東京鬼祓師パロ

04 菖蒲に八橋

「そういや一期、武器の調達ってどうしてるんだ?」
「故意にしてもらっている所があります。無論、こちらも関係者ですが」

目の前にある敵を木刀で一刀両断する。裂かれた隠人は、断末魔をあげて跡形もなく消え去る。
この洞はいくつもの仕掛けがあり、時にはそれが隠人を招く。隠れるように存在する花札を回収しながら、仕掛けを解除し、奥に進むというのは、少々骨が折れる。鶯殿はともかく、鶴丸殿は白札でもあるため、洞に行く際にはかならずついてきた。本来ならば一緒じゃなくてもいいのだが、鶴丸殿はうなずかなかった。

「ふむ。なあ一期、木刀をもう2本ほど調達出来ないか?金なら出すから」
「いいですが・・・・・・どうするおつもりで?」
「俺と鶯用。さすがにただ見ているのもな。協力してもらっている手前、なにかしらはしないとな。それに・・・・・・」
「・・・・・・?」
「いや、追々だな。暇なときにでも調達しておいてくれ。そうすれば__________」

ふと、鶴丸殿の視線が洞の奥へ向いた。つられるようにそちらを見るが、そこには扉があるだけでなにもない。じっと真剣に奥をみていた鶴丸殿は、扉に近づくと、開けず、手をおいた。

「鶴丸殿?どうなさったんですか?」
「___止まれ。その人間をどうするつもりだ。」

ひどく低い声で、鶴丸殿は口にした。それは私が鶴丸殿と契約した、あのとき以来に聞く音。

「君のその行動は、人間を苦しめるだけだぞ。他はともかく、君がそれを望むのか。」

その言葉で、目の前の扉は支えを無くしたかのように思い切り開いた。駆け出す鶴丸殿を追いかけると、そこは広い空洞になっていた。そして周囲には消え去る間近の隠人がいて、中央には人と、札が舞っていた。

「大丈夫ですか?」

人を抱え起こすと、どうやら同じ学園の生徒のようで、見覚えのある制服を着ている。青い長い髪が地面についてしまうが、仕方なし。揺するも、起きる様子はない。

「一期、1度外に出よう。鶯にも連絡して、どこか休める場所に連れて行くべきだ」
「ええ。そうですね。・・・・・・先ほどのカミフダは」
「逃げられた。まったく、人の子を思うならばこんな暴挙に出なきゃいいものを」

カミフダは、一見はただの花札ではあるがここに意思がある。それが良いものか、悪いものかはそれぞれだが、どうやらさきほど鶴丸殿が見つけ、そして逃亡していったのはどちらかといえば友好的なものなのだろうか。

「行こうか。彼にも話を聞かないといけないしな」





「貴方がたが助けてくださったのですね・・・・・・感謝いたします」
「通りかかっただけですので。えっと」

あれから、鶯殿に連絡をとり、現在は神社へと来ていた。客間で休ませれば、ほどなくして意識が戻った。ようやく日が暮れるもの遅くなったとはいえ、すでに日は暮れている。鶴丸殿はすでにここに泊まる気らしく、座布団をならべてくつろいでいた。

「左文字江雪、といいます。3-1所属になります。」
「俺は五条鶴丸。それと粟田口一期、古備前鶯だ。全員3-2所属だな」
「そうですか。よろしくお願いいたします」

左文字殿はゆっくりと体を起こし、まだ本調子ではない顔色をしながらも頭を下げた。

「左文字・・・・・・たしか近くに総本山がなかったか?」
「ええ。私の祖父が執り行っております。どうやら、貴方も?」
「ここは名も無き古い神社だ。末端さ。」
「そうですか・・・・・・」

どうやら左文字殿の実家も、神社に関係のある場所のようだ。あまりそちらについては詳しくないので首をかしげると、同様に鶴丸殿も興味がないのか首をかしげた。

「まぁ、この時間から家に帰るのもあれだろう。今日は泊まっていくといい。ただし、客人用の布団を出すのは手伝ってもらうが」
「雑魚寝しようぜ!」
「今の季節では寒いんじゃないですか?」
「・・・・・・よろしいのですか?」
「なに、1人2人増えたところで変わらん。」

鶯殿はそういうと、ずずっと茶を啜った。

「江雪、君はなんで倒れていたんだ?」
「・・・・・・帰りに、人影を見たのです。私たちと同じくらいか、それよりも背の高い、人影を。気になって追いかけて見ると焼却炉につきました。そこからは・・・・・・」
「人影、ですか?」
「・・・・・・鶯」
「すでに回収済みだが」

以前、私たちが焼却炉に行った時の人影は、鶯殿が用意していた式神だった。人形に切った式神を動かし、人影と見せかけていた。しかしそれはすでに回収されている。あの焼却炉には、カミフダ以外はなにもないはずだ。

「・・・・・・どうやら、なにか知っておられる様子。あの人影のことも」
「貴方は見える人なのですか。」
「ええ。弟たちは見えませんが、私は幽霊などを見ることがあります。人影も、その一端かと思ったのですが」

どうやら別のなにかが関わっているのですね、と彼はいった。鶯殿はなにも言わず、ただ見ている。鶴丸殿も考えるそぶりを見せる。こちらも、あまりカミフダのことを伝える訳にはいかない。

「・・・・・・君には関係ないことだ」
「・・・・・・そうですか」

彼はとくに気にすることもなく、進められた茶を飲んでいた。すっと鶴丸殿が近づいてきて、耳元に口を寄せる。

「明日は日曜日だ。鶯に任せて、早朝から探索したほうがいいかもしれない。」
「・・・・・・わかりました。詳細はあちらで」



その次の日。まだ日は昇っていない、だいたい5時頃だろうか。すでに鶯殿は起きて茶を啜っていた。外では髭切と膝丸が動いており、まだ左文字殿は休まれているようだ。

「それじゃあ、鶯。頼むな。」
「ああ。だが無理はするなよ。終わったら追いかける。」
「よろしくお願いします」

外に出れば、冷たい風が吹いていた。私服を着て、洞のある学園に忍び込まなければいけない。速やかに、ばれないようにする必要がある。

「おや、行くのかい?」
「気をつけろ。なにかわかったら伝える」
「すみません。お願いします」
「行ってくる」

それから、学園に向かって走り出す。体が温かくなるにつれて、冷たい風がきもちよくなってくる。

「ところで鶴丸殿、なにか気がついた様子ですが」
「あそこは秋の洞だ。そうすれば屑札はともかく、集まるのは秋札だ。特に、カミフダで一番強い力を持つ光札は、その季節に対応した洞に集まることが多い。」
「秋札で光札というと、柳に雨ですね」
「そのとおり。そして柳に雨はカミフダで唯一、人が描かれているんだ」
「人、ですか」
「ああ。花札で言うと柳に小野道風と言われる。平安時代の人間、小野道風が描かれている。色々その理由とか、逸話とか在るんだが・・・・・・それはおいといて。左文字が見た人影、おそらくだがこの柳に雨が化けた姿だ。なぜ左文字を呼び込んだのかはわからないが・・・・・・」
「・・・・・・行ってみればわかるでしょう。おそらく最下部。これ以上人を呼び込まれたら・・・・・・」
「隠人にされたらたまらない。急ごう」





「・・・・・・なるほどな」
「ご一緒させてもらいます。私にも、知る権利があるでしょう」
「あの2人には怒られるだろうが・・・・・・仕方ないか」

2017/10/26


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