気にしない。敵なのだろうからそれが普通なのだろう、軍人ならば。けれど歌姫であった彼女も“そう”である現状は、彼女があの屋敷で笑っているだけの存在ではないこと示している。
「マルキヨ様は?」
「無事お発ちになりました」
「ではアスラン、ピンクちゃんをありがとうございました」
 ラクスはこちらを向くと、そういった。別れの言葉か、なにかを言おうとしてはたしてそれを彼女に言っていいのかと、結局口を噤んだ。たぶん、彼女はそれを望んでいない。
「キラは地球です。お話されたら如何ですか? お友達とも」
 どちらも生きているから、それができるのだと。はたしてそれを、キラが受けてくれるのか。今のキラを、俺は知らない。



【コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。パイロットはモビルスーツにて待機。くりかえす__】
艦内放送が鳴り響き、はっと顔を上げた。その瞬間にハイネは部屋から出ていこうとする。思わず腰をあげたが、それはハイネによって止められた。
「2人は一応客扱いだからここにいろ!」
 返答するよりも前に扉は閉まり、ハイネの姿は見えなくなった。シンは客室に設置してある通信機を触ってコックピットへと通話を繋げる。
『こっちは忙しい、後にしろ』
「俺も出ます! ジャスティス持ってきてますし!」
『駄目だ! 今此処でコンパスの機体を出させるわけにはいかん! 承認されている宇宙域でしか動けないことを忘れるな!』
「でも」
『くどい! おとなしくしていろ!』
 ぷつん、と無慈悲にも通話を切られるもシンはそわそわと落ち着かないようだった。こちらには何処と戦闘になっているかもわからないが、プラントが相手取るのは基本的にはいつも地球軍だ。ザフト脱走兵やブルーコスモスの線もあるが。しかし、今の状況では何が起きているかはわからない。今度こそ腰を上げて、扉へと向かった。
「アスラン?」
「コックピットに行く」
 文句は言われるだろうけれど、ただ黙って客人でいられる人間じゃないことくらい、イザークはわかっているだろう。今の俺のことは、たぶん俺よりも周りがよく知っているだろう。だから、俺はたぶん、思った通りに動けばいい。
「シン、建前は使いどころが重要だ」
「へ?」

 コックピットに入れば、他の乗務員が驚く傍らでイザークはこちらを一瞥しただけで驚きもしなかった。目の前には、複数のモビルスーツが戦闘しているのが見え、奥にはおそらく母艦があるのだろう。
「状況は?」
「……ローラシア級が1、モビルスーツが4機。元々こちらが追いかけていたやつらだ」
「ザフト脱走兵か」
 よく見れば、量産型が3機と、装飾されたザクファントムとグフイグナイテッド。それぞれの好みの色に装飾されていて、逆に目立つな、と思った。
「母艦がいるのは確実だが姿がみえん」
「ミラージュコロイド? ローラシア級に搭載事例はない」
「ああ、どうせ使い捨てだ。向こうが動けばどこにいるかわかる」
 ミラージュコロイドのステルス機能。モビルスーツには搭載される事例はあるも、母艦に使われる戦艦に、少なくともプラントにおいては開発完了実績はない。開発中のものの可能性もあるが、すでに型落ちになりつつあるローラシア級に搭載する予定はザフトにはないだろう。
「2人で撃破しながら誘い出すのか」
「やってもらわなければ困る。手こずるようなら俺もでる」
「だったらやっぱ俺が」
「出向扱いといえコンパスを出せないと言ったはずだ」
 もし、シンがザフト軍のままだったら上官のイザークの命令で出撃できる。しかし、今はコンパスに所属している時点で指揮はそちらに従う必要がある。コンパスがどういう立ち位置なのか正直わからないけれど、別組織扱いなら勝手には使えないし、動けない。つまり、コンパスでも所属もなければ動けるのか。
「……イザーク、俺がいく」
「はあ!?」
 ぽろっと出た言葉に大きく反応したのはシンだ。自分でも少し無謀かな、とは思わなくもないけれど
「貴様はオーブ軍だろうが。なおさらだせん」
「……いや、“アスラン・ザラ”はここにいない」
「は?」
「え?」
 ちょっと強引な気もするけど、実際プラントに訪れたのはアスラン・ザラ名義じゃない。たぶん、公にはアスラン・ザラはコンパスに出向中で、ここにいるはずはない。別名義って管理は大変そうだけれど便利なんだな、と思った。
「“アスラン・ザラ”はコンパス出向中。ここにいるのは“アレックス・ディノ”」

 屁理屈、とシンはアスランの言葉を聞いてそう思った。と同時に馬鹿なのかな、とも。名前がどうであれアスランであることはわかるんだからどのみち出られないだろ、と。けれどアスランの中ではなんかうまくはまったらしく、そういうことで、と言ってコックピットを出ていこうとする。イザークの側にいた赤服の顔が引きつっていたのがシンには見えた。イザークは堂々と貴様は! と怒鳴ってから格納庫へと連絡を回す。
「俺の機体の発進準備を進めろ! それとパイロットスーツ! アスラン・ザラがそっちに行ったらさっさと着せ替えて乗せろ!」
「……いいんですか、あれ」
 シンの言葉に、イザークはいいわけあるか! と怒鳴り返す。けれど、そのあと着々と進む、出撃中のディアッカとハイネへの指示と艦内の指示はアスランをサポートするものだ。
「だが、あいつが黙ってみているだけのヤツじゃないことぐらい知っている」

 格納庫につけば、特に慌てられることもなくグフイグナイテッドへ案内された。あんな言い逃げの仕方ではダメかとも思ったけれど、そこは融通を利かせてくれたらしい。白の機体の外装については特に思うところはないけれど、中のOSについては起動して出力設定等見ていると、イザーク専用に調節されたのがよく分かった。
「……モビルスーツに関しての記憶は、ないはずなんだけどな」
 OS起動画面に流されるプログラムを見るだけで、その性能と機能が分かってしまって一人笑った。失ったとされるエピソード記憶の中に何が含まれて何が含まれていないのか。実際に体験してみないとわからないというのは不便だ。自分が何を忘れているのかは、やっぱり最初に確認するべきだった。そこは、キラの問いに向き合う必要があったんだろう。
「アスランザラ、グフイグナイテッド、出る」
 出撃してすぐに通信を開いてディアッカたちとつなげる。イザークから連絡は行ったのだろう、すぐに回線が開いた。
「戦えるのか?」
「ああ、だが勝手がわからないから……サポート頼む」
 ブースターをふかして速度を上げる。そうすればすぐに戦闘しているモビルスーツたちが見えた。どれが味方であるかはわかっている、だから残りは敵だ。
 ザフト脱走兵は、パトリック・ザラの支持者だ。ジェネシスを発射し、多くの人々を殺した、自身の父の支持者。あれが地球に落ちていればプラントと地球の関係は永遠に交わることはないし、どちらもがどちらかを滅ぼすまで戦いは続いていただろう。結果としてプラントが勝ったとしても、はたしてその先にプラントの未来はあったんだろうか。けれど、その未来が正しいと信じて、戦う人たち。それが真に正しいかなんてわからないし、それを断罪できる立場でもない。それでも、あのような状況は起きてはならないのだと、そしてそれは、息子である自分が止めないといけないのだと、間違った責任感をいまだに抱いているのはわかっている。父との決別の瞬間を覚えてはいないけれど、その焦燥感は覚えている。

2024/2/19

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