知らぬ空へと羽ばたく鷹

13

4月、5月と月は流れていく。無事に一軍へと上がった俺と緑間は、昔と変わらずにバスケに熱中し、チャリアカーでの通学をしている。一軍に上がるのが少し楽だったのは、昔の記憶があるからか、それともあの2人の先輩にしごかれたからなのかは不明だ。本日もまた、人事を尽くすのだと言わんばかりに緑間は居残りをしている。それは自分も同じで、緑間とは別のコートにてボールをもって動き回っていた。
ボールが地に当たる音と、バッシュがこすれる音だけが体育館に響く。動きを止めて緑間の方をみると、緑間はこちらには目もくれずにひたすら3Pを打ち込んでいる。相変わらずきれいな3Pなことで。俺もがんばらないと、と再度ボールを持ったところで、扉のそばに人影が見えたことに気がつく。金色というよりも蜂蜜色の髪は、俺が知っている中では3名だが、ここにいるのは1名でしかない。なにか忘れ物でもしたのだろうか。

「せんぱーい!!!どーしたんですか?」

ばたばたと扉に近づいて顔を覗かせる。その瞬間、身体が不自然な状態になったが俺は決して悪くない、はず。俺の身体を不自然にした原因・・・宮地さんは俺の頭をつかんだままぐりぐりと押しつけてくる。

「痛い痛い痛い!!!暴力反対!!」
「うるせーよ。てめえらいつまでやってんだ。いい加減帰れ」

後半の言葉は、俺の姿を横目で受け流した緑間にも向けられていた。ボールがゴールネットに当たる音がやみ、緑間がこちらを向いた。緑間は不機嫌そうに落ちていたボールをとった。

「まだ終わっていません」
「うるせぇな。鍵締めの俺がどんだけ待ってると思ってんだ。轢くぞ」
「宮地さんの轢くぞ、いただきましたー!」
「死ね」
「辛辣!」

緑間はくるりと身体の向きを変え、ボールを宙へと投げた。それはまるで吸い込まれるようにゴールへとはいる。ピキ、と宮地さんが笑ったのは見ないふりだ。緑間はそのまま転がっているボールを入れ物にしまう。

「終わりました。」
「さっさと片づけろ。高尾もだ」
「へーい」

宮地さんに手を離してもらい、自分も転がっているボールを拾う。といっても俺が使っていたのは少ないし、緑間もすでにいくつか片づけ終えているからすぐ終わることだろう。

「ったく、バラバラで練習しねぇでさっさととっておきの練習でもしとけ」
「えー?まだ身体追いつきませんって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「・・・!?」
「おら、さっさと着替えてこい」

そそくさと消えていった宮地さんを俺たちはただ見送った。しばらく呆然としたあと、ゆっくりと緑間の方を向く。

「し、真ちゃん・・・」
「・・・いや、まさか」
「いやいやいや!まさかじゃないでしょ!?これ宮地さん覚えてるって!」
「宮地さんが覚えているとは思わなかったのだよ・・・っ」
「よし、特攻しようぜ真ちゃん!」
「は?」
「宮地さんを問い詰める!」
「どうしてそうなるのだよ」
「ただ俺が知りたいからなのだよ!」
「まねをするな!」

片づけ終えたらしい緑間の腕をつかんで引っ張る。いやがるそぶりを見せながらも表だった抵抗をしない緑間をつれて体育館を出る。そしてそのまま部室にいるであろう宮地さんの元へと急ぐ。
緑間しかいないと思っていた過去の記憶を持つ人。宮地さんも覚えているのならば、さらに秀徳のチームが強くなれる。
部室前についてから再度緑間を見る。緑間はため息をついてから好きにしろと言う。俺はそれに笑って返事をしてから思いっきりドアを開けた。こちらを見た宮地さんの顔が少し引きつっていたのは気のせいだ。にっこりと笑ったまま俺は宮地さんに向かってダイブした。

______________________

「だあああああてめぇどけ!!!」
「宮地さんが答えてくれたらいいですよー?」
「つか緑間が覚えてるとかきいてねぇよ!!」
「俺も知りませんでした」
「って、なんで俺が覚えてるって知ってるんですか」
「あ?今吉が言ってたぞ」
「たしか桐皇のPGでしたね」
「うえ、今吉先輩のこと知ってるんすか」
「同じ3年だし。試合で会うし」
「ですよねー・・・」


**


ざわざわと騒いでいる会場の中。応援席から「不撓不屈」という文字が見える。そしてコートには誠凛の選手たち。正確にはもう1校いるはずだが、なぜだかその姿はもう見えない。
視線を正面からずらすと、黒子と目があった。俺に見つかるのは分かっていたのか黒子もこちらを見ていたようだ。そしてすっと火神がこちらに近づいてきているのを見て、思わず緑間の方をみた。緑間はあのときのやっぱり同じように手には熊のぬいぐるみをもっている。

「よう。おまえが緑間真太郎・・・だろ?」
「そうだが。」

火神が再度口を開こうとする前に、緑間が再び言葉を走った。

「さすがに手に文字を書かれるのは迷惑なのだよ」
「・・・は!?」
「黒子からおまえが覚えているのは聞いているのだよ」

すっと緑間は目を細めた。

「あのときのように行くとは思わないほうがいいのだよ」

まさか緑間から挑発するとはなぁと思いながらも俺も黒子へと近づく。そのまま後ろから肩を抱いた

「よう」
「どうも。」
「全中以来だな。火神も覚えてるとは思わなかったわー」
「ええ。案外いるものですね」
「そうだな。・・・今回はまけねーぜ?」
「いいえ、僕たちが勝ちます」
「ふうん・・・」

無表情で、しかしはきはきとした言葉は、やっぱり嫌な気になるもので。それは言葉に対してなのか、そういった黒子に対してなのかは分かっていないようで分かり切っている。

「やっぱおまえ嫌いだわ。」
「そうですか」

「いつまでしゃべってる2人共!いくぞ!」
「へーい」

黒子から手を離し、緑間に近づく。まるで虎のように警戒している火神に思わず笑いそうになりながらも身体は秀徳の先輩がたが居るほうを向く。緑間は火神から黒子に視線をすこしずらした後、目をそらした。

「行くぞ高尾」
「はいはーい」

IH都予選、Aブロック。あのときと同じようなトーナメント構成になっている今回。さすがにあのときのような成果を出すわけにはいかない。無事にIHにはでなければ。

「おまえらまたなんかやったな」
「やってませんってー」
「ええ。前よりは。」
「おい」
「・・・大坪さん。今回の試合、すこし多めにボールもらってもいいですか」
「はぁ?おい木村、軽トラもってこい」
「どうした」
「いえ」
「緑間ってば、昔のチームメイトに会ってテンションあがってるんすよ」
「うるさいぞ高尾」
「・・・まぁいいだろう。」
「ありがとうございます」

かわいそうな相手チーム。これじゃただ緑間にぼこぼこにされる試合になって終わりだ。それかチームの調整に使われるがおちだ。
結局、相手校との試合はこちらのトリプルスコアで終わりを告げた。

そして

「相手が虎であろうと兎であろうと獅子のすることは一つ。全力で叩き潰すのみだ!いつも通り勝つのみ!!」
『おう!!!』

「ぶっ倒れるまで全力出しきれ!!」
『おお!!!』

IH都予選、Aブロック決勝が、ここに始まりを告げた。

2013.6.9


inserted by FC2 system