夢うつつ

3

兄と慕う人物に連れられるまま、少年は神社に足を運んだ。長い長い石段を登り切った先にあったのは、どこにでもありそうな神社だった。探索する前に体力の尽きた少年は、鳥居のすぐそばで崩れ落ちた。ぼうっとしていれば、いつの間にか兄はいなくなっていて、少年はゆっくりと身体を起こした。辺りをぱっと見回してみるが、探し人の姿はない。本当は声をかけられていたのだが、少年は気がついていなかったようだ。いや、もしかしたら気がついていながらもその内容を把握できていなかったのかもしれない。
少年は敷地内を歩きだし、ちょうど目の前に位置する拝殿の階段まで行く。左には絵馬掛けがあり、右には少し離れているが社務所があった。さっきまでいた鳥居から拝殿までは参道が続き、途中に参道を挟むように狛犬の像が2つ。少年のいる場所からは見えないが、拝殿の奥には本殿があった。拝殿の階段を上り、賽銭箱の前まで来てポケットに手を入れて眉をよせた。どうやら賽銭を持ち合わせていなかったようだ。少年はとりあえず手を合わせてから階段を下りた。すると、先ほどまではいなかったはずの1人の青年が参道に立っていた。青年は少年に気がついてにこやかに笑った。
「お参りっすか?」
青年は人なつっこそうな笑顔を浮かべたまま少年に近づく。青年は同年代よりも長身の少年よりもなお大きく、見上げなければきちんと顔がみれない。金髪の髪は風でさらさらとなびき、笑顔がとてもまぶしく見える。そんなところだ、と返答すると青年は笑ったまま手招きをした。不審に思いながらも近づくと、青年は歩き出す。
「どこにいくんだ?」
「社務所っすよ。せっかくここまでのぼったんだし、疲れたでしょ?」
青年の言うとおり、少年にとってはここまでの道のりは長かった。たとえ少年が体力に自身があろうとも、多少の疲労はあった。少年はとりあえず青年へとついて行くことにした。
「あ、おんぶしようか?」
「いらない!」
「照れなくてもいいっすよ?」
「してねぇ!」
にっこりと笑ったままの青年の言葉に、少年は眉をよせて反感する。すると青年が笑った。それに少年は不機嫌になる。ぎゃーぎゃー言いながらも、青年は社務所の扉を開け、少年を中へと招いた。
「・・・あれ、お客さんっすか」
玄関には靴がいつもより1足多くあり、それは少年の靴と同じくらいの大きさだ。青年は不思議に思いながらも広間へと続く扉を開く。そこにはここの主と少年と同じくらいの子の姿。その姿を見たとたん、少年が中にかけていったことから、どうやら一緒にきた友人であることが分かった。青年はこの部屋の主のそばに行き、その様子を見守っていた。
しばらくして少年たちが帰る頃となり、青年に送られて少年たちは神社までの石段を下りていた。来たときは感じなかった途方もない高さに、少年は頭を抱えた。上ってきたよりは短いが、それでも10分近く石段を下り、下までついた頃には日が暮れていた。青年は石段までで町までは行かないらしく、そこで少年たちに別れを告げて石段をまた登っていった。青年はあの社務所に住んでいるのだろうか、と少年たちが思考を巡らせても真実は分からない。少年たちは帰路につきながら先ほど行った神社の話で盛り上がる。日が暮れて人影の少なくなった道で少年たちの声だけが響く。
家のそばまで来たところで、少年がふと思い出したように口を開いた。
「そうだ。俺んち引っ越すんだって」
少年の言葉に兄はぽかんとした後、酷く驚いた表情を浮かべた。それに気がついているのか気がついていないのか、少年は言葉を続けた。
「なんでも親父の仕事場が変わるから、引っ越すんだと。場所は忘れたけど・・・どこだったかな」
「そう、なんだ」
「でも休みには戻ってくるぜ?電話とか手紙もあるしな」
少年はそうつづけ、兄が進むべき道とは別方向へと進んで振り向いた。さみしそうで、しかしそれを表に出さないようにしている……どこか不思議な表情のまま、少年は笑った。また明日、と少年は言った。その言葉に兄は言おうとした言葉を飲み込んで、また明日と返した。

2013.8.11-2013.9.1

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